第1話 戦意喪失
~~~ 呪禁師本堂 ~~~~~~~
風雷「師範は、おらぬか!」
ここは、呪禁師達が総本山とする寺院。
燃え盛る炎の中を、さまよう1人の男がいた。
風雷(しまった。師範を見失った。
くっそ。失態だ。急がないと全焼する。)
先に進むにつれ、炎の激しさが増して行く。
この先は祭壇の間。居るとしたらここしかない。
♪バーーン。
燃える襖を蹴飛ばし、通路を確保する。
そして次の瞬間、衝撃的なものを目の当たりにする。
座禅を組み、全身が炎に包まれる人物がいた。
仏像の最前列で座禅を組める者など
この世に1人しか存在しない。
そう、探し求めていた師範である。
風雷は立ち尽くす。
師範の死が受け入れられず、怖くて近づけない。
何もかもを失い、脱力感が襲い掛かる。
♪ガサガサガサ。
背後から近づいて来る者の気配を感じた。
風雷は振り向く。
風雷 「うっ。」
敵兵1「貴様だけは生かして帰さん。」
確認しなくても分かる。
相手の刀先が、自分の脇腹を貫通して
腰から飛び出ていることを。
風雷は笑みを浮かべる。
それを見た敵兵1は恐怖し、刀を勢いよく
引いて一歩下がる。
風雷の脇腹から刀は抜けた。
敵兵1は刀を構え直す。
するともう一人、敵兵が現れる。
敵兵2「見つけたか。」
敵兵1「いいところに来た。
こいつだ!ぶっ殺すぞ。」
2人は刀を持っているが風雷は丸腰だ。
武器を持っていない。
♪ドッサ。
風雷の真横に燃えさかる巨大な物が落ちた。
炎によって天井が抜け落ちたようだ。
風雷は、炎に包まれる天板を素手で握る。
両手で持ち、それを盾として使うこととした。
並んで立つ敵兵2人目掛けて突撃する。
その間、風雷の裾へ火が移る。
敵兵の2人は同時に天板を刺し貫通させるも、
風雷の突進は止まらず、3人共倒れる。
敵兵1「うぁああ。」
敵兵2「うぁああ。」
炎が敵兵2人の上半身へと移った。
衣服に火が付いたら最後、川の中へ飛び込まない
限り止めることは不可能だ。
風雷はというと、突き刺さった刀は幸いにも
2つとも当たらなかったが、勢いよく突進
したことで、敵兵の後ろへ転がり、
火の海へと入ってしまった。
風雷の全身に炎が突き刺さる。火だるまの状態だ。
それでもなお、立ち上がろうと両手を付いたその時。
♪パキッ。
床板が抜け頭から落下する。
そこは隠し通路の入口だったのだ。
炎によって強度が下がり、抜け落ちたのである。
隠し通路と言っても、洞窟のような、土で覆われた
一本道の地下道。
入口から出口まで下り坂となっていて、
風雷は3m下へ落下しながら半回転し
偶然にも足から着地した。
しかし、体勢を崩し人形のようにゴロゴロと
2回転して、うつ伏せ状態で倒れる。
風雷は全身を炎で包まれたままだ。
そして、意識を失った。
・・・
6時間が経過した。
風雷(ここはどこだ?)
風雷は目を覚ます。
着ていた服は灰となり、全裸の状態で
横たわっていた。
奇跡的に生きていたのだ。
いや、奇跡ではない。
自身の身体を確認すると、全身火傷のはずが、
ほとんど治りかけている。
腹の刺された傷も塞がっていた。
戦闘中に、多くの人の血を吸ったのが
功を制したのだろう。
そう、風雷はバンパイアなのだ。
バンパイアは人の血をすすることで
驚異的な回復力を得られる。
風雷自身は、まだ状況を掴めていない。
周囲は薄暗く、涼しい。
どうやら洞窟のような場所に落ちて来たと理解する。
なぜ、寺院にこのような場所があるのだ!
疑問視する。
何かを見つけた。
手に取ると上質の着物であることに気づく。
なんでこんなところに着物が落ちてるのか
訳がわからない。
風雷(優紀乃様の御召物だ。
なぜ、ここに捨ててある?)
風雷は全てを理解した。
師範の妹である優紀乃がこの地下通路を
使って脱出したことに。
その時、一般市民に紛れ込むため着替えたことも。
本堂はどうなったのか?
敵陣も気になる。
確認しようにも、寺院の骨組みが真っ赤な炭
となって熱を発している。
バンパイアであっても熱くて近づけない。
結局諦めた。
まぁ、確認したところで絶望するだけだ。
風雷は生きる意味を失った。
師範の盾となる決意をし、死ぬのは自分が先だと
思っていたのに、この様はなんだ。
自分にいら立つ。
着物を見つめ強く握り閉める。
ふと思う、優紀乃は脱出できたのだろうか?と。
風雷は優紀乃の着物をまとって、
出口まで進むことにした。
少し進むと真っ暗で何も見えない。
初めて使う通路であり、出口までの距離を知らない。
救いなのは一本道であるということ。
壁を頼りにゆっくりと進んで行く。
時間は掛かったが出口に辿り着くことが出来た。
少し戸を開け、外の様子を確認する。
どうやら周囲に人影はないようだ。
急な勾配のところに突如、扉が出現し開く。
風雷が外へと飛び出す。
そこは道なき森林の中であった。
振り向くと、勾配の上に、寺院の石壁が見える。
数時間前まで、壁の向こうで壮絶な争いが
くり広げられていたかと思うと不思議な感覚だ。
戦はまだ続いているのだろうか。
頭に過るも師範を失った今、
風雷にはもう、どうでいい。
寺院も文献も全て灰となって散ったのだから。
だが優紀乃の生存は気になる。
周囲を見渡しても死体は見当たらない。
この辺りで争った形跡もない。
ということは戦場から抜け出せた可能性は高い。
ひとまず安心だ。
さて、これからどうしたものか。
目標を失った今、やるべきことが見つからない。
とりあえず、優紀乃に会うことを決心する。
元気でいることを確認したい。
師範の最期を語る必要もある。
そして、守れなかったことを謝罪したい。
彼女の行先は、父上の親族を頼る手筈だと聞いている。
その者の名前を聞きそびれたし、
どこに住んでる者かも分からない。
だが、それだけの情報があれば
探し出せるだろう。
そうと決まれば、やるべきことは1つ。
まずは長旅の準備だ。
できるだけ、総本山から離れないと自分が危ない。
しばらくはこの土地を離れ身を隠す必要がある。
だが、この成ではどこへも移動できない。
近くの友人宅へ行き、服を分けてもらうこととした。
足取りが急に軽くなり、下山を開始する。
時は明統2年。
風雷は、優紀乃探しの旅に出る。
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