俺はもうダメかもしれない
プロローグ
狭い5.5畳のアパートの一室でタバコをふかしながら、宙を眺めて私は思う。
「暇だ。何もすることがない。」
先日、大学院をドロップアウトしたのでやることがない。辞めた理由は修士論文が書けなかったからだ。やめる寸前は目の前が真っ暗になって、人生のどん底にいる気分だった。辞めた時は開放感と罪悪感が混じり合った、なんとも言えないいい気持ちだった。友達にはバカにされ、先生からは軽蔑の眼差しで見られたが、俺は最高だった。そこから、半年間何もしていない。退屈は人を殺すという。だから、私は、この狭い部屋で時に一喜一憂する。そんな私の些細な小話をするとしよう。
1.部屋の蜘蛛
私の一日はタバコを吸うところから始まる。昼過ぎに目覚めて、気だるい体を無理やり起こし、窓を開けてタバコを吸う。春先は暖かく、もう一眠りしようかと下に目をやると、小さな蜘蛛が一匹いた。殺すのは容易いが、暇つぶしになってもらおうと見逃すことにした。
次の日の朝、ふと下に目をやると、やはりそこには蜘蛛が一匹いた。2日立て続けに顔を合わせると、親近感が湧いてくる。こいつをしばらく観察しようと決意した。
一週間も経つと、小さな蜘蛛は大きくなっていて、巣も立派になっていた。好奇心でタバコの煙を吐いてやると、すごい勢いで後ずさりした。可愛いやつだ。
二ヶ月経つと、大人の蜘蛛になっていた。この頃になると、タバコの煙を吐いてやっても後ずさりせず、涼しい顔で巣の上立っていた。もう、子供じゃなくなったんだなぁとしみじみ思う。
そこから、三ヶ月たったひんやりとした朝だった。そこには、蜘蛛の姿はなく巣も無くなっていた。少し悲しい気持ちになり、泣きそうだった。ただ、来年の春、元気なアイツの姿が見られると信じて俺も頑張ろうと思う。
初秋の暖かい昼時のこと、思い切って部屋を出て、いつもの場所に向かう。タバコの匂いに連れられて、元気なアイツの姿を上から見下ろした。