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万理は一瞬にして両親と秘かに想いを寄せていた義兄と帰る家を無くしたのだ。呆然としてこれからの事を考える力も残っていない。ただ涙を流し続けた。気が付けばチェックインしてから10時間近く経っていて、窓の外は白んでいた。時計を見ると朝の5時半。
万理はベッドの上で目を閉じた。どれくらいかウトウトと浅い眠りに落ちていた時、インターホンが鳴った。とっさに義兄が迎えに来てくれたと思った万理は確認もせずにドアを開ける。しかし、そこに立っていたのは東野家の顧問弁護士だった。彼は一礼すると小さな段ボール箱を差し出し、
「アメリカの大学は学費を全て納めています。そこに帰るのも日本で新たな生活を始めるのも万理様の自由です。この箱の中には緑様があなたの為に積み立てていた預金通帳や小さかった頃の写真などが入っているそうです。これは万理様にお渡しして良いという事でしたのでお持ちしました。
万理様は東野司様の遺産相続を望まれますか?」
「そんな!お金なんて要りません。私はただ家族として2人を天国に送ってあげたい。何よりもう1度2人に会いたい。顔を見たい。2人は私の両親なのに!こんなのおかしいです。」
万理は泣きながら訴えたが、弁護士は表情も変えずに
「では遺産を放棄する書類にサインしていただけますか?養子離縁届の手続きを進めていますので、全て終わった時点で私の方からお知らせいたします。手続きが終われば万理様は東野万理様では無く、木下万理様に戻ることになりますので、今後一切東野の名前を使われる事の無いようにお願い致します。」
どこまでも冷酷な東野家のやり方に万理は言葉を失った。