一緒に、死体を埋める
さくり、さくり、と地面にシャベルが突き刺さる音が響く。地域によってはシャベルだったりスコップだったりと呼び名が違うらしいが、とにかく大きいほうを使って、土を掬っては投げる運動を繰り返していた。
上を見れば雨上がりの曇り空。周囲は闇に包まれた森の木々、虫の鳴き声が聞こえてくる。そして下を向いて必死に穴を掘る自分。前方には興味深そうにこちらを眺める女の子。
「先輩、大変そうですね。手伝いましょうか?」
手を後ろで組んで、身体を前後にゆらゆらと揺らしながらそいつは問う。じめりとした風が頬を撫でた。
「いや、いい。というか、お前じゃ何の役にも立たないだろ」
「あっ、ひどい。私だって何かできますよ、きっと、多分」
じっとりと湿ったシャツの袖で額の汗を拭って、大きなため息をつく。
「そう、期待してるよ。でも大丈夫。そもそも持ってきたシャベルもひとつだけだし」
そう言うと、彼女はつまらなそうにその場にしゃがみ込んだ。膝の上に両肘を立ててまた自分の作業を鑑賞する体勢に戻る。
「どのくらい掘るんですか?」
「さあ? できるだけ深いといいかな。とにかく掘れるだけ掘るよ」
「簡単に見つかったら困りますんもんね。だからわざわざ別の市の山中にまで来たんですし」
「そんなんで隠せるのかは知らんけどな。ミステリ小説とかで得た知識だし」
「まあ見つかったらその時はその時ですよ。そんなにすぐじゃないとは思いますけどね。あの家じゃそもそも捜索願が出されるのかも分かりませんし」
座った姿勢のまま、膝を抱えてまたつまらなそうに前後に揺れる後輩。つられるように木々も枝葉をざわめかせる。
「それにしても、人間って簡単に死んじゃうんですね。私、びっくりしちゃいましたよ」
それには答えず、無言で両腕を動かす。すでに穴はかなりの大きさになっており、このくらいで十分じゃなかろうかと思われた。
「先輩は、死んだらどうしたいですか?」
死体を優しく持ち上げて、一番底に横たえる。サイズに余裕をもって掘っていたおかけで、特に窮屈な姿勢にはならず、安らかに眠れそうに見えた。その胸に一輪の花を置き、頬を優しく撫でてから這い上がる。掘り返した土をまた元に戻してゆく。少しずつ、丁寧に。
「死んだら俺は、永遠に枯れない花になりたい。俺の遺骨を使って、造花にしてもらうんだ」
「先輩って意外とロマンチストなんですね、素敵です。……私が死んだときは、先輩に埋めてもらいたいですね」
「なら、叶ったじゃないか」
「あは、ほんとですね。ありがとうございます」
死体の彼女が半分ほど埋まった時、どん、と後ろから突き落とされた。強く頭を打ち、驚いて上を見ると、彼女がこちらを覗き込んでにこりと微笑んでいた。
「ごめんなさい、先輩。やっぱり私、先輩と一緒に埋まりたいみたいです」
彼女がそう言うと、ずざざ、とすごい勢いで土が流れ落ちてくる。なるほど、確かに埋めるほうは問題なくできそうだ。それにしても幽霊ってのは、意外となんでもできるんだな、なんて考える。身体に降りかかる重圧はどんどん増していき、口や鼻にはどんどん土が入り込んでくる。意識が薄らいでゆく中、澄んだ声が頭に響く。
「それじゃあ、さようなら、先輩」
「ああ、さようなら」
横に眠っている彼女が、またにこりと微笑んだ気がした。




