魔廊
この世には、
誰も行く気にもならない、
気にされる事もない惨めな場所がある。
それは例えば
毛髪や緑膿菌の死肉が浮かぶ
下水道の中の小さな溝だ。
墓地の、死者に群がる甲虫や
閻魔虫が蠢く
打ち捨てられた木板の下だ。
そうした臓物の心膜横洞の様な
誰も見向きもしない魔廊を・・
犬が乾いた骨を噛み砕く音がする
行き止まりの場所を
我々は知ろうともしない。
強心剤の錠剤を飲みながら、
己の心臓の音が停止するその時まで
私達は明るい場所の事、
明日の事だけを熟考する。
表彰される台の事や、
生活に必要な洗剤の棚の事、
スズランの骸を挿す花瓶、
神を求める美しいミサの事を考える。
だが、そういった放置され、
永遠に来訪者のいない魔廊にこそ
神の栄光は存在するのだ。
その鉄紺色の無人の神殿でこそ
真理は讃えられ、
煌々と世界を照らし続ける。
ああ!!皆その事について知らないのだ!!
我々が失ったもの。
例えば、青春時代の渇望や、
人生で最も輝いていた友との日々、
最愛の人の命・・・
その全てが誰からも見捨てられた魔廊で
輝き続ける。
この世で最も蔑まれる場所で
無慈悲な場所で
乾いた虚無の骨を、
いもしない犬が噛み砕く音のする場所で、
キリストの数式は解かれ、
あらゆる真理は帳尻が合わされる。
それでも私達は、
輝かしい場所しか見ようとしない。
表彰される台の事や、
生活に必要な洗剤の棚の事、
スズランの骸を挿す花瓶、
神を求める美しいミサの事を考える。
しかし、いつの日かついに
その強心剤の錠剤が尽き、
己の心臓の音が止まる響きを聞く時、
その瞬間に人は気づくのであろう・・
真に見るべき場所について・・
行くべき場所について・・
想い、命、スズランの花瓶・・・
全ての有る物が収まるべき場所について・・