螺旋の日々
数えるのが好きだ。
赤信号に引っかかった回数。横断歩道を渡るのにかかった歩数。緑色の服を着ている人を見かけた数。ゾロ目ナンバーの車を見かけた回数。上司が使った「えー」の数。今日、何度彼女のことを考えたか。
繰り返される退屈な日常。その中でも、ほんの少しの変化に目を向けられたら、世界は少しだけ楽しくなる。だから僕は、数えるのが好きだ。
いままでに彼女が僕に話しかけてくれた回数。彼女に好きだと伝えた回数。彼女を抱き上げキスをした回数。気まぐれな彼女を喜ばせたくて買ったプレゼントの数。
数えるのが好きだ。
暴れる彼女が僕の腕につけた傷の数。僕が、彼女を踏みつけにしてしまった回数。嫌がる彼女を風呂に入れてあげたのは何度だっけ。それから、どうしようもない僕が、彼女を閉じ込めてしまった回数。家から逃げ出した彼女を探して駆けずり回ったのは一度だけ。あれ以来、戸締りには注意している。
もちろん、楽しい思い出だってたくさんある。
彼女と一緒にご飯を食べた回数。彼女を抱いて眠った夜。僕が世界で一番幸せな人間だと、どれだけの思いを込めて彼女に伝えたか。今日、何度彼女のことを想ったか。
変わり映えのない、でもよく見ると少しだけ違う日常を終えて僕は帰宅する。帰り道に遭遇した、陽気な声を上げる酔っ払いの数。駅の階段を下りる間にすれ違った人の数。家にたどり着くまでに見かけた、明かりのついていない家の数。玄関を開けると、いつも通り彼女が出迎えてくれた。そしていつも通り、その回数にひとつ加算する。
僕らの生活には毎日のように記念日がある。でも今日は、少しだけ特別な日。彼女にご褒美をあげる日だ。その気配を察してか、彼女もいつもより機嫌が良さそうだ。
さて、これをあげるのは何回目だったかな。そう呟いて、キッチンの棚を漁る。その奥からようやく取り出した「ちゅ~る」の口を切ろうとした頃には、彼女はもう僕の足元でねだるように甘い声を出していた。




