第二話 魚釣り
ある城下町の近くの山に、たいそう化けるのが上手な狐が住んでいた。人を化かしては悪さばかりしていたが、あるとき彦一という男にだまされて手痛いしっぺ返しをくらったそうだ。
しばらくは罰として、ひ弱な村娘の姿で村人達の雑用を手伝う日々を悪狐は送っていたが、なんとしても彦一に仕返ししてやろうと固く誓っていたのだった。
その日も朝から晩まで仕事を押しつけられた狐は、ヘトヘトになりながら帰路に就いていた。
その途中、城のお堀で憎っくき彦一をみつけたので様子を窺ってみると、なにやら背を向けて、堀に尻をつけているようだった。
「…………何をしておるんじゃ、お主」
彦一の奇行に怪訝な顔をして狐は訪ねた。
「ん? 俺か。魚釣りだ、こうしているとたくさん魚がよってくるんだ」
狐は本当にそんなことで魚がよってくるのかと疑問に思ったが、彦一の側にある魚籠にはまるまると太った鮒が何匹も入っていたので嘘でもないらしい。
朝から何も食べていなかった狐はうらやましくなって彦一の真似をして堀に尻を向けて座ることにした。
村娘に化けているといっても耳や尻尾はそのままだったので、堀に座ると尻尾が水につかってぴょんぴょん揺れる。そのうちお堀に住んでいる亀がよってきて、狐の尻尾にがぶりと噛みついたから堪らない。
「ギャッ!!」
狐は小さく悲鳴を上げると、尻尾を押さえて飛び跳ねるように逃げていった。その様子に彦一は思わず笑ってしまう。
「人を化かすという狐が化かされるとは、狐は人より愚かものらしいな」
なんということはない。堀で釣りをしていた彦一が、狐がやってくることに気付いて、一つ化かしてやろうととっさに堀に背を向けて芝居を打ったという話だったのだ。