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星たちがさえずる月夜に咲う  作者: たゆんたゆん
第一章 誕生編
8/32

【乙女、雲上人に出逢う】

2016/1/14:タイトル表現調整

2016/3/22:記号◇の位置を動かしました。

2016/3/31:本文修正しました。

2016/10/21:本文修正しました。

 

 あぁーっ、買い物楽しみっ!!!




              ◇




 と叫んでから一週間後、わたしは大事な大銀貨一枚を握って紅鶴の城下町で三番目に大きい宝飾店にいた。え? 一番目や二番目じゃないのって? 無理むり無理!! そんな高級店に行ってお買い物できるのは、せいぜい上級貴族と王族だけよ! しがない下級貴族の次女には高嶺の花。でもいいんだ、だからこそ売れずに残ってるだろうって思った髪留めを今日買いに来たんだから!


 わたしの一目惚れなんだ、その髪留め。お店の人に聞いたら何でもエルフが好んで身に着けている髪留めみたい。かんざしっていうんだって。面白い名前だよね。エルフが好んで身に着けてるってことは、エルフが作ってる装飾品なのかな?


 あれ? 誰だろ? お店の横に上級貴族様が使いそうな立派な馬車が停ってる。御者の人が馬の番をしてるから。間違いないわね。家の馬車より良い馬車だわ。あ~変な人がいたら嫌だな。ちょっとだけ(のぞ)いて、危なそうだったらまたにしよ。うん、そうしよう!


 カラン


 「いらっしゃいませ」


 いつものお姉さんが挨拶してくれた。栗金茶色(くりかねちゃいろ)の綺麗な長髪に承和色(そがいろ)の瞳。少しふわっとした顔立ちだけどお店の雰囲気にぴったりな感じだから、何だか落ち着くの。それにちょっとした動きでぴくっと反応するところを見ると、多分お姉さんは人猫族だわ。


 あまりにぴくぴくするのが楽しくって、目的がそれを見ることに変わった時があったね。遣り過ぎてじとっとした目で睨まれたから、今はほどほどにしてるの。


 「こんにちは」


 わたしも短く挨拶して、店内をキョロキョロと観察する。ん? 店の奥の方に男声が二人立っているわ。一人はディノさんたちに近そうな年齢の人牛族(ウェアキャトル)の男性。人羊にはない大きな角があるから。綺麗なウェーブのかかった銀朱色(ぎんしゅいろ)の髪が、耳を隠し肩口まで伸びている。


 もう一人は年配の紳士? わたしたち獣人はかなり年を取らないと白髪まじりにはならないから、あの方は70歳くらい? 執事さんかしら? 無角族の人羊のような気がする。鼻の下に蓄えられた白い口髭が素敵なおじい様だ。


 幻獣族には不思議な感覚というものがあって、同じ種族であればなんとなく魔力(マナ)の繋がりを感じ取ることができるの。人犬族と人犬族、人猫族と人猫族というふうに。あんまり外れたことがないから、多分合ってるはず。


 「おや、可愛らしいお嬢さんが来たね」


 奥に居た人牛族の男の人がわたしに気がついたみたい。にこっと笑顔をわたしに向けてきた。その深紅(しんく)色の瞳と眼が合って、慌ててそらす。ドキドキする。執事のおじいさんは軽く会釈するするだけだ。別に怖そうな人じゃないから、大丈夫だよね?


 「お嬢さん、ちょっといいかな?」

 「ひっ! あ、はぃ」


 びっくりした! 声掛けられないだろうと思ってたから、油断してた。長角族の人牛の人って。あまり見かけないわよね。何処の人だろう?


 「妻にプレゼントをと思って色々見ていたんだけどね、色々ありすぎて目移りしてしまって結局決まらないままここで唸ってるんだ」

 「奥様へのプレゼントですか? 素敵ですね」

 「ありがとう。それで、君ならどんな物をもらうと嬉しいかな?」

 「え? わたしですか? というか、なんでわたし?」

 「殿下」

 「良いんだ。店員の意見も大事だけど、生きた意見には価値が有るよ?」

 「は。差し出がましいことを申しました」


 え? え? 殿下? ちょ、ちょっとまずいこと言ったかな? 多分じゃなく間違いなくこの人たち上級貴族だよ。あわわわわわ、どうしよ。


 「ごめんごめん、そんなに気にすることないからね。ウチの奥さんはね、色々と装飾品持ってるんだよ。指輪、ネックレス、腕輪、イヤリング。いつも付替えたりするのが大変だから、そうしなくてもいい物がないかな~って探してたんだけどね。君ならどんなものが良いと思う?」


 ふぇ~やっぱり上級貴族様は違う~。でも、意見を求められてるだけなら、大丈夫かな? よっぽど変なこと言わなければ。


 「えっと、それでしたら。足輪(アンクルリング)などいかがでしょうか? ドレス姿が日常生活で多いのであれば、足首ならあまり目立つことはありませんし、同じものをつけ続けていたとしても気付かれないと思います」

 「足輪(アンクルリング)? 初めて聞くのだが」

 「今わたしが勝手につけた名称です。申し訳ありません。腕輪を足首に嵌めるという利用方法もあるのでは? と思ったのです」


 はっ!? 今店員のお姉さんの眼が光った気が。何か変なこと言ったかしら。


 「それは面白い。すまない。こちらにある腕輪は自動調整(オートフィット)の術式が組まれているのかな?」


 人牛族の男の人の問いにお姉さんが急いでやってきて、その通りだと告げる。腕でも足首でもどこでも着けれると。あれ? もしかしてわたし売上に貢献出来てる? 上手く言えば値引きしてもらえるかも!? 期待を込めてお姉さんを見ると、にこっと笑ってくれた。行けるかも!? 思わず三人に背を向けて両拳を胸の前でぐっと握り締めるわたし。


 「あ、お嬢さんすまないね。君も探したいものがあったのに、付き合ってもらって悪かったね」

 「いえ、とんでもありません。奥様へのお気遣いにわたしのような者が口を挟んですみません」

 「君は面白い娘だね。名前を教えてくれるかい?」

 「あ、えっと。はい。モニカ」


 どうしよう、家名言わなきゃまずいわよね。ええぃ、どうにでもなれ! 御父様、御母様ごめんなさい!


 「モニカ・ル・メティクルと申します」

 「ほぉ。メティクル子爵家の御令嬢でしたか」


 その言葉に、お姉さんが口に手を当ててびっくりした顔になってる。はぁ、どう見てもまずい展開だわ。お姉さん、わたしが子爵家の人間だって知らなかったよね。教えてないし、教えるつもりもなかっただけど、それで気づくとしたら余程の貴族通だわ。


 「あ、すまないね。詮索するつもりはないから安心してくれないか。わたしも今日はお忍びだしね。見張りはいるけど」

 「おほんっ」

 「ほらね」

 「はぁ」


 本当、この人誰なんだろ? わたしも宮廷に何度か行ったことはあるけど、見覚えないし。こんな綺麗な髪と長角は忘れないわよね。いくらなんでも。どうやらこの人、執事のおじいさんが煙たいみたい。


 「それで、モニカ嬢はここで何を探してるんだい?」

 「え、あ、これを買いたいなと思ってお金を貯めてたんです」


 そう言って目当てのかんざしを指差す。はぁ、綺麗。わたしが見ている簪は、二股になっており束ねた髪を留める為に、そこへ挿し込むようにして使うものだ。全体で15cm位の長さかな。二股の部分が10cm位あって、それより上は一本になってて、その部分に実が付いた植物の枝の飾りが付けられてるの。実は小さいけど4つ付いてて全部宝石。多分全部、血玉髄(ブラッドストーン)


 「本当にこれが好きなんだね」


 簪を惚けるように見ているわたしを見て、男の人が笑う。


 「じゃあ、こっちのはどう? これが好きなら、こっちも気になるんじゃないの?」

 「ゔ」

 「え、どうしたの?ごめん、何か悪いこと言ったかな?」


 確かにそうなの。この人が言うように、こっちのデザインも好き。というかもっと好き! でも大銀貨一枚じゃとてもじゃないけど手が出ないの。そんなの分かってるのに。って思ったら泪が湧いてきたみたい。慌てて首を振る。


 「良いんです。しがない下級貴族の次女ですから、高望みはしてませんので」

 「現実をしっかり見つめるのは大切なことだね。でも、気を悪くさせたことには変わりない。すまなかった」

 「そ、そんな勿体無いお言葉をわたしなんかに。や、やめてください。そうされるとおじい様の視線が痛いのです」

 「ぷっ! ははははは。聞いたかい、じぃ。お前の視線が痛いそうだよ」

 「は。致し方なきことかと」


 もう、笑い事じゃないんですって。痛いというか下手したら殺気のような鋭さを持てるんですよ? 御母様が御父様にブチ切れた時みたいな。はぁ、悪い人じゃないのはわかるんだけど。得体の知れない方だわ。


 「さてと、ここに来たということはモニカ嬢はついにこれを買えるということかな?」

 「はぃ、そうなのです! (ようや)く!」

 「なるほど。ではわたしも決めるとするかな」


 余りに嬉しくて張り切って答えてしまった。男の人は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにっこり笑ってくれた。緊張させない人だなぁ。おじいさんは怖いけど。


 「あの、これを頂けますか?」

 「畏まりました」


 お姉さんに、目当ての(かんざし)を取ってもらう。いつかこれを使って術式を組むんだ! って思いながら高級簪に目を向けつつ、お姉さんの後について行く。支払いしなきゃ。おっと、奥様へのプレゼントも決まったみたい。


 「よし、決めた。これなら邪魔にはならないだろ。すまないが、これとこれを頼む」

 「はい。承知致しました。こちらでよろしいですか?」

 「うむ」


 わたしの簪をカウンターに置いて、男の人の下へいくお姉さん。わたしの方が先なのだけど、ここはお譲りしましょう。えっ!? そ……そんなぁ~ーー。


 お姉さんが男の人の選んだ物を持って戻ってきたんだけど、一つは腕輪。もう一つはさっきの高級簪だったの。か、買われちゃうのね。サヨナラ、高級簪。あなたとは縁がなかったって事ね。可愛がってもらうのよ。なんだか娘を送り出す気分でこうなのかしらと思えるほど切ない。


 「それでは三つで小金貨三枚になります」


 そっかぁ、小金貨がいるのね~。ん? 三つ? カウンターの上にあるのは、わたしの簪と、あの人が選んだ腕輪と高級簪の三つ。え? え?


 「どういう? え?」

 「今日の買い物は全部わたしが持つ。妻の為に知恵を貸してくれたことへの礼と、モニカ嬢の泪への謝罪だ。受け取って欲しい」

 「え? え? え?」

 「わたしにはこの腕輪を。あとはモニカ嬢に包んでくれ」

 「畏まりました」


 訳が解らないまま、あたふたしているとお姉さんが簪を木箱に入れてわたしに渡してくれた。木箱はアイディアを頂いたお礼ですと添えて。単なる木箱ではないよ、これ。しっかり彫刻が施された化粧箱。宝石とかを入れておく箱よ?


 「あ、あの、ありがとうございます!」


 慌ててお礼を言う。ぼーっと木箱を見ていたら、あの人が店から出ようとしていたのだ。そうだ、お名前聞かなきゃ!


 「宜しければお名前を教えていただけませんか?」

 「……それは止めておこう。モニカ嬢にだけ名乗らせてしまったのは心苦しいが、忍びゆえ許して欲しい。また縁があれば逢うこともあろう。次に逢うときはその簪をつけている時であって欲しいものだな」


 にこりと笑ってその人は店の外に出ていった。


 カランカラン


 店の扉が締まって、扉に付いた鈴が寂しく鳴っている。駄目もとで聞いてみようかな。


 「あの、あの方についてなにかご存知ですか?」

 「いいえ、ここでは聞かないと言う暗黙のルールがあるので……」

 「そうですか。そうですよね。あ、箱、ありがとうございます! 大事に使いますね!」

 「はぃ、そうして頂けると幸いです。また遊びにいらしてくださいませ。モニカ様」


 そうお姉さんはにっこり笑ってお辞儀をしてくれた。うん、また来よう♪ 見てるだけでも楽しいいしね。それにお姉さんとは仲良くなれそうな気がする! 色んなアイディアを出し合えると面白いだろうし、自動調整(オートフィット)の術式も気になる。屋敷(うち)じゃあ教えてくれない内容だろうから、逞しく生きる知恵をつけなきゃね!


 そんなことを思いながら、わたしは紅鶴の城下町で三番目に大きい宝飾店を後にするのだった。色んな事があったからフワフワしていたらしく、気が付いたら屋敷(うち)に着いていた。家族にバレないようにこっそり自分の部屋に(かんざし)を持ち込む。


 あ~疲れたぁ~!


 ベッドに飛び込むと、ぼふっと空気が逃げていく。やっぱり自分だけの部屋は落ち着くわぁ~♪ 今までは学生寮生活だったけど、高等科からは自宅通学できるようになったし。気兼ねなくいろいろできるわね!色々やりたいことを考えていたのだけど、緊張から解かれたせいか、疲れのせいか、わたしはメイドが夕食を呼び来るまで寝ていたみたい。一瞬、今日起きたことが夢だったのでは? と思ったんだけど、胸に木箱を抱いていてほっとしたのは内緒です。


 いつもの変わらぬ夕食と他愛のない会話が食卓を彩ったのだけど、今日の出来事のせいで何倍も美味しく感じたのは気のせいかな。何かいいことあったの? と姉様から尋ねられたけど、学院で学院長のお仕事を手伝えたのと答えておいた。


 その後、中々寝付けなくて、朝起きたら眼の下に猛獣が現れていたのはいうまでもない結末でした。だって嬉しかっただもん。




               ◇




 いつもの通り身支度を済ませ学院に登院したんだけど、詰所でまたあのおじぃちゃんが衛士の人ともめていた。飽きないなぁ~。きっとヴェザリル様のお知り合いだろうから案内することにした。今日は気分が良いの♪ そう、目の下に隈がでてるけど、なんとか誤魔化したの。ほら、今日はアップにして(かんざし)で留めたのよ! だから、気持ちに余裕があるの♪


 「あの、この間来られていた、おじぃさんですよね?」

 「あ、これはモニカ様おはようございます」

 「おはようございます」

 「ん? そうじゃが。おぉ、そういえば荷を纏めてくれたそうじゃな。助かったよ、ありがとう」

 「いえ、荷崩れしませんでしたか?」

 「うむ。頑丈じゃった。解くのが大変なくらいにのぉ」


 あわわ、遣りすぎだったってこと? ま、まぁ、崩れなかったんだから目的は果たせたよね。


 「き、今日は何の御用事が?」

 「そうじゃった、こやつらがなかなか通してくれんでな、ヴェザリルへ用があるというに」

 「ですから、勝手に入ってもらっては困ると何度も言ってるでしょ?」


 ヴェザリル? って学院長を呼び捨て!? ひぇぇ。このおじぃちゃんひょっとしたらとんでもない人だったりして? まぁ、いっか。わたしが案内すれば。


 「では、わたしがこの方を案内します。それで宜しいでしょうか?」

 「あ、はい。モニカ様がそうして下されば、我々も安心です」


 ふぅ、一先ず騒ぎになる前に落ち着いて良かった。じゃ、行きますか。


 「では案内しますので、わたしに付いてきて頂けますか?」

 「うむ。宜しく頼むのぉ」


 ふぉっふぉって笑うおじぃちゃん初めて見た! やっぱりいるんだね! 昨日のおじい様執事よりお年を召してるわよね。どう見ても。背中は曲がってるし、木の棒みたいな杖付いてるし。髭も髪も真っ白だし。でも、滅紫色(けしむらさきいろ)の瞳は吸い込まれそう。あんまりと言うか、わたしの記憶ではこの瞳の色の人に遭ったことがない。だから余計に珍しいのかな?


 何事もなく三階にあがり、学院長室の前までおじぃちゃんを案内する。途中、胸の大きな女の子達を凝視していたのは気付かないふりをした。どうせわたしは小さいですよ。いいもん、まだこれからよ!はっ!?違うちがう、そうじゃなくって。


 「ではわたしはこれで」

 「待ちなさい。モニカさんといったかのぉ。その髪に着けてるのは二股簪(ふたまたかんざし)じゃな?」

 「あ、はい! 簪をご存知なのですか?」

 「うむ。エルフの里で作られたのを見たことがあってな。ただ惜しいかな、使い方がまだまだじゃよ」

 「え、使い方があるんですか?」


 そんなの聞いてないよ? お店のお姉さんは教えてくれなかったよ? もしかして知らない、とか?


 「どれ、ちょっとその簪を貸してみなされ」

 「え、あ、はい」


 う~折角時間かけてアップにしたのに。今日はもう駄目かな。


 おじぃちゃんに簪を引き抜いて渡すと、纏めていた髪がサラッと背中で踊ってる。でも使い方って。


 「簪というものはな、手軽さが売りの装飾品なんじゃよ。じゃから、巻き方さえ知ってれば一瞬で出来る。まぁ、見てなされ」


 おじぃちゃんはそう言ってかと思うと、ポニーテールにしてる長くて綺麗な白髪の頭に近いところを捩じり始めたの。そこにわたしの簪を上から挿して、毛束の上をぐるっと右回りに半回転。簪の先が上を向くのね。毛先は右側に入れ替わってるから、今度はそれを左に持ってきて、それを巻き込むように簪を縦に半回転させて挿す! おぉっ!! すごいすごい! 一瞬だわ! わたしの朝の時間を返して~~~。


 「ふぇぇぇぇぇ。そんなに簡単に使えるものだったんですね」

 「そうじゃよ。慣れてくればこの巻き方も色々と試してたらええと思うぞぉ。ほぃ、ワシが触ってしまったから汚れてしまったかもしれんのぉ。ちと拭いておいたから、それで勘弁しておくれ」

 「そんな、使い方を教えてくださってありがとうございました!早速やってみます」


 早速実践! うわぁ~簡単で早い!! これいいわぁ~♪


 「おや、モニカじゃないかい。簪買えたのかい? 良かったねぇ、それ良く似合ってるよ」

 「が、学院長!? おはようございます! じゃなくって、ありがとうございます!」


 急にわたしの後ろでヴェザリル様の声がするからびっくりだよ! えへへ、褒めてもらえた♪ 嬉しいなぁ♪ でも、このおじぃちゃん何者なんだろ?


 「あの学院長? こちらのおじぃちゃんは?」

 「あぁ、このエロじじぃはね、大昔の戦の生き残りさ。だから顔見知りなのさ」

 「え? ええええっ!!? 大戦の生き残りっていうことは英雄様じゃないですか!? このおじぃちゃんが!?」

 「あ、いや、このおじぃちゃんというのはどうかの? そこ! エロじじぃと言うな!」

 「ふふん、ここに連れてきてもらう最中、随分と物色しておったようじゃないかい」

 「はぃ。それはもう胸の大きな子が通ると」

 「こ、これ、モニカさんや、さっきまでの敬意はどこにやったのかのぉ?」

 「モニカ」

 「はぃ、学院長」

 「相手を選んで敬意を示すようにという言いつけをちゃんと守ってくれて、嬉しぞ」

 「光栄です」

 「あ」

 「うふふ。ではわたしはこれで。学院長、おじぃ様失礼いたします」


 あ~びっくり! 結局名前は分からなかったけど、あの大戦の生き残りなら随分お年。あ!? そうならヴェザリル様も!? って、そんな風にみえないぃぃ! でも、楽しかった♪ (かんざし)の使い方も教えてもらえたし、お姉さんに教えてあげようかな。


 教室に入ると、皆から質問攻め! うふふ。いいでしょ、この簪! 使い勝手がいいから、もう少し価格を抑えた物があれば一気に広まるかもね? お姉さんに相談だわ。あそこに簪があったということは、買付けのルートがあるということだろうから。あ~でも、皆にこの簪を褒めてもらえて羨ましがられたのは嬉しいなぁ♪ これで、術式の講義に熱が入るというものです!





 これを期にモニカ・ル・メティクルは術式の才能を開花させ、時を経て多くの術式を世に送り出すことになる。それは皇立(おうりつ)魔法学院の発展にも繋がり、彼女は学院教師としてのまた魔法使い(スペルキャスター)としての名声を確固なものとするに足るものであった。そして、あの宝飾店での出逢いはまた別の歯車を回し始める。それが明らかになるのはまだまだ将来(さき)のこと。


 皇立(おうりつ)魔法学院の院内には、若者たちの爽やかな笑い声が響き渡ており、時折吹き抜ける湖風は彼らの情熱と希望の炎を燃え上がらせる(ふいご)の風のように学院を揺らす。


 それは将来国を支える者たちを産み出す前の、我が子を思いながら腹を撫でる皇立魔法学院(ははおや)の息吹とも錯覚するような、そんな期待を抱かせる風であった。





 

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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