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23 代理人、動く

【23 代理人、動く】



 代理人は、世界樹の親木の近くの一族の集落に生まれた。

 一族の者は集落で生まれ育ち、成長すると各地の若木へ派遣される。ただ他の集落とは違うのは、彼らは世界樹の管理・維持をするために、幼い時から世界樹の花を食し、湖の水を飲んで育つ。その事によって、魔力に対する耐性と、世界樹の中に意識を潜らせるための親和性を獲得する。


 世界樹から齎される物は、決して人間に都合の良い物ばかりではなく、花も湖の水も、本来は人間の身体には毒になるものだ。

 だが、彼らは進んで口にする。成長を止めないギリギリの線を見極め、成長に併せて濃度を調整して摂取していく。

 結果、一族の者は総じて短命でもある。


 そこまでするのは、代理人の一族は、世界樹の管理・維持、情報のやり取りの調整の他に、魔王が誕生した際の聖女の召喚と討伐時の魔王の捕縛を担っているからだ。


 捕縛し、とどめを刺した魔王を結晶化させ、世界樹の贄とする作業をする。


 故に、魔力の耐性――特に魔王の魔力の耐性は必携なのだ。


 一族の者の中で耐性が強く、身体能力の強い者が、『朱』と呼ばれる実行部隊に配属される。


 先代の魔王の結晶がいよいよ残り少なくなってきた、と湖を監視している者から報告が上がったのは何年も前のことだ。

 代理人の一族は代々、湖に沈む魔王の結晶と水に含まれる魔力の濃度を監視・計測し、大体の残り年数を割り出していた。一族は世界樹の監視も強め、大きな力が動くのを今か今かと固唾を呑んで見守っていたのだ。


 三の樹に反応が有ったと報告を受けて、三の樹の担当していた『朱』は警戒と準備をし、魔王の暴走を待った。

 だが一向にその知らせは来なかった。


 そうこうしている内に時間は過ぎ、困惑しきっている彼らに、別の報が齎された。


 三の樹の近くで、新しい世界樹が芽吹いたという。

 三の樹の近くの『朱』だけではなく、一族全てに衝撃が走った。

 一族は長年世界樹がどれだけ花をつけて、どれだけ種を成したか記録し、その種は慎重に育成し、合議を重ね、与えられる場所を選ぶ。

 何百年も、そうして来た。


 なのに、記録のない若木が生まれているという。


 勿論、種の記録も全てあたり苗の数も確認したが、その新しい若木の分だけ数が合わない。はるか昔に種を紛失したという記録もない。


 更に驚いたことに、その若木はありえない速度で成長しているという。




 三の樹の『朱』に捜査が命じられた。

 まだ世界樹が若いからか、渡りではこの国の王都の辺りに反応があるという事しかわからず、植えられているだろう場所を虱潰しに当たるしか無い。


 世界樹は水を好む。成長するためにそれなりの水が必要なため、大きな水源が近くにある場所を辿る。だが、結果は芳しくなかった。該当する場所に魔力が増えている箇所が一つもないのだ。


 焦っていた『朱』は、闇雲に魔力の多い場所を探し王都周辺を巡っていた。

 この国の王都は広い。そして歴史が長く、三の樹も古く大きい。元より土地が持つ魔力が大きいので、差がわかりにくく困難を極めた。





 今、魔王の屋敷で魔王を捕縛した、『三の樹、朱のニ』と呼ばれる代理人は、ニの数字が示すとおり、この国に派遣されている『朱』の中では次席である。

 実力は『朱』の全体でも一、ニを争うと認められているが、未だ小部隊の次席止まりなのは、(ひとえ)に『話を聞かない』からである。

 話を聞かず、独断専行が多い。よって部隊を任せられない。

 調整してくれる部下となる人間がいたら変わっていただろうが、不幸にもそのような人間は今の一族に居なかった。

 実力故に次席には据えるが、頭として部隊を動かす事はさせられないというのが、一族の総意である。


 その『朱の二』は本日も通常運転の一人きりで、王都内を回っていた。彼は以前から、一族が持つ情報網より注目すべきであると思う人物を独自基準で選び、抜き出していた。

 最近力を付けた貴族、商人、魔術師――情報のやり取り、又は契約書のやり取りが盛んで、予想される地域とは外れる人物の屋敷を一軒一軒確かめた。


 そして幾つか調べた後、辿り着いたのがエドワード・ジョーンズの屋敷である。


 かの屋敷は辛うじて王都に引っかかっているくらいの僻地に有った。それ故か隣との間隔も広く、周辺には空き地もあるゆったりとした静かな場所だ。見回しても川からは遠い。池なども近くには見当たらない。地下水脈の気配も通常と変わらない。


 屋敷の主は、近頃魔術の特許を目覚ましい勢いで申請している若い魔術師だ。最近結婚し、妻と暮らしているらしい、と報告書にはある。


 そこを訪ねれば、使用人には主人は留守だと言われたが、無視して一歩敷地に入った時から判っていた。

 ここには世界樹がある。

 何かしらの魔術で注意深く隠しているようだが、敷地内に入れば世界樹の気配が地面を通してかすかに伝わってくる。世界樹が出す魔力は、その根が地面を通し水脈を通し、広がるのだ。若木故にその魔力が小さくとも、代理人にはわかる。


 止める使用人を横に押しやり入り込めば、強力な結界に阻まれる。その強固さに益々確信を深め、それを『朱』が持たされている魔力を切ることができる短刀で切り裂き、侵入する。庭の一部、井戸の横がぽっかりとそこだけ何かに覆われていた。一見何も無いように見えるが、間違いなくなにかある。ぐっと目に魔力を込めて見れば、すらりとした若木が生えている。

 使用人にいつからあの樹があるか問えば、要領を得ず、ああ、見えていないのだと思い、結界を取り払った。いきなり現れた若木に驚く使用人が知らぬ、と言い、それは偽り無さそうだと思っていると、思ってもいなかった探していたものが現れた。


 この家の主、エドワード・ジョーンズ――魔王である。




 今まで発現した兆候を見せず一族を混乱させていた魔王が現れ、一瞬で制圧された。

 手を出そうにも、高濃度の魔力による圧力に屈した。

 殊更、代理人のシャツを穴を開けていく様は恐怖を通り越した。細かい穴を狂わさず等間隔で開けていく――その魔術の制御の精密さに、驚愕した。魔力の大きいものは総じて、その大きさに引きずられ制御が雑になりがちだ。魔王となればその大きさは、只人の比ではない。それ故に誕生直後に魔王としての力を扱いきれず大暴走を起こすのだ。

 だが、目の前のエドワード・ジョーンズは明らかに違う。

 身の内に巨大な魔力を宿しながら、緻密と呼べるほどの制御をやってのける。

 彼は禍々しい冷徹さを薄っすらと乗せてはいるが、正気を保ったままだ。地面の小石さえ融ける程の高温の火の針を通し、加えてシャツがその熱で燃え出さぬよう同時に冷気で周囲を冷やしている。

 熱いのか冷たいのか、ただ怖いのか、代理人は本能さえ凍るほど混乱した。


 混乱したまま捉えられ、現れた女が聖女だと判ると更にそれは深まった。




 縛られた後思ったまま口に出していたら、さらなる怒りを買ったらしく、自白を強要する魔術を掛けられた。

 精神干渉は魔王の力であり、代理人が獲得している耐性で抗えたが、瞬時に激しい頭痛と吐き気がするほど強力な自白強要の魔術を強引に叩き込まれ、怯んだ隙間に精神干渉も追いかけて捩じ込まれた。


 自我をどこか遠い場所に追いやられ、自分の口が勝手にしゃべる。それを上から他人事のように見ている感覚だった。

 人と会話をあまりしてこなかった代理人は、多分人生で一番長い文章を喋っているのでは無いだろうか。

 聞かれるままに答えている自分が、自分で不思議だった。

 会話が出来ない、意思疎通が出来ない、と散々同朋から詰られてはいたが、なるほど、他人の支配下にあれば、出来る能力はあるらしい。だが、なぜ普段自分で出来ないかはわからないが。


 その違和感だからだろうか。徐々に支配が抜けていくのがわかった。


 そのまま聖女が口を開いたかと思ったら、変な方向に話が向かっている。


 その辺りからかなり意識がはっきりしてきた。

 まだ口は自分の意を外れて勝手に言葉を紡ぐが、そのままにし、機会を待つ。甘いことに魔王は物理的に代理人を縛っているだけで、何か傷を与えているわけではない。ただ縛り方が本格的なので、目の前に本人が居る以上、縄抜けは無理だ。


 ――ならば、焼き切るか。


 代理人の一族は魔術師までとはいかないが、魔力を高濃度で浴び続ける環境で生まれ育つからか魔術を使える者が少なくない。『朱の二』も簡単な物なら使えるし、使い方も知っている。

 今は詠唱も出来ず、魔法陣も組めない。出来るのはただ小さい火を付けるだけだ。

 ジリジリと時間をかけて焼けば、魔王に気が付かれてしまう。自分の衣服に燃え移るのも構わず、一気に身体中に火を付けた。

 そこで魔王に気付かれたが、寸での差で代理人に軍配が上がった。

 ある程度縄が緩むと飛び上がり、代理人としての力を足に込めて魔王を蹴り上げる。薄いものが割れる音がして防護障壁が砕けた。だが魔王本体には届かない。だがそれは想定内だったので、勢いのままもう一度蹴り上げる。

 防護障壁さえ突破してしまえば、身体的に小さいがダメージが入った。

 魔王の体制が崩れたその間を逃さず、代理人は里から出てからずっと持たされていた魔王を捕縛する為の網に、自分の血を含ませ、練り込まれた術を発動させる。


 魔王を――捕まえた!





お読みだくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 23 拝読しました! ラストのヒキが「やったか!?」フラグを彷彿とさせて、代理人にげてぇーーー!!って脳内で叫んでました(笑) しきたりに縛られて生きる代理人一族の中で、彼みたいな感…
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