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第58話 結果

~~~ 奉行所 ~~~~~~~

奉行所内の庭園。

風がなく静寂(せいじゃく)な時間が流れる。

だが、この場には多くの者がいる。

ある1人が発するお言葉を待って全員が息を

飲んでいるところであった。

その者はお奉行様である。

審議が終わり、今まさに罪人に対し罰を言い

渡そうとしてるところだ。


お奉行「井口殿より申し渡す。

    その方、あろう事か相馬の年貢を

    略奪した上、前桐生の領主をも殺害

    しようとした。

    さらには、浪人を集め藩に対し

    反旗を(ひるがえ)そうと計画。

    全て重罪である。」


お奉行「次に武田殿。

    その方、清華家(せいがけ)の家系で

    ありながら、城内の内密を漏洩した上、

    井口殿と共闘し藩に対し反旗を

    翻そうと計画。

    こちらも重罪である。」


井口と経頼は目が泳ぐ。

重罪と言い渡された時点で自分らの結末が

どうなるのか見えてしまった。

これまでの行いが走馬灯のように駆け巡り

どこで間違えを犯したのか考える。


お奉行「では、双方共に同じ罰を言い渡す。」


井口と経頼は目をつむる。

彼らの心情としては、このまま時間が止まり

永遠にこの後の言葉を発しないでくれという

気持ちである。


お奉行「打首獄門(うちくびごくもん)。」


一番重い罰が言い渡された。

打首獄門とは、罪人を縄で縛り、罪状を

記載した札と共に奉行所から処刑場所まで

一般市民にさらすというもの。

そして処刑場で首をはねられ、3日間

一般市民に見せしめとしてさらされる

こととなる。


お奉行「続けて武田家は右大臣から参議へ

    身分を格下げとする。

    以上をもって審議を終了とする。」


井口と経頼は顔面蒼白である。

この世の終わりのような顔とはこれを指す

のであろう。

まぁ、終わりなのは本人たちなのだが。


~~~ 隔離された町 ~~~~~~~

二条家の小部屋

薬師である武蔵(たけぞう)は格闘していた。

担当7名の容態が急変したからである。

元々は10名の患者がいたのだが、

3名が息を引き取り、現在7名となっていた。

だが、その7名も危ない。

死線をさまよい始めている。

手の施しようがない。


こうなることは分かり切っていた。

麻疹という病は妖怪の仕業である。

であるから対処方法はなく、

助かる見込みは低いと習って来た。

生きるか死ぬかは運次第だとも。

患者の10名に運がなかったのだ。

そして、自分は今のところ運が良い

ということになる。

もしかしたら偽医者の薬が効いている

可能性は十分ありえる。

運なのか薬なのかは、はっきいりとしない。


武蔵は悩む。やれることはもう何もない。

このまま時が経てば残り7名の患者も死ぬ。

ならばと、ある1つの実験が頭を過る。

改めて自分の身体を分析すると、依然

熱があり、体中の赤い斑点はあるものの

体調はすごぶるいい。

若干熱が下がったのだろうか、

もうろうとしていた思考が、今では

はっきりしている。

薬の効果かもしれない。


そこで、我が患者にも偽医者の薬を

試してみようという決意が芽生えた

のである。

医者として患者を実験に使うのは

後ろめたい気持ちはある。

『済まん』と心のなかで謝罪しつつも

自力で飲めそうな3人へ薬を飲ませた

のである。

これでこの3名が改善されれば、

薬は本物だという証明になる訳だ。


ー-今川家ー-

風雷は最初の拠点に戻っていた。

受け持っている患者は、

今川家が約300名。

二条家が約500名。

個人宅30名ほどいる。

ざっくり800名近くの患者を

診てるということになる。

亡くなった者は3名。

風雷が診察を開始してから増えた

患者は50名に登る。


薬の量は風雷の想像を超え

圧倒的に足りなかったが、

薬草探し班のガンバリにより、

間に合いそうな感触を得ている。


もうこれ以上、患者は増えない

だろうと風雷はふんでいる。

理由は、病気に対する知識が民衆に

知れ渡り、気を付ける方法を身に

付けたからだ。


まだ気は抜けない状況ではあるが、

なんとか乗り切れそうだと、

風雷は考えながら庭へ出る。


和江「あら、お医者様。いつこちらへ?」

風雷「来たばかりだ。」


米屋の奥さんが、食事を届けに

ここへ来たところのようだ。


和江「休んでないだろ?」

風雷「あんたもだろ!」


和江「ほれ!これ食べな。」


和江は、風雷におにぎりを差し出す。


風雷「助かる。」

和江「遠慮はいらん。沢山食べてくれ。

   お医者様に倒られては困る。」

風雷「分かった。

   遠慮なく頂くとしよう。」


和江の好意に応えてはいるが、

正直米はいらない。

風雷にとっての食事は人の血だ。

風雷はバンパイアである。

米を食べたところで消化されずに

分解されて終わるだけ。

毒物を食べたのと同じ扱いである。


ところで肝心の血はというと、

診察というなの名目で

患者から少しづつ摂取している。

なんせ患者は800名いるのだから。

風雷がまったく休まずに動けてる理由は

そこにある。


風雷「おにぎりで相当店の米を使った

   のではないか?

   あと2週間程度はもつか?」

和江「倉にまだ仰山(ぎょうさん)ある。

   2週間で直せるんかい?」


風雷「無論だ。」

和江「ほんなら心配いらんがね。」


風雷「助かる。米の代金を払おう。

   金10両あれば足りるか?」

和江「何でお医者様からもらうんかね?」


風雷「店の商売品を全て使い果たしたら

   困るのでは?」

和江「この辺一帯の武家様から(ぜに)っこ、

   仰山もらったがね。

   心配せんでいい。」


風雷「慈善稼働でなかったのか?」

和江「幻滅したかね。」


風雷「いや、安心した。

   銭持ってる奴からもっと

   搾り取るといい。」

和江「意外とあんたも悪だね。

   ますます気に入ったわ。」


ー-次の日の朝ー-

二条家の小部屋


武蔵「あー-あぁ。」


今朝、武蔵が目を覚ますと患者が3名

亡くなっていた。

現在の生存者は4名。

うち偽医者の薬を飲んだ3名は息がある。

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