第46話 雲隠れ
~~~~ 町はずれの民宿 ~~~~~~~
時は、未三つ時(14時)
女主人「あら旅人さん。どちらへ?」
風雷 「魚でも取りに行こうかと。」
女主人「ならば街道沿いを北へ二刻(60分)進めば
川があります。」
風雷 「有難い。ではそこへ参るとしよう。」
女主人「大きな魚はおらんよ。
肩の猫さんが捕まえてくれそうね。」
風雷 「目的は散策。魚はついでです。」
女主人「散策ですか。この辺は何んもないよ。」
風雷 「のどかでいい所だ。気に入ってる。」
女主人「なら良いのですが。」
風雷と凜は、とある街道沿いにある民宿で
世話になっている。
昨夜の戦闘で新たな刺客が来るのを警戒し、
急いで診療所を飛び出したのである。
薬箱を背負い、凜を抱きかかえて、
一睡もせずに歩き続け、この地へと来た。
宿に関しては、自分一人だけならば泊まる
必要はないのだが、怪我人の凜がいる手前
そんなことはできない。
何件か回って飯付きの宿を見つけ今に至る。
ちょっとお高くついたが何もないこの場所で
この宿をみつけられたのは運がいい。
幸い、診察で稼いだ金はたんまりある。
当分、宿暮らししても問題はない。
あとは、凜の快復を待つだけのこと。
その時が来たら勝手にここから出ていくことだろう。
そしたら風雷は隣の国へ行くだけ。
この場所はちょうどいいところだと言える。
女主人「お連れ様は一緒に行かれないのかい?」
風雷 「自力で立ち上がれんほど大きな怪我をしとる。」
女主人「それはお気の毒様。
殿方が戻られるまで、何度か様子を拝見すると
致しましょう。」
風雷 「是非、お願いしたい。」
なせ、凜をここまで手厚く扱うのか。
凜は風雷に敵対しており、いつか寝首を取られる
かわからない。
風雷自身も不思議でならない。
おそらく、死にかけたところを必死で救った命。
ここで死んでもらっては困るというところだ。
あと凛の血である。
風雷 「では。」
女主人「お気を付けて。」
女主人は、徐々に小さくなる風雷の背中を眺めるのであった。
風雷の本当の目的は、実は散策でも魚釣りでもない。
血を求めである。
昨日までは、患者回りで合法的に血を採取できた訳だが、
今は凜からしか採取できない。
だが凜は大量出血による怪我で貧血がまだ解消されてない。
少量しか採取できないのが実情だ。
まぁ、少量とれれば死ぬことはない。
だが、次の刺客が現れたとき全力で動けない可能性はある。
それを踏まえ、散策をすることにしたのであった。
それにしても、街道沿いは人が少ない。
遺体が転がってる気配が感じられない。
あえてそういう場所を求めてここへ来たのだから
自業自得ではある。
相棒(黒猫)はというと食事の心配はしてない。
周辺には野良猫が沢山いるのだから。
凜も食事付きの宿に泊まってるのだから心配無用。
問題は自分だけである。
ここで1つ疑問がある。
凛はどこまで風雷のことを理解しているのかだ。
化け物だとはまだ気づかれてないと信じたい。
~~~ 畠山城 ~~~~~~~
謁見の間。すだれ越しに人影が見える。
殿である内光だ。
♪スタタタ
そこへ急ぎ足で廊下を走る者が居た。
側近の忠輔である。
忠輔「殿!よろしいか。緊急事態である。」
内光「何事ぞ。」
忠輔「仁が殺されました。」
内光「バカな!」
忠輔「仁を含めた4名、全てが殺害されております。」
内光「あの仁だぞ。」
忠輔「はい。拙者も驚きを隠せぬ。」
内光「医者にやられたのか。
大勢で待ち伏せされてたとか。」
忠輔「どうやら医者とは関係のないようです。」
内光「どいうことだ?」
忠輔「医者の住まい近くに禿川という
河川がありまして、そこで仁一行と浪人集団が
争ったようです。」
内光「その浪人どもは凄腕ということか。
だとしても仁が敗れるとは考えづらい。」
忠輔「同感でございます。
仁は袋に詰められ刀で刺されておりました。
他の3名は川に流れていたところを発見。
外傷がないため、溺死のようです。」
内光「左様か。川に投げ込まれてたといことか。
流石の忍びも水には勝てんかったと。」
忠輔「分かりかねます。
おそらくはそんな状況で間違いないかと。」
忠輔「そもそも普通の民と化けてたはず。
なぜゆえ浪人どもに襲われたのか?」
内光「その浪人どもは仁を待ち伏せしてたと
考えるのが妥当か。
浪人どもの素性は判明しておるのか。」
忠輔「いえ。只今、別の者に調べさせております。」
内光「医者の始末はどうなる?」
忠輔「は、こちらも別の者を向かわせております。」
内光「であれば問題ない。下がれ!」
忠輔「殿!もう1点、気になることがあります。」
内光「申してみよ。」
忠輔「凜の事であります。」
内光「そう言えば近頃見とらんな。」
忠輔「凜も亡くなっている可能性が高い。」
内光「誠か?」
忠輔「凛の任務は武田家の長男である武田経頼の暗殺。
その長男は、最近も吉原を出入りされてるのが目撃
されておられる。
とうの凜は消息不明。
今までこのような事態は起こっておりませぬ。」
内光「それで死んでると?」
忠輔「可能性が高いかと。」
内光「相手は武士とは言え、凜がやられるのは考えづらい。」
忠輔「同感です。」
内光「仁といい。凜といい。身内に密告者が居るのでは?」
忠輔「殿、感服いたしました。
忍びとはいえ、待ち伏せされては手に負えない
場合もありえるかと。
内部の者を調べた方が相手の素性に辿りつくのが
速いかも知れませんな。
至急、調査致す所存。」
内光「頼む。」
~~~~ 町はずれの民宿 ~~~~~~~
女主人「あら沢山取れたね。」
風雷 「小さいが20匹だ。」
風雷は川に行って、二寸(6cm)の魚を20匹取って
帰って来た。
魚は1本の細い木の枝に、エラから口を通して
綺麗に10匹並んでぶら下がっていた。
その枝が2本ある。
風雷は釣り竿もなしにどうやって魚を取ったのか。
川は浅瀬で水位はスネのところまでしかない。
なので素足で川に入って素手で魚を取って来た
という訳だ。
目的の食事(血)の方はと言うと、ありつけなかった。
遺体が転がってなければ、旅人から血を採取する
手段がなかった。
沙紀の時のように、病に侵されておれば
堂々と診察できたところではある。
町まで戻れば、遺体を見つけるられるだろう。
だが、もしお尋ね者になっていたら役人に捕まる
可能性がある。ここは我慢しかない。
魚を素手で捕まえることで、動体視力と瞬発力が
衰えてないことことは確認できた。
空腹であはあるものの健康ではある。
明日は、無料の健康診断と偽って旅人から血を
取るとこにする方針で固めた。
風雷 「今晩の夕飯に、これどうぞ。
皆さんで召し上がってください。」
女主人「いいのかい?」
風雷 「ああ。連れを看病してくれたお礼だ。」
風雷は、取って来た魚を全て女主人に渡した
のである。
女主人「では本日の夕飯はお刺身に致しましょう。」
風雷 「すまんが、それは焼き魚にしてくれ。
魚の菌か寄生虫で、連れの怪我が悪化するやも知れん。」
女主人「菌?」
風雷 「そうだ。」
女主人「よく分かりませんが、焼き魚でお出しします。」
風雷 「頼む。」
風雷はこのあと。
夕食ができるまでの間、凜へ、御湿の交換と
身体を拭いてあげたのであった。




