第一話 大名行列
ある城下町の近くの山に化けるのが大変上手な狐がいた。この狐、妖艶な女に化けて男をからかったり、夜道で妖怪に化けて行き交う人々を驚かす、いたずら好きの悪狐だった。
ある日、その町で祭りが開かれた。辺りには出店が立ち並び、人々の賑やかな様子といったら大変活気があった。この時、狐はまた村人達に悪さをしてやろうと考え、村娘へと化けて祭りへと出かけていった。
その姿は、顔に狐面を付けて祭りのために着飾って遊びに来た村娘そのもので、周りの村人達は誰も狐の正体には気が付かなかった。
しかし、一人の男が狐を指さして大笑いした。
「ははは、そこそこ良く化けているが、耳と尻尾が丸見えじゃ。噂ほど大した悪狐でもないな」
「なんじゃと! 何者じゃお主」
自分の変化を見破られ、狐はふくれっ面でその男を睨み付けた。
「俺の名は彦一。なんなら俺はお前よりもっと上手く化けることができるぞ。気になるなら明日、またこの通りへと来てみろ」
変化を見破られた狐は大変悔しがったが、彦一の言葉が気になったので翌日、また村娘に化けて村人に紛れながら同じ場所へとやってきていた。
すると、通りには立派な大名行列がやって来る。どこからどうみても大名行列そのものだったので、驚いた狐は思わず行列の前に駆け寄った。
「彦一とかいったな。お主、よくぞここまで化けおったな。さすがのワシも驚いたぞ」
あまりの立派な大名行列に、狐は手放しで彦一を褒めたが、狐に対峙した侍は顔を真っ赤にして叫んだ。
「この無礼者め!」
狐はたちまち捕らえられると散々に殴られてしまった。毛皮にしてやろうかという話にもなったが、必死に謝る村娘姿の狐を哀れに思ったか、しばらく非力な村娘の姿のまま暮らし、人を助け悪さをしないと言う条件で狐は何とか許してもらうことができた。
実はこの大名行列は本物であり、彦一は今日この場所に大名行列が通るということを事前に知っていただけだったのだ。
「むぎぎぎ……おのれ彦一め、いまにみておれよ」