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両親と言っても東野司は万理の本当の父親では無い。万理の母である緑の再婚相手で、実の父親は万理が1才の時に病死した。その為実の父親の記憶は無く、万理にとって父親は司だけだった。
「こんなに突然2人がいなくなるなんて。」
万理は日本に向かう飛行機の中で涙を止めることが出来なかった。
万理が都内にある東野邸に戻って来られたのは、山本の電話を受けてから2日後の事だった。
帰国の便を知らせてあったのに、空港に迎えは来ていない。
東野司が社長を務める東野不動産は、日本国内はもちろん、近年は海外まで手を伸ばし、業界では最大手である。その社長である司の突然の死に、東野家の人々がパニックを起こしているのだろう。万理もそうだが、東野家の人々にとっても、司の存在はそれ程大きかったのだ。
そして緑の死によって万理の血縁はこの世に1人もいなくなってしまった。
タクシーを降りた万理は、震える手で大きな門扉の横にあるインターホンを押す。両親の亡骸は既にこの家に戻ってきているはずだ。
応じたのは執事の山本だった。
「山本さん万理です。只今戻りました。」
「・・・万理様。申し訳ありませんが、この屋敷に万理様をお入れすることは出来ません。ご当主様のお言い付けです。お引き取り下さい。」
山本が震える声で言う。万理は言われたことを理解するまで時間がかかった。3才でこの家に来てからずっとこの大きな屋敷が万理の家で家族のいる場所だった。ここ以外に万理の帰る場所などない。
「山本さん!何を言っているの?お父様とお母様が帰って来ているんでしょう?今すぐ門を開けて!!2人に会いたいの!お願いします!」
万理は泣きながら叫んでいた。