第26話 葬式
~~~ 診療所 ~~~~~~~~~~
時は、卯二つ時。(午前6時)
診療所内でゴトゴトと騒がしい。
朝から何か作業してる者がいる。
そう風雷だ。
彼は、診療所に戻ってきていた。
そして現在、薬草をすり、薬の製造している。
ここ最近、薬の消費が激しい。
というか作る時間が取れなく在庫が底を
付いてきてる。
思い立たが吉日。朝から薬作りに没頭していた。
1人作業してるとどうしても、昨夜の騒動が
フラッシュバックされる。
いまだ、思い出すたびに怒りが湧いてくる。
風雷は、ふと袖が汚れてることに気付く。
改めて自分の衣服を見直すと、返り血や泥で
全体的に汚いことに気づく。
昨夜の戦闘の凄さがうかがえる。
そういえば、昨夜もこの姿を見られたくなく
人目につかぬ道を選び夜遅くにここへと戻って
来たのであった。
朝になって、見直すと、想像以上に汚れてて
どう見ても洗濯では落ちないレベルだ。
診察によってある程度のお金は溜まったことだし。
ここは新規一転。
これから服を購入することを決める。
男「号外!号外!」
なにやら外が騒がしい。
男「号外!号外!」
昨日に引き続き、今日もまた大事件があったようだ。
まあ、見に行くまでもない。
どうせそれは沙樹か相馬のことだから。
両方なのかもしれない。
風雷にとっては、ついにこの時が来たという感覚だ。
町の人達の反応を見るのが怖い。
今頃、号外の内容を見て、絶望感に浸ってる
に違いない。
この町を守る女神のような存在が居なくなった。
そして、領主も亡くなっている。
桐生領自体が消滅するのは思っていることだろう。
分からない未来を考えても仕方ない。
風雷がやるべきことは、この診療所を守ること。
それがせめてもの沙紀殿からもらった恩を
仇にしないことだと感じてる。
今日は極力人と接したくはない気分であるが、
最低限、桐生の屋敷に顔を出す必要はあるだろう。
出向かないと不自然であるし、お世話になった人も
沢山いる。
今や屋敷の人達は家族同然なのだから。
今日は忙しい日になりそうだ。
薬を作って、服を買い。
診察に回って桐生家に出向く。
まぁ、忙しいくらいがいい。
沙樹のことを思い出すとまだ情緒不安定に
なりがちなのだから。
少しでも忘れらる時間を作りたい。
そんなことを考えながら作業してると、
薬の作成が完了した。
そして、服を買いに外へと出る。
昨夜は、血で汚れた服を見られるのを避けて
帰宅して来た訳だが、朝はそうもいかない。
そんな風雷の心配事は無用であった。
町の人達は気軽に話しかけてくるし、
服が血で汚れてても、大変ですねと
心配してくれる始末。
やはり、沙樹といつも行動していたのが大きい。
町の住民は風雷を医者として認知してくれてだ。
医者だから服に血がついてて当然だろう
ということらしい。
風雷から説明しなくとも相手が勝手に都合の
いいように解釈してくれたのだ。
挙句の果てには、ご呉服屋の店主の方から
事情を察し織物を値切ってくれる始末。
おそらく風雷の横に居ないはずの沙樹が、
皆さんには見ているのだろう。
風雷はそんな風に感じていた。
その日一日は沢山の人達と会話するはめとなった。
そして皆、思いやりのある人たちだ。
沙樹の事には触れず何気ない世間話だったのだから。
夕方になると予定通り、桐生の屋敷へ出向いたところ。
領主、沙樹、利玄、美津の4名による
お通夜が始まったため、家族ではないものの、
流れで風雷も参加させていただいた。
そして、次の日には、領主と沙樹の告別式が行われ、
町中の人達が集まり、各人に別れを告げたのである。
さらに次の日には、葬式が行われ、
裏山にあるお寺の墓地に4名が埋葬された。
風雷は式に参加しなかった。
沙樹が亡くなってから葬式までがあっという間
だったように思える。
ここで気になるのが領地問題だ。
桐生家の血筋が途絶えたことで領地の存続が
危うくなった。
本来ならば隣接する他の領地に分配され、バラバラに
なるところであったが、運良くそれは回避できた。
というのも、相馬領が先に解体となったのだ。
相馬領もまた、血縁関係が皆殺しにされ途絶えた
のだという。
あの時、妻や子もあの屋敷に居たらしい。
それは当然か。
ここで風雷に疑問が出た。
聞くところによると、女中や板前も含め、
相馬の屋敷にいた全て者が殺されてたという。
これは一体どういうことなのか?
風雷が屋敷を出たときは少なくとも生きてる
人間はいた。
操り人形も活動を停止させたので、あの後
彼らが殺害することはありえない。
考えられることは、風雷が出たあと、
別の者が侵入し、殺害したということだ。
それを指し示すかのように、年貢を納めた
金が一銭たりとも無くなっていたという。
風雷はお金を奪ってなどいない。
そもそもどこにお金を隠しているのか
知らないのだ。
となると心配事が1つ生じた。
屋敷内での出来事を見てた人物がいる
ということになる。
そ奴に風雷が犯人であると密告でも
されたら終わりだ。
役人どもは、相馬の領主を殺害した人物を
探しまわっている。
残虐非道な凶悪犯だそうだ。
疑られるだけで無実でも死罪となるであろう。
一瞬、剣の達人である村隆の仕業では
と頭を過った。
風雷が去ったあと、戻ってきたという仮説だ。
それならば問題はない。
少なくとも村隆は風雷を恩人だと感じてた。
彼が犯人でないとなると非常にまずい状況といえる。
流石の風雷でも、お尋ね者となったら
逃げ切る自信はない。
相手が藩となると規模が違う。
万の人員を動員することだろうから。
事件から数日経って、役所からの呼び出しはない。
ということは犯人は密告しなともとれる。
もしかしたら、風雷が屋敷を出たあとに
入って来た者なのかもしれない。
この場合なら、風雷は顔をみられてないはずだ。
まぁ、安心するにはまだ早い。
念のためいつでも逃げ出せる準備だけは
してある状態だ。
話を戻して、我が桐生領の行方についてだが。
右腕であった番頭の時谷が、
藩への懇願したことにより桐生領は
現状維持のまま引き継ぐこととなった。
彼は敏腕である。
町がバラバラにされずにすんだのだから。
そして、桐生の領主と沙樹の殺害については、
相馬の者が犯人と断定された。
決め手は、沙樹の腹に刺さっていた刀である。
相馬家のものであったというのが理由だ。
これは風雷の思惑通りに事が進んだといえる。
これで領主と沙樹は浮かばれただろうか。
沙樹との出会いを振り返ると彼女の存在の
大きさに改めて気付く。
風雷は、今まで人との接触を避け、あらゆる
ことから逃げるようにして生活していた。
だが今は違う。
彼女が生きる意味を与えてくれたから。
ここの診療所もそうだ。
医者を名乗ってはいたが、あくまで自称であり
生活するためのものではなかった。
沙樹が居たからこそ、自分の店を持ち
医者として生計が立てられるようになった。
気付くと庶民と共に暮らしてもいる。
性格も変わったといえる。
人との関わりに抵抗がなくなった。
全くないかというと肯定できないが、
町の人たちと接するのは嫌いではない。
沙樹だけでなく、よそ者扱いしない住民の
受け入れも大きいだろう。
その町の住民もみな沙樹によって変えられた
人たちなのだ。
沙樹は、風雷だけでなく、町の人たちにも
必要な存在である。
彼女が亡くなった今、この町が変わって
しまいそうで怖い。
風雷は、診療所を守り、沙樹が愛したこの町が、
どうなるのか、行く末を見守ることにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
沙樹との話はここで一旦終了です。
物語はまだまだ続きます。次回からは新章スタートです。
私は苦痛ですが、皆さんはお楽しみにしててください。