火星探査
「朝のニュースをお伝えします。初の有人での火星探査を可能とする宇宙船がついに完成致しました! この宇宙船について開発に関わった博士にインタビューを行いました」
画面が切り替わり、初老の男性が映る。
「この宇宙船はもはやガスの噴出による推進力を必要としません。重力子の操作によって機体の前方にある空間を歪めることで、まるでその空間に自由落下していくようにして進んで行くのです。この方法による宇宙空間の移動では、亜光速での飛行が可能です。時空の性質により、光速に近い速度で飛行する機内の時間は相対的に遅れ、普段我々が過ごしている時間よりゆっくりとしたものになります。この星で1年が過ぎる間に、宇宙船内では半年ちょっとしか過ぎていません。搭乗者たちは外の世界の時間と比べ、相対的に長生きができるわけです」
老けて目の垂れ落ちた始めたその男は、身振りを交えながら話を続ける。
「機内が無重力になるということもないため、搭乗に際して特別なトレーニングも必要ではなくなります。もちろん、到着する星の性質は鑑みる必要はありますがね。これにより我々の宇宙移住計画は現実味を帯びてきたと言えるでしょう。数年後には、全国民を乗せて銀河の外まで飛び立つことも可能になっているでしょう」
いつのまにやら机に並んでいた朝食に口を付ける。妻は子どもたちの弁当を作っているようだ。テレビに目を向けると今度は宇宙服に身を包んだ男性がインタビューを受けていた。
「火星に接近したら着陸態勢に入るため、方向転換を行います。このとき、人工衛星に注意しなければなりません。重力により光子や電磁波、超音波などを閉じ込め観測をシャットアウトすることで、安全に到着できるようにする予定です」
「到着したら、何を行いますか?」
「まずは掘削作業です。火星の気温は-130から0℃までと非常に温度差が激しいので、地下に居住施設を建設します。地中のほとんどは氷で覆われていますが、ごく一部塩湖として液体の水が存在する箇所があり、そこで必須栄養素を確保できる見込みです。その後は前線基地としての機能拡張になるでしょう。そのため、この宇宙船にはメカニックだけでなく建築家や軍事関係者も同乗しますよ」
そこで画面がスタジオに切り替わり、キャスターがなにやら偉そうな顔をした専門家らしい人物に意見を求めていた。妻のほうも朝の準備が終わったらしく、食卓に着いて食事に口を伸ばしていた。
「また支給食糧を減らされたの。これじゃやっていけないわ。宇宙船が完成したのは良いことだけれど、実際に宇宙に行く前にみんな死んじゃうわよ」
「いよいよ本格的に食糧が不足してきたらしいな。けど最近、俺の担当する区域でミネラルが見つかって、大量に回収ができそうなんだ。もしかしたら特別賞与が貰えるかもしれない」
「まあ! それは嬉しいわね。あの子達もきっと喜ぶわ。毎日くたびれるまで訓練しているんだもの、たまには美味しいものを食べさせてあげたいわ」
「実際に行くのは子供達の世代になるから、訓練が大変なのも仕方ないさ。移住計画が始動して、あの星に着いたらすぐにお腹いっぱい食べられるようになるよ。あの青い海には大量の塩が溶けているんだ」




