第11話 村隆という男
■登場人物■
風雷⇒主人公。バンパイアであり医者でもある
沙樹⇒ヒロイン。桐生家頭首の娘
村隆⇒浪人。剣技の達人で用心棒をしている
~~~ 診療所 ~~~~~~~~~~
風雷は一人の男を肩にしょい、我が診療所へと
帰って来た。
戸を開け、中を見渡すと物が何もなく殺風景だ。
日中、沙樹殿と買い物に出かけはしたものの、
気にいった物がなく結果何も購入しなかったのだ。
とても人が住んでいるとは思えない光景である。
肩の男は、風雷が血を求め散策してたら
偶然見つけた者だ。
組同士での争いが負傷の原因だろうと
風雷は考察している。
たまたま1人生きてる者を発見したため、
衝動的に診療所へと連れて来てしまった。
だが、これは助けたいという良心的な発想ではない。
出来る限り延命すれば、その間、血を摂取し放題
という腹黒い策があったからだ。
だが今回に関し、風雷は悪いことだとは感じてない。
このような、ならず者を生かしては町の治安に
よくないからだ。
むしろ死んでもらって構わないとすら感じている。
居間に引いてあるゴザの上に、その男を寝かせると
衣服に付着した砂がばらまかれる。
風雷(おいおい。せっかく掃除したのに。
沙樹殿に叱られるぞ。)
ロウソクに火を灯す。
男は居間に寝かせても意識を取り戻さない。
風雷はならず者だと勝手に思い込んでいたが、
よくよく見ると身なりがしっかりしているではないか。
風雷(こ奴、侍か?)
ふところから刀を抜き彼の横へと置く。
刀に家紋が刻んでないが立派な物だ。
もしかしたら、お偉いさん仕えている人物かも
知れない。
そう捉えると風雷は真剣に彼を助ける気になった。
まづは切り傷から。
見るからにどこにも外傷は見当たらない。
特に出血もない。
風雷(苦しめているのは毒だけだな。)
風雷は改めて彼の左腕を噛み血をすする。
風雷(イボノキソウの類か。
心臓が弱っている。急がないと。)
どうやら毒の種類を特定できたようだ。
薬箱から緑色した粒を2つ取り出す。
さて困った。どうやって飲ませよう。
彼に呑ませるはずの薬を風雷自身が
自分の口の中へと放り込んだ。
続けて、薬箱の横に装着している竹の水筒を手に取り、
水を口の中へと含ませ、口内で固形だった薬を溶かす。
患者の首を持ち上げ、口が開いたことろで、
風雷は口の中で液体と化した薬を大胆にも
口移しで無理やり患者の体内へと流し込んだのである。
風雷(助かるか否かは五分五分。
あとはこ奴の体力が勝つか、毒が勝つかだ。)
手首を掴み脈を診る。
風雷(心臓が止まってる!)
彼の心臓に耳を当てると確かに鼓動がない。
両手の手のひらを重ね心臓の真上に置き、
体重を乗せて心臓マッサージを施す。
再度、心臓の鼓動があるか確認する。
それを何度か繰り返し、彼の心臓は鼓動を
取り戻すことに成功した。
だが、容体は好転したわけではない。
依然助かるか否かは五分五分だ。
その後も血をすすり、身体の具合を何度か確認する。
別の薬も飲ませたりした。
明け方。
その甲斐あって、容体がようやく回復の兆しが
見え出したところで、つい眠りについてしまった。
沙樹「風雷様。風雷様。」
沙樹殿の声で風雷は目を覚ます。
ふと看病で眠りについたことを思います。
見ると患者がいない。
ゴザの上に二両が置かれていた。
金を手に取り、急いで外へと飛び出すと
日差しが眩しい。
見渡しても彼の存在などあるはずがない。
沙樹「風雷様。どうされたのです?」
沙樹殿が心配するのも当然だ。
毎朝食事をしに店に訪れていたのに今日は来ない。
診療所へ見に行くと壁に寄り掛かって寝ていた。
目を覚ますやいなや外へ飛び出したのだから。
風雷「沙樹殿、すまない。
明け方まで、薬を作り込んでいて
いつの間にやら寝たようだ。」
沙樹「いけませんよ。風雷様。
無理をなさっては?
薬づくりならわたくしが手伝います。」
風雷「沙樹殿は我が診療所の一員だったな。
もうやることはないが、
次は是非お願いしよう。」
沙樹「はい。一生懸命覚えます。」(^_^)
沙樹殿は何て純粋で素直な子なのだろうか。
風雷はなんだか沙樹殿を騙してるような気が
して後ろめたさを感じる。
医者をしてるのも合法的に血をすするのが目的である。
人を救うのもおまけであって善意ではない。
再度患者になって貰えるかも知れないし、
他の患者を紹介してもらえるかも知れないからだ。
全ては自分のために行動している。
だが沙樹殿は違う。人のために行動してのだ。
しかも偽善でも損得でもなく、関わる全ての人を
笑顔にしたいという思いからだ。
年十年も探し続けてる優紀乃もそんな感じの人だった。
風雷は沙樹殿に出会えたことで、優紀乃を見つけた
ような気になりつつある。
ここの町も気にいってるし、もうこの地に
骨を埋めてもいいと考えるようになっている。
沙樹「大変、部屋が砂まみれです。」
風雷「すまない。汚してしまった。」
昨日使ったほうきを土間から取る。
沙樹「お任せください。」
沙樹はほうきで砂を掃きながら会話を続ける。
沙樹「本日、2名の診察依頼が来てます。
高橋さんと飯田さんとこ。
ご近所さんです。」
風雷「これは参ったな。
私にやることがないな。」
沙樹「そんなことはありません。
風雷様は、きちんと病気を治して
いただかないと。
それ以外はわたくしが全てお世話致します。」
風雷「すまない。
台帳もそうだが、治療以外うといでな。」
沙樹「そのために、わたくしが居りますのよ。」
風雷「どう考えても、沙樹殿の負担が大きい。」
沙樹「心配いりません。好きでやってますから。」(^o^)
作り笑いでない芯からにじみ出る笑顔で
返答されてしまうと、もう彼女の思うままに
させてやりたいと願ってしまう。
自分が出来ることは医療だけ。
風雷は、沙樹殿の信頼に答えるためにも
全力で医療に取り組むことを決意する。
~~~ 相馬庭 ~~~~~~~~~~
ここは相馬領。風雷が住む桐生領に隣接する領土だ。
その領主が住む屋敷に1人の客人が訪れていた。
領主「なんと!武田家が桐生に移りたいと。」
生口「左様で御座います。」
生口は桐生に仕える幹部の一人。
相馬の屋敷に訪れていた。
領主「それは何としても避けねばならん。
稼ぎ頭の1つだからな。」
領主「尚隆殿(桐生領主)はどう判断されたのだ?」
生口「それが難しいと。
この話題が出たことで話しを進めることも
引くこともできないと。」
領主「お主はなんと答えた!」
生口「もちろん。わたくしは断固反対いたしました。」
そこへ廊下を歩く1人の男に領主は目が行った。
領主は会話を一旦止めると生口へ手で合図する。
領主「村隆殿。
そなたは今までどこをほっつき歩いてるのだ!」
村隆「すまん。吉原におった。」
風雷が昨夜助けた男だ。
領主「女遊びもいいが。高い金出してる。
警備をしっかりとしてもらわんと
他の者に示しがつかん。」
村隆「へいへい。」
領主「まったく。」(--#)
領主は生口へと視線を戻す。
領主「すまない。時間を取らせた。」
生口「問題御座らん。彼は見ない顔ですが。」
領主「最近雇った用心棒だ。」
領主「話を戻すが、議論の途中はどうでもいい。
結果、桐生として武田家をどうするおつもりか?」
生口「畠山藩へ出向き。仲裁に入ってもらうとのこと。」
領主「それもまた、よろしくない。」
生口「はい。畠山藩からしたら何もかわりませぬ。
移動させる方向で、こちら(相馬領)へ
話しが来るかと。」
領主「上が許可したとなると、ますます手出し出来ん。
達彦!」
達彦「は!」
領主「彼(生口)に手見上げを!」
達彦「かしこまりました。」
達彦は、部屋を一旦出るとすぐに戻って来た。
達彦「生口様。これをお納めください。」
達彦から生口へ小さな小包みが渡された。
生口は中を覗くと、金百両と粉薬のような物が
入っているのを確認する。
そして、ふところへしまう。
生口「私にお任せあれ。」
領主「畠山藩へ出向く日が決まったら連絡をくれ。」
生口「かしこまりました。」m(_ _)m