第4話
街道から外れた森の奥、アタシたちが来た獣道の終点には、崖の岩肌に出来たらしい、天然の洞窟があった。
どこまでも、ベタな連中ね…。
奴らに気取られないよう、少し離れた木陰に潜み、アタシとラルフは洞窟の様子をうかがった。
見張りの数は2人。
洞窟はやはり天然のものらしく、周囲の崖肌を見ても加工した跡はない。あとは、出口がいくつかあるか分かれば安心なのだが…
「入口も出口も同じタイプだな、あれは」
ポツリと呟くラルフ。
ちょうど考えていた疑問の答えが思いがけない方向からもたらされ、ちょっとびっくり。
「なんで分かるの?エルフの能力か何か?」
「いや、能力ってほどでもないっつーか…ほれ、あそこ。入口の地面」
地面?別にアタシからは特に異変は感じられない。雨上がりでぐちゃぐちゃにぬかるんでいるのは、アタシたちが
通ってきた森の地面と変わらない。
「あそこの地面な、泥で乱れてわかりにくいけど、足跡の数が入るのと出るの、同じくらい残ってるんだよ。他に出口があったら、そうはならないだろ?」
「んなっ!?あ、アンタ、この距離でそんなとこまで見えてるの?」
洞窟からの距離、二、三十メートルはあるだろうか。本当に見えてるとしたら鷹並みだわ…。
「ハハッ、昔から目は良い方でね。
エルフは多分、関係ないだろ。オレ、混血だし、エルフっぽいの外見くらいだぞ」
へらへら笑ってるラルフ。
うーん、あんまり興味ないけど、得体の知れないヤツね。
まぁ、何にせよ…。
「洞窟の出入り口が一つと分かれば、あとは特に警戒することもなし。サッサとやっちゃいましょ!」
そう言ってアタシは身を隠すのを止め、洞窟に向かって堂々と歩を進めた。どうやら、ラルフも考えているのは同じようで、何も言わずにそのまま後ろを付いてくる。
ん、やりやすくていいじゃない。
…何も考えてないのかもしれないけど。
さて、そんなわけでアタシ達は堂々と洞窟の前に姿を現わす。
作戦は簡単。ここで暴れるだけ。
「ハァ〜イ♪お仲間の5人は、無事に帰って来てるかしら?」
見張りの2人にご挨拶。
逃げ帰った仲間から報告を受けていたとは言え、まさか自分達が追撃を喰らうなどとは思いもよらなかったのだろう。男達は混乱を隠そうともしなかった。
「なっ…!?じ、じゃあ、テメェらがアイツらをやった奴等なのか!何しに来やがった!?」
「やーねー、ケンカ売ったのは自分達でしょ?わざわざ買いに来てやったわよ!」
戦線布告。同時に剣を抜いて詠唱開始!ラルフも剣を抜いて構えを取る。
「くそっ!コイツらやる気だ!お前は奥の奴ら呼んでこい!」
1人が伝令に走り、残る1人が山刀のような武器を構える。
だが、遅い!まずは一発、ぶちかます!
「炎の精よ、我が手に集え!」
かざした左手に魔力を流し、手を開く。五本の指に紅い光りが灯り、炎の力が具現する。
「行けっ!炎の矢!」
生まれた炎を投げつけるように発射する。五つの炎の矢が空を切り、見張りの男を目掛けて飛んでいく。
「ぐあぁっ!?ま、魔術師かっ!」
すんでの所で避けられた炎の矢は岩壁を黒く焦がして霧散する。だが、これはあくまで牽制。既にアタシの放術と同時に踏み込んだラルフが、男の懐に飛び込んでいた。
そのまま一閃、反撃を許すことなく男は戦闘不能に。
うーん、ホントに速いな彼。今回はかなり楽できそう。
男を斬り伏せたラルフがこちらに振り返る。
「お前さん、やるなぁ。炎の矢が五本も出るなんて初めて見たぞ」
「まぁね、初級魔術でも魔力次第で威力は変わるわ。
…と、次が来たみたいね。ラルフ、下がって!」
洞窟の奥からいくつもの足音。伝令が味方を呼んで戻ってきたのだ。
アタシとラルフは左右に分かれ、洞窟の入り口から数メートルまで下がる。
穴から出てきた人数は予想よりも多かった。20人近くはいるだろうか。
だが、いくら数が多くとも、魔術詠唱の時間さえあれば、問題ない。ラルフの方も、彼の腕なら放っておいても大丈夫だろう。
穴から出てきて散開する男たち。
既に1人がやられてるのを見て、武器を構える。
「くそっ、たった2人にやられるかよ!お前ら、行け!」
中央の男が号令をかけると、男たちはそれぞれがラルフとアタシに殺到する。
あーあ、そんな固まってきたら一網打尽じゃない。
アタシは後ろに下がりながら詠唱に入る。追ってくるのは7人、やっぱり大半はラルフに行ったか。これはラッキー!
「よっと!」
鈍い金属音。
アタシの剣が、追ってきた男の振り下ろす短刀を弾く。魔術師の細腕でも、敵の攻撃をいなすくらいはできる。
続いて横から薙ぎ払われた2人目の一撃は後ろに跳んでかわすが、着地の際に体制を崩し、ずしゃりと音を立てて膝をつく。
「へっ、観念しな!もう逃げらんねーぞ!」
追ってきた奴らは膝まついたままのアタシを取り囲む。女と思って油断したのか、すぐにトドメを刺そうとはしなかった。
よっしゃ、狙い通り!
アタシは詠唱を終え、魔力を込めた手を地面に叩きつけた。