会話
「多重人格を知っているかい?」
「どうしたの? 突然」
「私は知ってるよ。個人の中にたくさんの人格がいて、それぞれ異なる自我を持っているのよね」
「それなら俺だって知ってるが……それが一体どうしたっていうんだ」
「いや、ちょっと気になって。どうなったらその多重人格なんてものになるのかなって」
「つまりは人間の多様性の発露だろう。人には様々な側面が存在するが、それらの間で記憶や自己同一性の連結が切れているような状態をそう言うのさ」
「なるほど、つまり自分を自分自身だと思えないってことなのね」
「そういう話なら、僕も聞いたことがあるよ。ほら、昔流行ったよね。鏡に映った自分に向かって、お前は誰だ、って呼びかけるやつ。それをずっと繰り返していくうちに、段々頭がおかしくなるんだ」
「なにそれ、気持ち悪い」
「あったあった、それでクラスの山田くんがおかしくなったって、みんな言ってたなあ。どんな子だったっけ」
「さあ。僕は誰も知らないよ。君が何を言ってるのかだって、さっぱり分からない」
「き、急に大きな声を出さないでよ……。び、びっくりするじゃない……」
「あはは、それはごめんね。悪気はなかったんだよ、本当に」
「いいじゃないか何だって。それより俺は楽しい話が聞きたいな」
「それじゃ、この前私がトイレから帰ってきたら、知らない人が部屋にいた話はどうかしら」
「ははは、それは愉快だ」
「それにしても今日は本当にいい天気。何をして過ごそう?」
「そういえばさっきから気になっていたんだけれど、君は一体誰なんだい? ずっとこちらを見ているようだけれど」
「ああ、君は知らないのか。あれが山田くんだよ。よろしくしてやるといい」




