1、逆行の挑戦者
燃える王国。
城も、城下町も。全てが燃え盛る。
カーリ地方ジッケン王国は、魔族の侵攻に最後の抵抗を見せている。
「くそっ!この国もお終いか……」
「もう逃げ道は無いのね」
「何とか魔族に一泡吹かしてやれないものか。このままじゃ死んでも死にきれん!」
「そうだ。姫様を救わないか。ずっと前線で戦っておられる。姫様だけなら、守るべき国民さえ居なければ逃げ切れるだろう」
「そうね。良い案だわ。姫様が勇者様に合流すればいつかきっと、私達の仇を取ってくれる」
「よし、いくぞ!」
「アニ坊、守ってやれなくてすまねぇな。最後に、父ちゃんと一緒にお姫様を助けるぞ!」
「親父、こんな時にまでア二坊なんて呼ぶなよ。まぁ、しがない雑貨屋の息子だが、ここで一旗挙げてやらあ!」
「頼もしい限りだ」
……
燃える城下を、破竹の勢いで駆ける一団がいる。一般人と冒険者、騎士による混成の集団だ。
「姫様ぁあ!」
先頭の騎士が叫ぶ。
城門が既に機能していない広場でこの国の姫は戦っていた。
傷ついた者を回復し、魔法で光の矢を放ち魔族に抵抗をしている。
「あなた達、何故!?国民を連れているのなら、早くこの国を離れなさい!」
一団が合流しようにも魔族との戦力差は変わらず、次第に囲まれていく。
「姫様!俺達は姫様を逃がす為に来たんだ!」
「そうです。夫の仇を、息子の仇を、私の仇をどうか!宜しく頼みます」
姫は悔しそうに目を瞑った。
そこへ、年老いた兵が「姫……」と呟く。
戦場は、刻一刻と魔族の勢いが増す。
「リリー姫!早く、こっちだ!」
いつの間にか姫の元まで辿り着いていた青年が姫の手を引いた。
すると、姫の背中を先程の老兵が強く押し叫ぶ。
「行け!!小僧っ!!!」
姫は叫ぶ老兵を見るとぐっと気持ちを抑え、覚悟を決めて青年に振り向き、逆に青年を引っ張って走り出す。
「貴方、名前は?」
「俺の名前はアニシャだ」
「そう、アニシャ。私は今から国民を見捨てます。そんな私を逃がす覚悟が、アニシャ貴方にはあるのですか?」
「あるさ。その為に散った仲間もいるんだ。ここまで来てそんな事聞くなよ」
「失礼しました。けど、貴方の覚悟か聞けて良かったわ。アニシャ、抜け道をつかいます。しっかりついて来なさい」
会話をしながらも、流石に一般人のアニシャと、前線で戦うだけの力があるリリー姫とは脚力が違うのか、アニシャの方が引っ張られている。
リリー姫は民家に偽装していた抜け道や、石壁の通路の途中にある秘密のトビラなどを使い、アニシャと共に戦場から逃げ続けた。
そして辿り着いたのは、巨大な岩をくり貫いたかの様な洞窟。
辺りを魔素光が漂い、洞窟内を照らしている。
奥に祭壇があり、後ろの壁には王家の紋章を含めた様々な紋章が彫られていた。
よく見ると、床にも紋章があり、時計と虎柄の鐘が合わさったものだった。
「ここは一体?」
アニシャの問いに、リリー姫が答える。
「ここは、王家の罪の間。パス。今から貴方には過去へ行って貰うわ。過去へ行くといっても、今の貴方の意識だけが過去に飛ぶことになる。魔族が争いを起こす前へ飛ばすつもりだけど。最悪、赤子に戻ってしまえば……ここへ来た意味は無くなってしまう」
「えっ、それならリリー姫が過去へいった方が……」
「過去へ意識を飛ばす儀式には、それを操作する術者が必要なの。だから貴方に託すの」
「けど、申し訳ないけど俺はには、何の力もないぜ?」
「だからです。下手に魔力が高かったりすれば、時の逆行の妨げになると言われています。もう時間がありません。世界を頼みます。王族の私に会うのは難しいかも知れませんが、もし、過去の私に会えたら……」
「″もし、過去の私に会えたら……虎がベルを鳴らした、と伝えてください″だろ」
突然のパスの言葉にリリー姫は驚愕に目を開く。
「貴方は……今、何度目なのですか……」
「良いって、毎回アンタに悲しまれるのも慣れてる。すまないな。何回も繰り返していて。ようやく覚悟が出来たんだ。次こそは、俺達が勝つぜ。さぁ、儀式を始めてくれ」
……
「分かりました。どうか、ご武運を」
そして儀式が行われ、アニシャの意識は再び過去へ飛ぶ。




