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第9話 商談

~~~ 桐生庭:応接室 ~~~~~~~~~~

桐生の屋敷の1室。

応接室にて、番頭の時谷、沙樹、風雷の3名が

何やら商談の話しをしてる様だ。


桐生領での時谷の役目は、領内での(あきな)

全般を管理、把握することを行う。特に

農家、商人の台帳確認、納税の計算、

藩への上納金算出など、お金に関する計算を

一手に引き受けていた。


風雷「台帳など書いたことがないのだか。」

沙樹「風雷様。

   受け取った金額と使った金額を

   記入するだけです。

   慣れるまで沙樹が記入致します。」

風雷「それはかたじけない。

   沙樹殿のご厚意に感謝する。」


そう、風雷が診療所を開設するための手続きを

してる最中なのだ。

昨夜、沙樹殿が、父上である尚隆頭首へ駆け寄り、

風雷への家の貸し出しと、診療所目的での利用を

なかば強引に許可させたのがきっかけである。

そして次の日の朝、番頭の時谷に風雷が

呼び出され今に至る。


沙樹「仕事も手伝わせてください。」

風雷「そこまであまえる訳にはいかん。」


沙樹「わたくしがしたいのです。

   おそばに居させてください。」m(_ _)m

風雷「では町のみなさんと変わらず接すると

   約束するならよかろう。」


沙樹殿は、行く先々で困っている人がいれば

必ず手助けする人柄であった。

荷物を運んでいる人がいれば一緒になって

手伝うし、時にはお店の売り子をしたりと

町中に慕われる存在でいる。


風雷はそんな沙樹を独占させたくない。

もっと言うならば、損得を考えずに行動する

沙樹を眺めていたいと感じていたのだ。


沙樹「はい。これからも変わりなく

   町の皆さんとお付き合い致します。」

風雷「ならばよかろう。」


風雷「この場合、沙樹殿は使用人に

   なるのだろうか?」

沙樹「滅相もございません。

   一銭も受け取れません。」


風雷「これは遊びではない。

   受け取らないと言うのであれば

   この話はなしだ。」

沙樹「かしこまりました。

   風雷様の想いのままに致します。」


風雷「ということだ。」

時谷「沙樹様が使用人とは!

   これまた面白いことになりましたな。

   台帳には使用人への支払いは

   記載しないので、何人いようと

   私どもには関係のないこと。」


風雷「左様か?」

時谷「沢山雇ったふりして帳簿を誤魔化す

   輩が居りますので。」

風雷「なるほど。」


時谷「大体理解されたようですな。

   では具体的な金額を提示させて頂く。」


時谷「家賃は銀十匁(ぎんじゅうもんめ)(1万3千円)、税は収入の3()(3%)

   月毎に収めて頂くとする。

   支払いできないとならば半年まで先送れる。

   と言った内容で如何か?」

風雷「んーん。私には判断できん。」


時谷「桐生では、ありえない好条件であります。」

風雷「左様か。なぜそこまで?」


時谷「尚隆頭首の意で御座います。」

風雷「恩に着る。進めてくれ。」


時谷「かしこまりました。

   証書は既にお作りしております。

   風雷様ご自身で名前を記入されれば

   成立であります。」

風雷「保証人が尚隆頭首殿の名であるが?」


時谷「間違いございません。

   通常は保証人はおりません。ですので

   うちから一方的に契約破棄できるものだが、

   この証書はできないものとなっておられる。」


風雷「この様な不埒者(ふらちもの)をどうして信用なさる?」

沙樹「父上は風雷様をお気に召したのでしょう。」

時谷「同感致す。」


風雷「なるほど。

   ここまでされて逃げたのであれは一生の恥。

   名を書くとしよう。」


風雷は、頭首のお墨付きを頂いた形で

医者として始めることができることとなる。


今まで1つの地に留まることはせず、

闇医者として全国を転々として来た。

目的は優紀乃を探すため。


この地に来て沙樹と出会い。

衣食住を提供して頂いたにも関わらず、

商いまで後押ししてくれるとは。

風雷は今までの生活が真逆となり

現実ではない感覚でいた。


風雷は証書に名を刻み、契約を成立させる。


沙樹「風雷様。

   あのお宅は風雷様のものです。

   お布団とか必要でしょう。

   これから買い物に出かけませんか?」


風雷「自分の家か。不思議な感覚だな。

   今日から新居に住むとしよう。」

沙樹「ここ(屋敷)を出られるのですね。

   なんだか寂しいです。

   うちの食事処にいらしてください。

   私が朝夜を提供します。」


風雷「流石にこれ以上世話になれん。」

沙樹「風雷様。違います。

   使用人としての仕事の1つです。」


風雷「沙樹殿と細かく契約を交わす

   必要があるな。

   それまで、好きにするがよい。」

沙樹「はい。使用人として身の回りの

   世話をさせて頂きます。」


風雷「沙樹殿は楽しい人だ。

   では買い物とやらに出掛けるとしよう。」

沙樹「はい。」


~~~ 商店街 ~~~~~~~~~~

沙樹「風雷様?」

風雷「なんだ。」


沙樹「看板はどうされますか?」

風雷「看板とは何のことだ。」


沙樹「診療所のでございます。

   目立つよう大きな物にしましょう。」

風雷「いらんだろう。

   人など来んのだから。」


沙樹「そうですけども。

   私は在った方が誇らしく感じます。」

風雷「沙樹殿だけに喜ばれてもな。

   それはある程度儲けてからだ。」


沙樹「おっしゃられる通りです。

   先に必要な物から揃えないとですね。」

風雷「なんだか楽しそうだな。」


沙樹「はい。未来がどうなるか。

   楽しみです。」


店主「お似合いの二人だね。」


団子屋の店主が沙樹に声を掛ける。


沙樹「やめてください。」

店主「亭主って訳でもねぇよな。」


沙樹「失礼ですよ。

   こちらはお医者様です。」

店主「医者でしたか。それは失礼。

   団子、食ってかねぇか?

   ほれ。もってけ!」


店主は、串に刺さった団子を1本。

沙樹の前へ差し出す。


沙樹「売り物は頂けません。」

風雷「ダメですぞ。沙樹殿。

   店主に恥をかかせるでない。」


店主「お!あんたいい男だね。

   お前さんにも1本。どうだい!」


店主は両手に1本づづ団子を差し出す。


風雷「私は結構。」

沙樹「風雷様。

   恥をかかせてはいけませんよ。」(^^ )


風雷「まいったな。

   では有難くとしよう。」(;--)

沙樹「わたくしも。」(^^ )


2人は団子を受け取る。


店主「茶を入れるからそこに座りな。」


言われるがまま、店先に出ている2人掛の

長椅子に腰かけた。


そして風雷はふと周囲を見渡す。

商店街を歩く人や商売人が

みな笑顔であることに気づく。

なんと治安が良く、幸せに満ちた町なのだろうと

感じる。


原因は分かっている。

沙樹殿だ。

身分に関係なく、誰に対しても優しく接し、

人を信じ、見返りを求めない姿勢が、

住民の心を動かしたに違いない。

少なくとも商店街の人たちはみなそうだ。


風雷はここに来て数日だというのに、

すでにこの町の住民も町の雰囲気も

気に入ってしまっている。

人と関わらないように生きてきた

風雷にとって初めての経験である。


彼女の存在が、町の人だけでなく、

風雷までもが、染まろうとしつつある。

沙樹殿は不思議な存在だ。


風雷「居心地の良い町だな。」

沙樹「優しい人たちですよね。

   わたくしくこの町が大好き。」(^^ )

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