第63話 密入国
~~~ 関所付近 ~~~~~~~
卯二つ時(朝5時半)。
あとー刻(30分)もすれば関所が
開かれるころ。
いつもならば5名ほどで細々と審査する場所で
あるのだが、今日は何やら人が多い。
関所の周辺には何もなく、通行人も少ない。
閑静でのどかな場所であにも関わらず
今日に限っては、にぎやかだ。
下っ引き達や侍など総勢20名以上が
配置されている。
しかも国境沿いの見回りまでも強化されいる。
その情景を遠くから眺めている者がいる。
風雷である。
朝一番で関所を通り抜けようとここまで
来たものの、関所の様子を見て正攻法で
抜けるのは難しいと判断したのである。
だれがどう見ても、増援された者達は
自分を捕らえるために配置されたとしか
思えない。
風雷は関所を通らずに隣国へ行く方法を
模索する。
考えられる方法は2つ。
1つは船である。そして、もう1つは
山を越えて密入国するというもの。
前者の船は、関所と同じく港で
多くの侍どもが配置され、厳重に審査が
行われていることだろう。
となると、残るは密入国しかない。
これもこれでかなり難易度が高い。
まず、山の国境付近には見張りが
いるということ。
その見張りに見つかれば問答無用で
首をはねに来る。
問題はその見張りどもに勝てるか、
ではない。
戦闘となる前に必ず仲間を呼ぶのだ。
次々に来る増援と戦うこととなる。
そして倒し続け、国境越えに成功した
としても隣国へ密入国者の情報が
送られることとなる。
結果、行った先の国でもお尋ね者となり
何のためにこの国を出るのか
わからなくなる。
風雷は大きく迂回し、森林の道なき
道を歩く。
にもかかわらずだ。
国境付近に近づくと、見張りを目撃する。
そしてまた大きく迂回するも
必ず国境付近には見張りがうろうろ
している。
こうなるとどこへ行っても同じである。
風雷は夜になるのを待つ事とにした。
夜であれば、見張りは提灯を持ってる
からこちらから見つけやすい。
逆にこちらは相棒がいるので灯りは不要だ。
灯りがなければ見つかりにくい。
なので国境越えは夜を待つこととした。
あてもなく歩き続けると1件の小屋を
発見する。
外観からして人が住んでる気配がない。
ちょうどいい。
ここで夜まで休息することとした。
戸に手を掛けようとしたとき。
女性「開けるな!」
突然、誰も人がいないと思われてた場所で
風雷の真後ろから女性の声が発せられた。
声の方へと振り返ると風雷の知る者である。
診療所へ置き去りにして来た女子だ。
どうしてここにいるのだ。
凛 「どうしてここに居るかって顔ね。
あなたを殺すのは私だからよ。
ここで死なれては困るもの。」
風雷「助けに来たのか?」
凛 「助けには来たけど、いざ戦闘となれば
私がとどめを刺すわ。」
風雷「なぜ、ここに来ると分かった?」
凛 「当然の疑問ね。
京の国に行くのでしょ?図星かしら。
国境を越える者は皆、
この場所へとおびき寄せられる。
そうなるよう国境周辺の人員が配置
されてるのだから。
そして、そこの小屋の戸を開けたら最後、
鐘がなって囲まれるのよ。」
風雷「なるほど。
だから戸を開けるなと申したのだな。」
凛 「戸を開けなくても危険よ。
そろそろ見回りが来る頃だから。
さぁ、どうします?
私を仲間にするなら助けるわ。」
風雷「私を殺すと宣言する者を仲間にと?」
凛 「そうよ。」
風雷「逃げる手段はあるのだな?」
凛 「無論だわ。
何度も京の国へ出入りしてるもの。」
凛 「3カ月。
3カ月は手を出さないと誓う。
だから、京の国へ行ったあとも
私を同行させな。
それが助ける条件。」
風雷「3カ月も手を出さん?信用できんな。」
凛 「それは私も同じよ。
京の国へ入ったとたん逃げられたら
この身体では追いつけないわ。」
時間がない。
迷っている余地などない。
突然、女子が話すなと合図をする。
草むらに隠れ身をひそめ、
来いと無言で手招きをする。
風雷はそれに応じ、女子の真横へ行き
同じ姿勢を取る。
おそらく見回りが来るのだろう。
案の定、小屋の裏から見回りが1人現れた。
風雷と凜は身動きさせず息を飲み
見回りの動きに目で追う。
その見回りは、周囲を見渡してる。
どうやら風雷達には気付いてない様子。
♪ガサガサ
突然頭の上から何か落ちて来て、
風雷はとっさの判断でそれを払い
のけてしまった。
払いのけた物は木の葉である。
問題なのは、その動作で肘が草に
当たり音がなってしまったということだ。
見張りは風雷が潜んでいる辺りを凝視する。
そして、ゆっくりと近づいて来た。
これはまずい。
幸いにも風雷達が隠れてることにはまだ
気づかれてはいないが、このまま風雷達が
動いても動かなくても見つかってしまう。
風雷は思念伝達で相棒へ指示を出す。
♪ニャー
相棒の黒猫は見張りへ向かって走り出し、
見張りの前へ姿を現す。
そして、見張りの側を通り抜け
走り去って行った。
見張りの足は泊まり、猫を目で追うも
追いかけることはなかった。
先ほどの音が、猫の仕業だと認識して
くれたのか、見張りは方向を変え、
別の場所へと移動する。
そして風雷達の視界から姿を消した。
2人の緊張が和らぐ。
風雷はこの女子を信頼できると確信する。
そして、相棒が戻って来ると定置の肩に乗る。
頼りになる相棒だ。
風雷「案内を頼みたい。」
凛 「交渉成立かしら?」
風雷「左様だ。
お主から逃げぬと誓おう。」
凛 「付いて来て!」
風雷は京国への案内人役をお願いした。
女子が先頭を歩き、風雷はその後を付いて行く。
一時(2時間)は歩いただろうか。
似たような風景の所を凜は迷わずに右へ
曲がったり左へ曲がったりと直進せずに進む。
風雷は最初どの辺を歩いているか把握できて
いたが、さすがにくねくね歩かれては無理だ。
地理的にどこをどう歩いて来たのか、
現在どこにいるのか理解できてない。
これで本当に国境を越えられるのだろうか、
騙されるのではないのか、不安が頭を過る。
おそらく見張りを避けるべく進んでるものと
信じたい。
風雷は吉原を出てから食事にありつけて
いないが、体力的には今のところ問題はない。
なんせ吉原の女郎達に、
診察という名目で食事して、満腹の状態で
来たのだから。
女子が立ち止まり、身を低くする。
風雷はそれに合わせ身を低くした。
すると見慣れない服装をした者が現れる。
おそらく国境沿いで監視する者だろうが
何者だ。
風雷に笑みがこぼれる。
その服装は京の物であるからだ。
すなわち、風雷はいつの間には京の国へ
入っていたのである。
そして、当たり前の事だが京国側にも
見張りがいるということに気づかされた
ということになる。
ここで安心してはならない。
密入国が見つかれば、京国でお尋ね者となる。
彼女を案内人にしてよかったと実感する
のであった。