4、少年よ
トクドー地方。ナーマ町。
俺はボロボロの外套で全身を覆っている。
何故かって?
一つ、近くのメモリーズダンジョンを攻略してきたからだ。
ダンジョンのような壁にまで魔力が染み込んでいる空間では魔力線が反射し易い。
俺のジャミングを持ってすれば攻略も容易いのだが、岩とかで服が擦れるじゃん。だから外套を羽織ってるんだけど、ずっと使っているとボロボロになるよね。
まぁ、それはさておき。商売を始めようか。
リュックの中から敷き布を取りだし露店を開く。
16歳になった俺は、親の許しを得て旅の商人になった。
もちろん。一人立ちしても大丈夫な実力を両親に認めさせる為、リザンに協力して貰ったのは言うまでもない。
「よってらっしゃい見てらっしゃい。掘り出したばかりの良い武具揃えてますよー!」
今日の品は5点だ。
火の魔石(大)、光曜日のイヤリング、精霊樹の棒(魔力密度大)、巖竜の竜鱗、剣術の思念書(初級)
「おっ、丁度防具の素材に巖竜の竜鱗を探してたんだ。こいつをくれ」
早速、冒険者が一点買ってくれた。これは幸先が良い。
「毎度あり~」
俺の右目には、商売に便利な使い方もある。
相手から感じられる魔力の波長や、体内の魔力線を見れば、その波長から良い人か悪い人か分かるんだ。
本来ならその辺も商人としての力量を積むのが大事なのだが、利用出来るものを利用するのも商人だ!
因みに、素材や何だのの目利きは、実家の雑貨屋で培った知識と経験。
武具やアクセサリーの名称は、それが流通していない限り、ぶっちゃけ商人のセンスで決まる。
さてと、そろそろ移動するか。
俺がこの町にやって来たのは、善人へ武具や素材を売る以外にも目的があるからだ。
勇者パーティーの1人、彩氷のキザン。
アザマスの友であり、兄貴分。
逆行の中でアザマスとキザンの話は良く聞く。まるで本当の兄弟の様だと言われていた。
故に惜しい人を失ったと。
魔族の戦略的巨大魔獣との海上決戦にて、その長けた魔力凝結能力を命を振り絞って使用し、レイテンと友に粉々にくだけ散ったと。
海上決戦の為に出ていた帝都ダイゲンの船団乗組員はその時のことをこう振り返る。勇者が彩光の力に目覚めることが出来たのはキザン様の犠牲があったからかも知れないと。
俺はそのキザンが犠牲になる未来を変える。この魔粘土、魔力駒、魔糸のアイテム3点セットを渡す事で。
これらは魔力操作を鍛えるのに持ってこいのアイテムだ。
俺のお古でもある。
魔粘土で魔圧を、魔力駒で魔力の波長を、魔糸で魔力制御信号を鍛える事が出来る。キザンもまた俗に云う天才だ。
今から鍛えれば、戦略的巨大魔獣との戦いで命を落とすことは無くなるだろう。
……
魔草に寄生された野犬、デビルリーフドッグに追い詰められている子供たちがいる。
一人は女の子。花の沢山詰まったかごを抱えて震えている。
もう一人は女の子を守るように、果敢にデビルリーフドッグと女の子の間に立っている。
少し町から外れているため、大人たちの影は無い。
「ミリは俺が守るんだ!犬っころなんかに負けてたまるか!」
デビルリーフドッグは一匹。
もともと、寄生型の魔物に群れるという習性は無いため一匹が人里辺りを彷徨くのも珍しくない。
「ミリ、俺がヤツを引き付けてる内に逃げろ」
「そんな、キザン兄ちゃんをおいてなんて行けないよ」
「いいから、早く!」
「う、うん」
キザンがデビルリーフドッグに飛び掛かり、その内にミリは町に向かって走っていく。
花の沢山入った籠を置いて。
中々しっかりしてるじゃないか。この町の周辺では魔物を見なかったし。デビルリーフドッグに出会ったのは余程の不運と言ってもいいだろう。
「くっそー!」
お、キザンから魔力線が出たな。
そう、そうだ。君が得意な魔法。それが、君の波長に合う魔法だ。
キザンがデビルリーフドッグのこめかみを殴ると、そこから片目までが凍った。
驚いたデビルリーフドッグは逃げ出すが、もう少し付き合ってもらう。
波長剣をコントロールしてデビルリーフドッグの体内にある魔力線を切断し、転ばせる。
キザンはホッとしたのも束の間、逃げ出したデビルリーフドッグが不自然に転んだことで警戒を強めた様だ。
波長剣を収め、認識阻害のジャミングを解いて少年の前へと現れる。
「やぁ、こんにちは。君凄いね。冒険者でも無いのに素手で魔物を撃退しちゃうなんて」
「誰だお前は!」
「いやぁ、怪しいものでは無いよ。って、こんなボロを被ってちゃ怪しいか。まっ、しがない旅の商人だよ」
「商人が何の用なんだ」
「さっきの君の行動に感動してしまってね。ファンになったんだよ。で、これを受け取って欲しくてね。説明書も付けてあるから。また誰かのピンチを救いたいと思った時に、このアイテムを使っていてくれたら、後悔しない。保証する」
俺はキザンにアイテム3点セットを見せる。
「そんな怪しいもの受け取れるか!」
「キザン少年、明日。あの川向こうにある丘に来てくれないか。この3点セットがあれば、ミリちゃんや他の誰かを守れる力が得られることを証明しよう」
俺はそう言ってまた、魔力ある者の視覚では存在を捉え難い波長操作をし姿を消した。
……
翌日、キザンは丘へやって来た。
俺は、魔物の触覚が捉え易い波長を出して大量の魔物を誘き寄せ、ジャミングで動きを鈍らせながら、波長剣で全滅させた。
それを見たキザンはアイテム3点セットを受け取ってくれた。
「あんた、名前は?……名前は何て言うんですか」
俺の力を見たキザンは、辿々しいが言葉使いを改めてくれるようだ。
「うーん、そうだねぇ。こういう風に呼んでくれ、人族の味方″ギフトラベル″」
「ギフトラベル?……分かった。ありがとうギフトラベル。これできちんと訓練する。だから、俺の町は見のがして下さい」
ん?んん?
キザンは何か勘違いをしているな。
けど、目的の物は渡せたし良いか。
「あ~、何か勘違いをしている様だけど。まぁ、頑張ってね」
こうして俺はナーマ町での目的を終えた。
多少擦れ違いが生まれた気がするけど、気を取り直して次へ行こう。




