第33話 梅毒
~~~~ 吉原 ~~~~~~~
吉原内の一角に村隆が頻繁に通う
揚屋がある。
その建屋には人が近寄らいない部屋が存在する。
ここで働く者ならば、一度も足を踏み入れず
ともその部屋の存在は皆把握している。
一度その部屋へ移されたら、生きて出て来た
者はいないという魔の部屋だからだ。
揚屋と呼ばれる店には、必ずその部屋が
設けられている。
そう、死が近い者が集められるという
輪廻の間と名付けられた部屋。
風雷は、まさにその部屋へ案内された。
最近、揚屋で診察と治療を始めたことで
そのような場所が存在することは風雷自身も
認識している。
だが、足を踏み入れるのは、今回が初めてで
あった。
目の前で横たわる女性が患者なのだろう。
そしてここに居るということは死が近い。
症状は見ただけで分かる『梅毒』だ。
女史「猫をお預り致します。」
風雷「いや、結構。」
女史「左様ですか。
それでは私は失礼します。」
村隆と風雷が部屋へ一歩踏み入れると、
案内人の女史が挨拶をするや、逃げる
ようにして戸を閉め、小走りで去って行く。
部屋には、村隆と風雷、布団に横たわる
1人の女性の3名しかいない。
女性は、人の気配に気づきゆっくりと
目を開ける。
女性「村隆様。そちらの殿方は?」
村隆「ワシの友人で有名な医者だ。」
風雷「拝見しよう。」
村隆「頼む。」
薄い布団を履くと、女性は真っ白な浴衣
を着ていた。
紐をほどき、裸体を露わにする。
女性はされるがまま身をゆだねた。
全身にも赤い斑点がある。
念のため確認したが予想通りであった。
そして、元の状態へと戻す。
村隆「治療はできそうか?」
風雷「いや、もう少し待て。」
風雷は、いつものように彼女の腕を
持ち上げ噛む。
村隆「何をしてる?」
村隆は風雷の診察スタイルを知らない。
腕を噛むなど奇怪な行動に困惑するのは
当然のことだろう。
風雷「血の味を確かめてる。
私には特異体質があって、血を
なめることで身体のどこに異常が
あるか知ることができる。」
村隆「ほう、それは興味深い。
噛んで治せるのか?」
風雷「いや、病状を特定できるだけのこと。
治療は基本、薬だ。」
村隆「病状の特定?
見れば分かるだろう?
梅毒だ。」
風雷「その通り。
念のため病状と進行具合を
確認したまでの事。
もし、診断を誤れば治せるものも
治せなくなる。」
村隆「なるほど。
素人が口を出してすません。」
風雷「気にするな。」
・・・
風雷は腕を組み、目をつむる。
梅毒の進行は進み、状態としては後期にあたる。
本来ならば手の施しようがない。
風雷にとっても初の試みだ。
女性は、丸くなっている猫の姿を見て
笑みを浮かべる。
女性「かわいい。」
風雷「梅毒で使っている薬はある。
初期症状であれば効き目があるのだが
ご婦人に効果があるかわからん。」
そう言って、薬箱から青色の粒を2つ取り出す。
風雷「この薬で1日様子を見る。」
村隆「治る可能性はあるのか?」
風雷「誠に言い辛いが、ないだろう。
強い薬を作って明日持参する。
今日は、この薬の効果を確認させてくれ。」
村隆「分かった。
ワシに手伝えることはあるか?」
風雷は女性の首を少し持ち上げて薬を
飲ませる。
風雷「ならば側に付いててやれ。
薬で熱が出る。
こまめに水を飲ませることだ。」
村隆「分かった。」
風雷「では帰宅して薬の作成に取り掛かる。」
村隆「感謝する。」
女性「無理をなさらなでください。」
風雷「私は医者だ。当然のことしてるまで。」
女性「今日はありがとうございました。」
風雷「礼は早い。」
女性「診て頂けただけで十分ですので。」
風雷が立ち上がると、猫が左肩へと飛び乗る。
風雷「では、これにて失礼する。」
風雷は揚屋を出た。
~~~~ 路地 ~~~~~~~
人気のない路地。
日は落ち、月明りを頼りに周囲を確認し
帰り道を急ぐ風雷の姿があった。
すると正面に道を塞いでる2人組みが
立っているではないか。
どうもここから先へ通すつもりはない
らしい。
鞘から抜けた刀を手にしてる。
ここは一本道。
いつのまにか、後ろにも刀を持った2人
組みが立っている。
どうやら前方に男1と2、後方に男3と4の
計4名に挟み撃ちされた。
通さないどころか殺すつもりのようだ。
前後の襲撃者がゆっくりと近づいて来る。
風雷は懐に右腕を入れ4つの
短剣を握る。
その短剣をこともあろうか
自分の脇腹に切りつけたのだ。
そう短剣に風雷の血を付けたのである。
お互いの顔がはっきりと見える位置に
まで近づく。
男1「おや?貴様ではないか。」
風雷「あんたか。」
昼間、1人の女子を3人がかりで
襲っていた連中の主犯格であった。
他の2人はこの場にいない。
襲いかかろうとしている4人のうち残り
3人は見知らぬ顔だ。
風雷「昼間の仕返しにでも来たか?」
男1「いや、偶然だ。」
風雷「人違いならここを通してもらおう。」
男1「それはできない相談だねぇ。
貴様の首を取りに来たのだから。
見知らぬ者を殺すのは後ろめたいが、
貴様は別だ。
昼間の屈辱を晴らす。」
風雷「死ぬ前にあんたを雇った野郎の
名前を聞かせてくれないか?」
男1「帝だとよ。
ふざけた名だが嫌いじゃねぇ。
冥土の土産にでもなったか?」
風雷「ああ。」
♪シャー
風雷の肩に乗る猫が、大きな口を開け、
目を見開き、毛を逆立ててる。
風雷の殺気を感じ取ったのだろう。
今にも襲い掛かろうとしてる。
♪サササ
足音が聞こえる。
後ろの2人が刀を振り上げ、
同時に走り込んで来た。
猫が飛び出し男3へ向かう。
風雷は懐から短剣を2つ
取り出し、男4の首を的に短剣を投げる。
男4は短剣に気付き、自身の腕を
盾替わりにした。
すると短剣は腕へ刺さる。
あと一歩踏み出せば風雷に届く距離で
男3と4は、うつ伏せで倒れた。
男4は風雷の短剣によって即死し、
男3は猫が足首を噛んだことによる即死だ。
風雷は男1と2の方へ振り返ると
2人は既に間合い入っていた。
男1は刀で突き刺す体制であり、
男2は刀を振り下ろすところだ。
風雷は手に持つ残りの短剣を
投げ男2の首へ刺す。
だが、間に合わなかった。
男1の刀が風雷の脇腹に刺さり
腰から剣先が飛び出した。
刀は腹を貫通させたのだ。
男2は男1の真横で倒れた。
男1「流石だな。ほめてやる。
仲間にしたいところだが、
手遅れだな。」
男1「うっ!」
男1は自分の背中に熱いものを感じた。
確認すると、男2が刀で自分を刺していたのだ。
これは一体どういうことなのだろうか?
男1には理解できない。
男2は死んだ振りして裏切ったとでもいうのか?
男1の頭の中でいろいろなことが駆け巡る。
男2は首に刺さった短剣で死に、
風雷によって操られていたのだ。
風雷「流石だな。ほめてやる。
仲間にしたいところだが、
手遅れだ。」
男1が刀を握る手のひらに、短剣が刺さってる。
男1が男2に気を取られてる隙に短剣をもう一つ
取り出したのだ。
そして、男1は足元から崩れ倒れる。
風雷は、自身の腹に刺さる刀を抜き
その場に放り投げた。
襲ってきた連中の身元を調べようと
したとき。
♪ピー、ピー
笛の音が響く。
役人が仲間を呼ぶ合図の音だ。
役人「お前ら!そこで何してる。」
提灯片手に遠くからこちらへ1人で
向かって来てる者がいる。役人だ。
風雷は巻き込まれたくないと思い、
反対方向へと逃げる。
そして、役人は現場に到着する。
仁「こ奴らは何者?」
4人の遺体を見てつぶやく。
現場に来たのは役人ではなかった。
役人を装った忍びの仁であった。




