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山桜 『瀬原集落聞書』  作者: 櫨山奈績
瀬原修一
5/8

長の館

 修一は夜、重蔵と一緒に寝ていた。


 一緒に居ると重蔵は時々、護摩の匂いをさせていた。

 修一は、其れが別に嫌ではなかった。

 重蔵は、修一を手中(しゅちゅう)(たま)(ごと)く扱った。

 修一は、重蔵に、容姿才能を誉めそやされて育った。




 重蔵が居ない時は決まって、一番若い巫女が、修一を自分の布団に入れて、一緒に寝てくれた。


 其の巫女の、肌理(きめ)の細かい肌や長い黒髪から、甘い匂いがした。

 そして、布団の中で寄り添うと、人肌が暖かかった。

 修一は、其の優しい感じが大好きで、一緒に居ると、とてもよく眠れた。

 其の巫女は、何か、古びた着物を寝間着にしていた。

 元は何か白地に赤っぽい花模様だったらしいが、其の柄が退紅色(たいこうしょく)まで色褪せていた。其の筒袖の寝間着に、これまた褪せた、赤っぽい帯を締めていて、寝る前は、長い黒髪の先を、一つに結わえていた。

 其の姿が、普段の白い着物姿とは全く違っていて、修一には、とても綺麗に思えた。




 十人の巫女は、広い部屋一間に一緒に寝泊まりしていたので、重蔵と一緒に寝られない日も、巫女と一緒に寝る時は、十人が同じ部屋に居て、幼い修一は、安心して、楽しい気分になった。


 巫女は本当に全員、長い髪で、後ろ姿では時々見分けが付かなかったが、修一は、こんなに髪の長い女の人達を、此処に居る十人以外知らなかった。

 巫女達は仲が良く、互いの髪を梳き合って、美しく整えていた。

 其の光景は穏やかで、修一には美しいものに思えた。

 巫女達は時々、修一の髪も櫛で梳いてくれた。

 身の回りの世話をしてくれる下働き達が遣るのとは別の行為で、修一は、仲間に入れて構ってもらえている(よう)で嬉しかった。

 修一の髪も当時は肩を越すくらいまでの長さは有り、其れを少し高い位置で一つに括るという、里の子供に多い髪形をしていたので、梳き甲斐が有ったかもしれない。


 何と無く、皆の髪と自分の髪が、色が違う(よう)な気はしていたが、修一は其れを気にしない(よう)にしていた。

 修一は、其の(まま)、巫女達に容姿才能を誉めそやされて育った。




 巫女は(とこ)処女(おとめ)、という意味が、当時の修一には理解出来ていなかった。

 神の嫁だから人間に嫁ぐ事は出来ない、という話だったが、其の説明では、修一は完全な理解に至れなかった。

 ()(かく)、巫女が何処かに嫁ぐには、巫女を引退する儀式をする必要が有るそうだ。

 滅多に巫女を辞める者は居ないそうだが、下働きは全て、体力的に巫女を続けられなくなった、元巫女だったらしい。

 巫女を辞めると、巫女の儀式の事はスッカリ忘れて、儀式を再現出来なくなると言う。


 幼かった修一は、特に感慨も無く、不思議な話として其れを聞いた。

 ただ其れだけだった。


 本当は男の人が巫女に触ってはいけない、という話と関連して考える(よう)になったのは、もっと後になってからである。


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