表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/30

16 聖女、水をやる

【聖女、水をやる】




 勲章授与の報奨金の代わりに役人が持ってきたのは、乾燥した世界樹の葉と花であった。


 貰った次の日、魔王と聖女は改めて箱を開けた。

 白いと聞いていた花は、乾燥しても皺が寄っているが白いままで、少しも茶色になっていない。不思議である。


「触ってみても大丈夫?」


 美しい布製の造花にも見える花に興味を持った聖女が、魔王に訊ねる。


「ええ」


 魔王は自分が先に花を摘むと、それを聖女の掌に乗せた。ふわり、と重さを感じない軽さだ。

 聖女は、乾燥していない花はどんな美しさで、どんな香りがするのだろうと思った。


 だが乗せてもらった瞬間、掌が擽ったくなり、驚いて見下ろす。


「え?」


 聖女の手に平に乗せた花は、みるみる内に潤いを持ち、今、摘まれたかのように瑞々しくなっていった。ふわりと清々しい香りが立ち上る。


 そして……その様を呆然として見ている間に、それは明らかに萎れ茶色に変色し、形を変 え……



 実をつけた……


「は……? え? いや、ちょ……」



 何がなんだかわからない。


 聖女の手のひらの上で、カサカサになった花びらの残骸の間から、ころりとした実が出来ている。


 混乱した頭で、魔王を見る。

 魔王はかすかに眉をしかめている。


「これ、なんだと思う……?」


 なんだもかんだも無いが、聖女は聞いてみた。


「世界樹の種でしょうね」


 魔王は答えると、聖女の掌から種を摘み上げると、色々な角度から検分した。


「世界樹の魔力が感じられます。割ってみましょうか?」


「え? 割るの?」


「はい。どんな物か確かめるために。その後刻むか、すり潰すかして、実験材料にしてもよいかと」


「いやいや、それはちょっとマズくない?」


「そうでしょうか……そういえば、残りの花も種になるのでしょうか?」


 そう言って魔王は残りの花を摘んで、差し出した。

 純粋な好奇心を乗せた目で見てくるので、断れそうにないな、と聖女は思う。こういう時の魔王は、絶対に引かない。彼は知識欲が突出しており、試したくなった物は我慢をしない。エドワード・ジョーンズが魔王たる由縁である。


「どう、なのかな」


 恐る恐る聖女が掌を天に向け受け取るが、何も起こらなかった。残った花をすべて試してみたが、すべて変化は無かった。


「一つだけでしたね」


「一つだけ受粉してたのかな」


 だとしても、おかしな事態ではある。


「で、どうしよう、これ」


 聖女がテーブルに転がった種をつつく。ふむ、とそれを眺めながら魔王が言った。


「庭にでも植えてみますか?」


「えーと……勝手に植えても良いものなの?」


 役人が、先日厳重な管理の元植えられ育てられると言っていたのを、聖女は覚えている。


「それは世界樹本体から落ちた種でしょう。これは聖女様の起こした奇跡から成された種ですから、管理対象からは外れておりましょう」


「待って待ってやめて! 奇跡を起こしたとか、イヤなんだけど……」


 大変聖女っぽい単語であるが、馥郁と面倒の香りが香る。


「まぁ、素人が植えてどうにかなるものとも思えませんから、物は試し程度の気持ちで植えてみたら良いかと」


「そういえばそうねぇ。厳重な管理の元、て言っていたし」


 繊細な(仮)植物が発芽し根付くには、土壌の酸性がどうとか、水捌けとか、様々な条件があるに違いない。


 ただ置いておくのもどうかなていう代物だし、リチャードに見つかってうるさく言われるのも面倒だし、食べた珍しい果物の種を植えてみるか、くらいの気持ちで二人は庭の隅に穴を掘り、植えた。

 世界樹は湖のほとりに植わっていると訊いたので、庭にある井戸の傍に植えてみた。




 そして次の朝、聖女は水をやるためにその場所へ行ってみると――





 芽が出ていた。


「夢も見てないけど……夢じゃなかった?」


 ぽかん、として思わず、某昭和の女児のような事を呟いてしまう。


 種って植えてすぐ芽が出る物だっけ……?

 小学一年生時の朝顔くらい しか、まとも(?)に育てたことがない聖女は、遠い記憶を探る。書いただろう観察記録は脳内に一文字も浮かんで来なかった。


 聖女は首を傾げたが、気を取り直して水をやることにした。


 もしかしたら、土の中に混じっていた別の植物が、たまたま芽吹いただけかもしれない。


 今朝は如雨露が無かったため、取り敢えず片手鍋に水を入れて持ってきた。そのまま鍋を傾けては勢いが付きすぎるかと、しゃがみ込み、鍋を持っていない左手で一度水を受け、少しずつ芽に掛けてみた。


「大きくなあれ」


 そんな風に言いながら、小鍋の水を全部掛けた。


 やがて掛け終わり立ち上がる。


「さて、朝ごはんを食べよう」


 そうして聖女は、魔王が焼いているだろうベーコンエッグに思いを馳せながら、一度も振り返らず家の中に帰っていく。


 だから見なかったのだ。





 発芽した芽が、むくむくと成長していった瞬間を。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 16話目、拝読しました。 魔王の詭弁というか、聖女を慄かせてから圧を緩める話術はなかなかのものがありますね。 立ち回りが上手すぎるから、ほんとに魔王に思えてきました。──まさかね、ハハハ…
[良い点] 聖女なのに聖女っぽさに拒否反応を示す聖女ちゃん可愛いですww それから某昭和女児のような呟きに吹きましたw また番外編楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ