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万理はアンソニーとナンシーが宿泊している客室のベッドで横になっていた。今日ナンシーは日本在住の友人と京都旅行に行っている。アンソニーはパーティーの最後に簡単な挨拶をする為に会場に戻って行った。
さっき石本聡子に言われた事を思い出して、自然と涙が流れる。1人でいるとまた3年前の事を思い出し、突然の吐き気にトイレに駆け込むと、嘔吐を繰り返した。1時間後アンソニーとアーロンが部屋に戻った時、万理は洗面所で倒れていた。青白い顔をした万理を抱きかかえたアンソニーは完全に理性を無くし、ただ万理の名前を呼び続けた。アーロンに無理やり万理と引き離されてようやくアーロンが呼んだホテルドクターが来たことに気付く。
1時間後、万理は点滴を打って今は眠っている。その寝顔を見ながら、アンソニーが口を開く
『こんなに動揺するなんて、あの短時間の間に何があったんだ?アーロン、あの東野要と一緒にいた
女を調べてくれ。彼女に何かされたか、言われたか…それしか考えられない』
『分かった。明日早速手を打つよ』
『しかしあの男は何なんだ!自分から放り出したくせに心配している演技か?』
万理に駆け寄ってきた時の要の様子を思い出し、アンソニーはイライラした。
『演技のようには見えなかったよ。3年前の事も少し調べてみる必要があるかも』
『確かに。ただ3年前唯一の血縁である母親を亡くした娘を追い出した事実は変わらない。許せないよ』
静かに怒るアンソニーにアーロンもそれ以上何も言えなかった。
翌朝10時を過ぎても万理は起きて来なかった。ルームサービスで朝食をとっていたアーロンのスマホが鳴る。東野要からの電話だった。
『朝からすみません。万理はどうですか?』
『昨夜ドクターに診てもらって点滴をして、今も眠っていますよ。今日はもう大丈夫でしょう』
『そうですか。安心しました。…それであなたにお願いがあるんですけど…一度万理と話をする機会を作っていただけませんか?3年前の事を万理は誤解しています。その誤解を解きたい。あなたが同席して下さっても結構です』
『それは、私の判断ではお返事できませんね。今万理の義母が来日していますので、彼女と義兄の副社長と相談してお返事します。私としては誤解があるなら1度2人で話したほうが良いと思いますけどね』
『ではご家族と話し合われてお返事を頂けますか?お手数をおかけしますが、万理がアメリカに帰ってしまう前にどうしても会いたいんです』
アーロンは電話を切った後に、この話をした時に荒れるアンソニーの姿を想像して溜息をついた。




