第42話 来客
~~~~ 医療所 ~~~~~~~
ー重「あー-ん。」
ー重は手土産に持参した饅頭を手に取り、
半分の半分にしたかけらを女子の口の中へと放り込む。
凛は、ゆくりと味わうのであった。
ー重「どうだい。うまいか?」
凛はモグモグしながら無言でうなずく。
ー重「いい子だねぇ。畜生め!」
ー重は涙目で叫ぶ。
風雷「どうした?」
ー重「誰だい?この娘っ子を怪我させたんは!
いくら何でもやり過ぎだ。
ワシが仇を討つ。」
風雷「赤の他人が口出しするでない。」
ー重「確かに出会ったばかりだが。
見とれんぞ。」
凛 「そのお気持ちで十分です。」
ー重「いやぁ、素直でいい子だわ。」
ー重「そういえば、名は?」
凛 「えーと。キヌ?!」
ー重「ほう、キヌとな。ええ名じゃ。」
ー重「で、出身は?」
凛 「そのー。」
ー重「(歳は)いくつじゃ?」
凛 「んー。」
風雷「止めい。困っとるではないか。」
ー重「別によいではないか!」
風雷「駄目だ。」
ー重「分かりやした。」
なんという平穏なのだろうか。
凜はしみじみ感じる。
別世界に迷い込んだのではないかと
錯覚してしまいそうだ。
だが自分にはやるべきことがある。
今は、一刻も早く体力を回復させること。
それが脳裏を駆け巡り現実へと戻される。
とにかく食べて食べまくろう。
凛は、そう決心し。恥らを捨て口を開る。
そう無言で追加を要求するのであった。
ー重は女子の挙動を理解し、口の中へと
饅頭のかけらを放り込む。
ー重「可愛いのぉ。」
風雷「爺さん、動物に餌を与えてんのと
勘違いしてないか?」
ー重「娘っ子に失礼だろう。」
凛 「このような無様な姿。
わたくし1人ではなにもできあせん。
動物と呼ばれて当然です。」
それから凛は食べ続け、一息つくと、
ー重が落ち着かない様子となる。
ー重「すまん。次があるんで、おいとまする。」
風雷「さっさと帰れ。」
ー重「あんた面白な。
娘っ子の看病は任せろ。また来る。」
風雷「いや、もう来なくていい。」
ー重「そうかい。」
ー重は、笑みを浮かべながら外へと出て行く。
室内は一気に静寂へと空気が変わる。
突然、猫が入り口を見つめる。
それにつられ風雷も目線を入り口へ向けた。
♪ドンドン
見知らぬ男が戸を開ける。
客人「失礼する。」
客人は一歩踏み踏み込もうとして。
客人「な!」
奥で寝ている娘に、目がくぎ付けとなる。
凜もまた客人と目が合い驚きを隠せないでいる。
そう、ここへ来たのは兄上の仁であった。
一瞬の出来事であったが、風雷はそんな
2人の表情を見逃さなかった。
どうやら2人は知り合いであると確信する。
それを悟られまいとしてか、その後、
2人は目を合わせようとはしない。
会話もなしだ。
いくらなんでも逆に不自然だろう
知り合いと言ってるようなものだ。
風雷は、患者の女子を暗殺者であるとにらんでる。
それは所持していた武器からも明らか。
だから風雷は、彼女へ事件の事や個人的な事を
問いたださないでいた。
知らない方が、身のためだろうと考えていたからだ。
だが、ついに繋がりのある者が現れた。
考えられる選択肢は2つだろう。
彼女を迎えに来たか、始末しに来たかだ。
女子の表情から察するに、迎えに来たと判断して
よさそうだ。
風雷は少し安堵するも、すぐに状況は一変することに。
風雷「ここは診療所だが、なに用だ?」
客人「大した用ではない。」
客人が中へと踏み入れると、続けて2人の男も
立て続けに入って来た。
どうやらこの2人も女子の知り合いのようだ。
悟られないよう振舞ってるつもりだろうが
風雷の目は誤魔化せなかった。
外に1人居る。おそらく見張りだろうか。
そして扉は半開きで閉められた。
なるほど、風雷は理解した。
これは逃がさないため、外から覗かれないため、
いつでも加勢できるため、の定石である。
となると話は変わる。
ターゲットは風雷ということになる。
女子の表情からも楽しい会話ができそうもない
雰囲気だ。
3人の客人は、一般人の身なりである。
刀は所持してなく、手ぶらの丸腰だ。
一見、何の危険もなさそうなのだが、
3人の立ち姿はいつでも戦闘が出来る
態勢であるのが見受けられる。
風雷も場数を踏んで来た。
一般人かそうでないかは立ち姿や行動で
判断がつく。
間違いなく3人は手練れで、風雷に敵意を
向けているということだ。
彼らとの距離は4歩。
風雷は、懐に手を入れ、長さ5cmの
短剣を3つ握り戦闘態勢に入る。
風雷の挙動に合わせ、猫も4つ足で立ち上がり
険しい表情へと豹変する。
狭い部屋中、1対3は分が悪い。
動ける範囲が狭く、かなり不利な状況と言える。
両サイドの男は手下だろう。
となると中央の男を倒せば勝機があると読んだ。
客人「ある人に頼まれてここへ来た。」
風雷「診察の依頼ですかな?」
客人「そうだった良かったのかもな。
貴様を殺しにした。」
3人の男が懐に手を入れると同時に、
風雷は中央の仁へ短剣を3つとも投げる。
そして、猫も前進した。
風雷が投げた短剣は、仁の顔と胸元目掛けて
直進する。
仁の反応は早かった。
上半身を傾け、顔への短剣はかわされ、
背面の壁へ刺さった。
胸元への短剣は懐かから取り出した刃物に
よって弾いたのである。
もの凄い洞察力と瞬発力で風雷の攻撃を防いだ。
風雷が投げた残りの1本は、右の男の前腕を
かすめ、素通りしていった。
左の男「痛!」
猫が左の男に足首を噛んでいる。
左の男は噛みついた足を蹴り上げ、
猫を振り払う。
猫は、扉の隙間を抜け外へと飛ばされた。
♪ドサ、ドサ
仁は驚愕する。
突然、両サイドの男が倒れたのだ。
仁は足を使って、仲間の身体をゆするも
まったく反応がない。
2人共、あの一瞬で死んだということになる。
仁は思考をフル回転させ状況を整理する。
1人は猫に噛まれた。
推測するに、猫の歯に毒が塗られていたとしか
考えられない。
となると、もう一人も同じだ。
前腕に刃物で切られた跡がある。
そしてそこから血が滲み出している。
短剣によって、切り傷が付いたのだ。
となると、短剣にも毒が塗られていて
即死したとしか考えられない。
こんなにも即効性のある毒に、
お目に掛かったのは初めてだ。
相手は医者だ。
仁は、作れてもおかしくないと事実を飲み込む。
凛は動揺する。仲間がこんなにもあっさり
倒れるのを目撃したのは初めてだったから。
なにも動揺は仲間が倒れただけでない。
大きな外傷もなく一瞬で殺す方法など
凛は知らないというのもある。
形勢は逆転した。これは仁の判断ミスである。
相手は1人。しかも医者だ。
楽な任務だと気が緩んでいたのが原因だ。
仁「明!」
仁は、外の見張りに声を掛ける。
だが入って来る気配がなければ、返答もない。
ちらっと、扉の隙間を覗くと人が倒れてるのが
見えた。
服装から明であることは間違いない。
ということは、既に明もやられたということになる。
犯人はおそらく猫だろう。
仁は唾を飲み込み、死を覚悟する。
風雷はというと、勝ち筋が見えている。
後はいつ仕掛けるか、だけだ。
その前に。
風雷「さて、雇い主は誰か。
教えていただけないだろうか?」




