第48話 地元
~~~~ とある住宅街 ~~~~~~~
人通りの多い大通り。
他人のことなど気にせず多くの人が行きかう。
そんな中、注目を集める人物が居た。
その者は大きな木箱を背負い、肩に黒猫を乗せてる。
そして右腕には小さな米俵なような物を脇に挟んで抱えていた。
そう風雷だ。人里離れたとこから人が密集する場所へと
戻って来たのである。
凜はというと、当然のことながら例の宿で寝かしてる。
置き去りにして来たと言う方が正しいかもしれない。
女主人に金十両(80万)手渡し、1か月間看病をしてもらう
条件で凜を置いてきた。
風雷にとっては決別であり、もうあの女子に
会うことは二度とないだろうと感じている。
風雷は周囲の目など気にも留めず、地元の商店街を目指し
歩むのであった。
あと、少しで我が診療所へと到着する。
その周辺には知り合いは沢山いる。
みな、無事だろうか。それだけが脳裏から離れない。
何十年も人と関わらないように生きて来た風雷が
商店街の人たちに会いたいと願っている。
そして出来るだけ多くの人を助けたいと。
不思議な感覚である。
風雷にとって診察とは合法的に食事をするためのもの。
今は助けたいという気持ちの方が強い。
風雷自身も人格が変わったと感じている。
この先を曲がれば、沙紀と共に歩いた
なじみの川が現れる。
そして、その先に我が診療所だ。
♪南無阿弥陀仏・・・
何やらお経が聞こえて来る。
お坊さんの声だ。1人や2人ではない。かなりいる。
角を曲がると。
川の近くで焚火を囲んで、10名ほどのお坊さんが
お経を唱えている。
これは一体何事だ!風雷は近づく。
川を渡る橋に、板が張られ通れなようにされている。
そして、封鎖している板の前には、2名の下っ引きが
立っていた。
下っ引きは役人の手下だ。
要するに、国が橋を渡らせないようにしてると
いうことだ。
周囲には野次馬も沢山いる。
風雷は、事情を聴くべく下っ引きの正面へと立つ。
下っ引き1「何用だ?」
風雷「橋を渡りたい。
済まぬが通してくれぬか?」
下っ引き1「それは出来ない相談だ。
誰も渡らせるなと勅命を受けてる。」
風雷「私は富中町の者だ。通せ!」
風雷の言葉で、下っ引きの2人は2歩下がる。
下っ引き1「ひぃ~。
殿方、まさか病持ちではあるまいな?」
なるほど、風雷は彼らの反応で理解した。
要するに商店街周辺の連中は病に侵され、
町ごと民を閉じ込めてるということだ。
となると他の場所へ移動しても同じこと。
中へ入る道は存在しないだろうと推測できる。
風雷「私も病に侵されておる。
いいのか、私がここにいて?
お主らにも、周囲の人にもうつるやも知れんぞ。」
下っ引き1「それなら話は別だ。今、開ける。
下がっとれ!」
こうして風雷は地元の土地へと足を踏み入れる
ことに成功した。
だが、通りを歩いても人を見かけない。
住宅街でありながら、明かりが灯っている家がなく。
不気味なほど静かだ。町に人がいる気配を感じない。
通いなれた場所であるにも関わらず不気味だ。
♪ドンドン、ドンドン
風雷「誰かおらぬか?」
適当な家の玄関を叩くが返事がない。
まさか、全ての住民が亡くなったということ
ではあるまいな!
であるならば、路上に人が倒れてる者が居ても
おかしくない。
町から人が消えたように思える。
もしかして、住民はどこかに連れて行かされたのか?
町の中へ侵入したのは失敗だったのか?
いろいろなことが頭を駆け巡る。
♪ドンドン、ドンドン
風雷「誰かおらぬか?」
手当たり次第に各家の扉を叩くも反応がない。
地上の生物は自分しかいないような感覚である。
男「そこで何している?」
十字路から人が突然現れた。
風雷「住民を探しておる。」
男 「お主、何者?」
風雷「私は医者だ。治療に参った。」
男 「左様であったか。
この辺の者は今川家の道場に集まっておる。
ワシについて来るがいい。」
男が先導し、風雷は後をついて行く。
今川家へ向かう間、先導する男と現状について
会話した。
それによると、この町全体で麻疹の病が
流行っているのだという。
大半の人が病に侵され、お寺や道場に集められてる
とのことだ。
病に侵されてない者は、外に出ず自宅で待機
してるそうだ。
風雷が先ほど居た場所は、たまたま全ての住民が病に
掛かっていたのだという。
であれば、扉を叩き、人を呼んでも誰も出て来ない
のもうなづける。
そして最悪な事態も合わせて耳にする。
死亡者も存在しているということだ。
亡くなった人たちも結構おり、特定の場所へ集められ
火葬されてるのだという。
風雷は願う。知り合いは生きててくれと。
~~~~ 今川家の屋敷 ~~~~~~~
今川家に到着した。結構大きいお屋敷である。
敷地内へ入ると何やら騒がしい。
そして道場の中を覗くと、消えていた町の人達が
そこに居た。
約300名の病人だろうか。収容されていのだ。
腕や足に赤い斑点が見える。
麻疹に侵されているのが遠目からでも判断つく。
そして、数名の女子が井戸から水を汲み、
その冷たい井戸の水で布を湿らせ、患者の頭や
首に当てて熱を冷やしていた。
男 「酷い有様だろう。」
風雷「ああ。」
男 「頼む、診てやってくれないか?」
風雷「ここの責任者はどなただ?」
男 「この屋敷の者だが、病にかかり
昨日から別室で寝ておる。」
風雷「左様か。
ならば指示してる者がおらんか?」
男 「いない。10名の女子がおるが、
自らの判断で看病しておる。
と言ってもだ。濡れた手ぬぐいを交換する
くらいしかやることはないがな。」
風雷「頼みたいことがある。」
男 「なんだい?」
風雷「人を集めて欲しい。」
男 「人はおるのだが、集めるのは難しい。
皆、この病を恐れている。
近寄ろうとはしないのだ。
ここで働く女子は強い。」
風雷「安心しろ、病人の看病をませたいのではない。
薬を作る手伝いをして欲しいのだ。」
男 「薬?この病に効く薬があるのか?」
風雷「無論だ。」
風雷は嘘をついた。麻疹に効く薬は見つかってない。
作ろうとしてる薬は解熱剤だ。
風雷が抱える小さな米俵に、薬の材料となる草が
詰められていた。
薬の効果について嘘を付いたのは、薬を疑わずに
飲んでもらうためと、治るという希望を持たせるため。
病は気から。まず、本人が治すんだという意思が
なければ完治などできないからだ。
男 「薬を作るなら話は別だ。
多くの者が率先して参加するだろう。」
風雷「人が集まったらここへ集合してくれ。
頼んだぞ。」
男 「まかしておけ。」
男は屋敷から出て行った。
風雷の前を1人の女子が通り掛かる。
風雷「お主、待たれよ。」
女子「あらこの猫。」
風雷は通り掛かる世話やきの女子に声を掛ける。
女子は、風雷の肩に乗る猫に気付く。
女子「あなた、沙紀様といっしょに歩いてた方では
ありませんか?」
風雷「左様だ。名は風雷。医者をしている者だ。」
女子「お医者様でしたの。」
風雷「世話係の女子を全員ここへ集めてくれ。」
女子「なぜです?」
風雷「薬を持って来た。患者に飲ませたい。
あと、2、3注意事項がある。
庭に集合してくれ。」
女子「かしこまりました。すぐお呼びします。」
世話係が10名集まった。これで全員だそうだ。
風雷は、この病は人の口から口へ病原菌が入り
感染する病であると簡潔に説明した。
世話する際は、口に布を巻いて、極力会話を避ける
よう指示を出す。
この10名は貴重な存在だ。
いつものように診察をし、全員感染してない
ことを確認できた。
そして、背中の薬箱から薬を取り出し、
世話係に手渡す。
1人1粒飲ませることと、
できるだけ水分を取らせることを説明。
和江「皆さんいらしたのね。
ちょうどいい。夜食持って来たよ。」
背後で聞きな地味な声がする。
振り向くと米屋の和江さんがそこに居た。
和江「あら、お医者様。探してましたのよ。
ここにいらしたの?」
感動の再開である。




