すべての始まり
私の名前は神沢まりあ。両親と弟と4人暮らしの普通の女の子。両親の影響で、弟と一緒に空手を習っているけど、高校では陸上部に所属している。
「まりあって良く食べるよね!」
「食べるのが私の生きがいだからね。」
「でも、あんまり食べると太っちゃうわよ。」
「太ったっていいじゃない!」
「そんなこと言って、まりあは好きな人いないの?」
言われて気付いた。私は恋をしたことがない。恋なんかしなくても毎日が十分楽しいから。
「茜は好きな人いるの?」
「いるよ。同じクラスの山下君。彼って中学が同じだったんだよね。」
「そうなの? 南中だったの?」
「そうよ。彼、中学時代もすごくモテたのよ。」
「ふ~ん。」
「なんかまるで興味なさそうだね。」
「男はどうでもいいわ。それより、なんかお腹空いちゃった。ロックに寄ってかない?」
「また、ハンバーガー食べるの?」
「だって、あの店の照り焼きバーガー美味しいじゃん。」
「そうだけどね。」
私は、茜と一緒にロックに行った。夕方の時間だけあって店内は満席状態だ。しばらく席が空くのを待って、やっと座ることができた。
「まりあって空手やってるんだよね?」
「そうだよ。どうして?」
「まりあって前世は男だったのかもね?」
「そんなことないよ。空手は両親の影響だから仕方がないよ。」
「なら、弟君も空手やってるの?」
「そうだよ。翔太はこの前の大会で優勝してた。」
「強いんじゃん。まりあはどうなの?」
「普通じゃない。」
「ふ~ん。」
店内にガラの悪い男達が入ってきた。他の客も私達も目を合わせないように無視している。
「まりあ。そろそろ帰ろうか?」
「そうね。」
私は茜と一緒に店を出た。帰り道、茜が突然聞いてきた。
「まりあは生まれ変わったら男になりたい? それともまた女になりたい?」
「どっちでもいいけど。女だったら可愛く生まれたいかな。」
「まりあは十分可愛いじゃん。」
「茜のように美人で、胸があって、頭がいい人には分からないのよ。」
「私、そんなんじゃないわよ。」
私達が大通りから脇道に入ると、先ほど店内に入ってきた男達が声をかけてきた。
「そこのお嬢さん。俺達と遊びに行かないか?」
「私達急いでいるんで!」
「そんなこと言わずにいいじゃねぇか!」
男の一人が茜の腕を掴んだ。
「やめてください! 人を呼びますよ!」
「呼んでみろよ!」
茜が3人組の男に羽交い絞めにされそうになった。私は思わず男達に蹴りを入れ、拳をお見舞いした。
「グホッ」
「てめぇ、やりやがったな! ブスはお呼びじゃないんだよ!」
2人が私の前に出た。そして、1人は後ろにいる。
「茜! 人を呼んできて!」
「わかった! すぐ呼んでくるから!」
茜が大声で助けを呼びながら大通りに走って行った。私が、前の2人に神経を集中させていると、背中に何か熱いものを感じた。
「痛い!」
背中を手で触ると、温かく濡れている。手を見ると血がついていた。
「おい! ずらかるぞ!」
“私、刺されたのかな? このまま死ぬの? まだ死にたくない! どうして?”
3人組の男達が逃げていく。私は薄れいく意識の中で、必死に大通りに向かって歩き始めた。だが、途中で力尽きてその場に倒れた。
「ピーポーピーポー・・・・」
意識を取り戻すと、なぜか体が軽い。しかも私は空中にいた。なんか不思議な感覚だ。下を見ると、パトカーが沢山停まっていた。救急車もいた。茜が泣きながら大声で叫んでいる。
「まりあー! まりあー! しっかりしてー!」
“もしかしたら、担架で運ばれてるのって、私?”
「そうよ。あなたは死んだのよ。」
目の前に小さな光が現れ、私に話しかけてきた。
「私、死んだの?」
「そうよ。あなたは刺されて死んだの。もう、ここにいる必要はないわ。私についてきなさい。」
私が戸惑っていると、小さな光はさらに言ってきた。
「ここにいたらダメなのよ。お願いだから、言うこと聞いて!」
“私、これからどうなるんだろう?”
そんなことを考えながら、小さな光の後をついて光の渦の中に入って行った。渦の中は光のトンネルになっていて、もの凄くきれいだった。しばらく見とれながら歩いていると、真っ白で何もない空間に出た。
“ここ、どこ?”
「ここは死後の世界よ。」
”死後の世界って本当にあるんだ~。“
本当なら死んだことで動揺するはずなのに不思議と動揺がない。まるで、私は自分の死期が分かっていたかのように冷静でいられた。辺り一帯にものすごくいい香りがしてきた。この香りが私を落ち着かせているのかもしれない。目の前に現れた女性に聞いてみることにした。
「死んだら何もないんじゃないの?」
「違うわよ。あなたのいた世界にもいろんな国があったように、死後の世界にもいろいろな場所があるのよ。でも、ここに連れてこられたということは貴方は善人のようね。」
なんか善人と言われて嬉しかった。でも、善と言われるようなことは何もしていない気がする。
「私は普通だと思いますけど。」
「そうね。でも、人の物を盗んだり、人の悪口を言ったり、人を傷つけたりしたことはないでしょ?」
「はい。」
「あなたは自分の危険を顧みず、友達を助けようとして死んだの。それって善人の証拠よ。」
「は~。」
「そんなあなたに選ばせてあげるわ。」
「何をですか?」
「今後の事よ。」
「今後の事?!」
「そうよ。これからいくつか聞くからそれに答えてね。」
「はい。」
なんかこれからのことを決めなければいけないようだ。でも、私は昔から選択が苦手だ。テストの時もほとんど感が外れる。
「最初の質問よ。死後の世界で修行するか、それとも生まれ変わるか、どちらか選んでくれる?」
私は迷わず選んだ。
「生まれ変わりたいです。」
「わかったわ。では、次の質問よ。A・B・C・Dの中のどれがいい?」
「それって何ですか?」
「あなたが生まれ変わる世界よ。」
「えっ?! 今までいた世界じゃないんですか?」
「もちろん、今までの世界も選択肢の中に入っているわよ。」
「それ以外はどんな世界なんですか?」
「地球よりも機械文明が発達している世界、進化して肉体が存在しない精神世界、地球よりもはるかに文明が遅れてるけど魔法のある世界、その3つね。」
私はかなり悩んだ。なかなか決められない。できれば、元いた地球に生まれ変わりたい。
「そろそろ時間よ。答えてくれる?」
「なら、Cでお願いします。」
「魔法の世界ね。」
“やっぱり私は選択が苦手だ~! 地球がよかったのに~!”
「そんな残念そうな顔をしないで、魔法の世界もそれなりに楽しいわよ。じゃあ、最後の質問ね。」
“どんな質問だろう。男か女か聞かれたら女よね。使える魔法の種類を聞かれたら、生活に便利な火がいいかな。”
「生まれ変わるにあたって、1つだけ願いを叶えてあげるわ。何でも言って!」
“どうしよう? 魔法もいいけどお金も必要よね。言葉が通じないのも困るわ。”
「なかなか決まらないようね。なら、何も願いは無いってことでいいかしらね。」
私は焦った。このままではまずい。そう思った瞬間、思わぬ言葉を口にした。
「美人にしてください。どうせ生まれ変わるなら、世界で一番美人がいいです。」
「わかったわ。なら、その希望を叶えましょう。」
思わず口にしてしまったが、もうしょうがない。
「さあ、時間よ。次の旅に行ってきなさい。頑張って生きるのよ。」
私は大事なことを聞いていないことに気付いた。
“この女性は何者なんだろう?”
「あ、あの~、あなたはだれです・・・・・か?」
私が謎の女性に話しかける前に再び意識が途絶えた。
「ウエヌス! ちゃんと説明しなくていいの?」
「なにが?」
「確かにあの世界には魔法があるけど、ほとんどの人族はもうろくに魔法が使えないわよ。」
「だって、昔は人族だって魔法を使っていたじゃない。それに、魔族やエルフ族は未だに魔法を使うわよ。」
「そうだけど。でも、あの子は人族に転生するんでしょ?」
「いいのよ。これもあの子の修行なんだから。それに、時機を見てあの子の封印も解いていくつもりだからね。」
「あなたがいいならいいわ。でも、必要な時はいつでも言ってね。みんなもそのつもりでいるから。」
「ありがとう。マジク。」