第三話 石肥
ある城下町の近くの山に大変化けるのが上手な狐が住んでいた。この狐、町へは村娘の姿に化けてやって来て人々に悪さばかりしていたところ、彦一という男に騙されてひどい目に遭わされてしまった。仕返しの機会を虎視眈々と狙っていたが、どうにも彦一という男は隙を見せない。
そこで、皆が寝静まった夜に娘に化けて町へとやって来た悪狐は、両手に一杯石ころを抱えると、彦一の家の畑へそれらを全て投げ込んだ。山から石ころを抱えて畑へとぶちまけるという作業をしばらく続け、畑一面に石が散らばった状態になったところで、悔しがる彦一の姿を見るため、狐は近くの茂みへと姿を隠した。
次の日の朝、畑にやってきた彦一は、小石がたくさん投げ込んである光景をみて驚いたが、茂みに狐耳がとび出していたことで、これが狐の仕業だと気が付いた。そこで彦一は嬉しそうな顔をしながら、わざと狐に聞こえる大声でこう言った。
「いやはや、こりゃ助かった。石の肥料は長持ちして畑にも良い。これが馬の糞なら大変なところだったが……」
「…………なんじゃとぅ」
悔しがるどころか喜んでいる彦一に狐は口惜しがったが、馬の糞なら大変だったと彦一が言っていたことを思い出すと、不敵な笑みを浮かべるのだった。
その日の夜、狐は撒いた石ころを全て取り去ると、代わりに馬の糞をこれでもかというほど、どっさりと投げ入れた。村人に紛れるために用意した上等な服や、自慢の尻尾が土や馬糞で汚れるのも構わずに、朝までに作業を終えると、前と同じ茂みの中に隠れて彦一が来るのを待った。
翌朝、畑にやって来た彦一は畑をみるなりこう言った。
「む! こりゃあ困った。石ころの代わりに今度は馬の糞がこんなに……いやぁ、困った困った」
頭を抱えながら、畑仕事に取りかかる彦一の様子を見て、茂みに隠れていた狐はぴょこんと姿を現した。
「くひゃはははっ! やった! 彦一を困らせてやったぞ!」
そういうと、村娘の姿から元の狐の姿へと戻り、満足そうに山へと消えていった。
彦一はと言うと「困った、困った」と言いながらご機嫌な顔で畑を耕していたという。
どっとはらい
大昔に作った話を少し手直しして投稿。
本作品は概ね、民話である彦一とんちばなしを基にしております。