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第6話

野盗とは桁外れの殺気が辺りを支配する中、アタシとラルフは剣を構えた。

ローブの男が口を開く。


「さて…誰かは知らんが、こっちは取り込み中でね。悪いがお帰り願えるかな?」


「アタシは下手なナンパの慰謝料代わりに、そいつらのお宝をいただきに来ただけよ。そっちこそ、邪魔しないでもらえるかしら?」


「ふん、ハナから交渉にはならないか…」


男が構えを取る。

腰を落とし、左足を下げる、半身の構え。両の手は外套と同じ紋様が刻まれた皮の手袋をはめ、右手を前、左手を後ろに、武器を持たないまま身体の前に突き出されていた。

拳闘士(グラップラー)?魔術も使うのか?

何にせよ、大地を踏みしめる両足からは、一足飛びで間合いを詰める気概が感じられる。


ラルフがアタシをカバーするように前に立ち、ボソリとアタシにだけギリギリ聞こえるかという大きさで呟く。


「オレがアイツを引き寄せる。お前さんは援護を頼む」


アタシも同じ判断だった。

相手が近接戦に持ち込むつもりであるなら、アタシは後方支援に徹するのみ。彼の言葉にわかった、とこちらもポツリと呟き、詠唱に入る。


まずは露払い!高めた魔力を呪言と共に解き放つ。


「いくわよっ!爆裂光球(フレアブリット)!」


赤い光球が放たれ、フードの男に迫る。


「チッ!避けろ!」

「えっ!?どわっ!?」


光球は熟練の戦士であれば躱すことも叩き落すことも可能なスピード。

だが、ローブの男は舌打ちと共に大きく横に飛び、光球は反応が遅れた野盗リーダーの足元に着弾する。

瞬間、赤い光球は爆炎と共に破裂した。


「ガァァァッ!?」


爆発に飲まれ、吹っ飛ぶ野盗リーダー。

触れた瞬間、爆発する光球を打ち出す炎と風の魔術、爆裂光球(フレアブリット)。スピードがない分、避けられやすいが、直撃しなくとも爆発に巻き込まれれば戦闘不能ば免れない。

だが、ローブの男はこの魔術の特性を理解した動きを見せた。やはり、魔術に精通している…?


「もらった!」


アタシの魔術を躱して大きく距離をとった男を追って踏み込むラルフ。男が着地し、体勢を崩す僅かな一瞬を狙い、飛び込みざまの突きを放つ。

ステップの勢いを足から腰へ、さらに上半身の捻りを加え、肩から腕へと力を通し、突き出した剣の先まで無駄なく伝える、まさに渾身の突きが繰り出される。

いかに刃を潰した剣とは言え、ラルフの長身が生み出す力が乗り切った一撃は、たとえ相手が金属鎧(プレート)を着込んでいたとしても、その衝撃だけで充分な一撃。

これで決まり、アタシはもちろん、一撃を放ったラルフですら確信があったに違いなかった。

だが…


「ハァァッ!」

ギチィィィンッッ!!


耳障りな金属音が破裂する。

剣の腹を弾いた!?

体勢を崩し、ラルフの一撃を避けられぬと悟った男は、崩した体勢そのままに、上半身を腰の力だけで翻し、生まれた遠心力を流した掌で剣の腹、刀身を弾いたのだ。

だが、予期せぬ方向に力をいなされたラルフの身体が、そのまま体勢を崩した男に衝突する。


「ツァッ!?」

「ぬぅっ!?」


受け身も取れず、地面に打ち付けられるように転がった2人だが、それぞれが瞬時の隙も見せまいと、跳ねる鞠のように起き上がると同時に相手に対しての構えを取る。


す、すごい体術…!

ラルフの剣術はかなりのものだと感じてはいたが、ここまでの使い手とは…それに引けを取らない敵もまた、物凄い体術の具現者であることがわかった。


「今度はこちらから…

行かせてもらう!」


静かな気合いと共に、男が疾る。

先程の突きでラルフが見せた肉食獣のような一足飛びの踏み込みとは対照的に、低い姿勢で地を這うような足捌きはまるで蛇の如くだった。


瞬きの間すら与えない踏み込みから、

身体を回転させながら流れるように繰り出される連撃。下から上へ、掬い上げるように振るわれる男の拳が、まるでしなる鞭の様にラルフを襲う。

低い姿勢から打ち出される両の拳は、およそ下からの連打を想定していない剣士にとっては容易に返せるものではないが、ラルフはそれでもなんとか自らの剣を盾にして凌ぐ。


一撃。

二撃。三撃。

四撃。五撃。六撃。


「クッ…お前さん、速いな…!」


男のラッシュをなんとか弾くラルフ。

男のはめる革手袋には、金属片が編み込まれているのか、もしくは魔術による強化か、ラルフの握る剣とかち合っても怯むことなく、むしろ剣を弾く勢いで唸りを上げる。


「アンタもよく躱してくれる…!」


掬い上げる一撃から、横を薙ぐ一撃へ。男の身体の回転は縦へ横へと変化を繰り返し、そこから産まれる鞭打の軌道も縦横無尽の連撃へ。


ダメだ、このままじゃアタシには手出しが出来ない!

この2人の技の応酬に割って入る程の体術は持ち合わせていないし、かと言って、魔術で援護射撃をしようものなら、ラルフを巻き込んでしまう。

…恥ずかしながら、アタシは他人に作用させる付与魔術(エンチャント)は苦手なのだ。


2人の闘劇を見つめながら、手を考える。

何か、打開する策は…?

見たところ、2人の近接戦闘技術は肉薄している。いや、懐に飛び込まれた分、ラルフが不利か。

出来れば一度2人に間を取らせ、ラルフが決め手を打てるような隙を創り出したいのだが…


周囲を見回すと、視界の端に、フレアブリットで吹っ飛ばした野盗リーダーが洞窟の入り口に転がっているのがチラリと映る。


「…そっか!」


あのフードの男は言っていた。

『取り込み中』と。


アタシは洞窟に向かって駆け出した。


「ラルフ!もう少し凌いでて!」


「ミカ!?」


「させるか!!」


ラルフがアタシに気を取られた隙をつき、掬い上げた男の拳が剣をかち上げる。

ガラ空きになる胴。男は拳を振った勢いのまま、身体を回し、腰を落とす。


ピタリ、と。

まるで刻が止まったかのような一瞬の間。

ラルフの胴にほんのわずかな間を開けて男が肩を入れる。


「破ッ!!」


ドンッと男が地を踏み抜く音が響き、同時にラルフの身体が浮く。


「グゥッ…!?」


跳ね飛ばされるラルフ。

ヤバい!ダメージは薄そうだが、あの距離を取られたら、再びラルフが男に追いつくよりも、男がアタシを捉える方が確実に早い!


間に合え!

急いで洞窟に飛び込む。


「待て…!」


男が追ってくるのが気配で分かった。

ラルフが不意を突かれたのは誤算だったが、男が追ってくるのは狙い通り。彼が言った『取り込み中』という言葉。洞窟の中に『何か』を残して出てきたという読みはビンゴ!


詠唱。


視界が暗くなる。


土と岩の匂い。


視界の端で揺れた松明の灯り。


洞窟に駆け込み、数メートル。

ラルフを引き離した男が追ってくる。


ここで決める!


アタシは追って洞窟に入ってきた男に向き直り、両手をかざした。

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