勇者になって異世界トリップしたけど、スペックが低すぎて不安すぎる件
旅の途中とかで戦うシーンを書くかもしれないと思っていたのですが、全くありませんでした!(むしろほのぼの系)
魔王が、魔王が、全部設定を壊したんです!!←
わたし本田優芽16歳、異世界で勇者をやれと命令されました。
頭おかしいとか言わないで下さいね?(実際おかしいんのは否定できないんで。)でも、トリップしたのは本当のことなんです。
ある日道を歩いていたらいきなり、ぱぁーっ、と白っぽい金色の光に包まれて、気がついた時には中世ヨーロッパ風の衣装を着た人達に囲まれていた。状況が理解できずに、ぼけーと突っ立っているとあれよあれよと言う間に、侍女さんらしき人達に着替えさせらて、王様らしき超絶美形のおにーさんの前に連れていかれた。
王様のいうことでは、わたしは魔王を倒す勇者として召喚されたらしい。もちろん、はぁ?となりました。実際、顔にも口にも出ていたそうです。
帰せ!と怒鳴ったが、帰る方法はあるが魔王を倒さなければ帰さない、と言われてしまいました。歯向かうならこの場で殺すと、よく切れそうな剣をつきつけられるという(心の底からいらない)オマケ付きで。
美形怖い。イケメンなんて嫌いだ。
ぶつくさ言いながら魔王の城に向かう。
「まあ、勇者様。落ち着いてください」
声をかけてくれるのは天使のような美少年ポールくん。(こんな弟欲しい)でも、4歳。…4歳ですよ、よんさい!現代日本だったら幼稚園児です。聞いたところ、魔力も剣術も苦手の極みらしい。なんでこんなちびっこを、魔王退治に向かわせるのでしょうか?あの王様は、馬鹿なのでしょうか?ていうか、なんでお供が幼児ひとりだけなんですか。普通、騎士やら魔法使いとかいるでしょうが、勇者のパーティーっていったら。
もしかしてあれか。わたしにチート機能がついていとでも思ったのでしょうか?だとしたら、大変なことになってしまう。
やっと魔王の城が見えたころ、スライムが現れた。
「勇者様!こいつは魔王の手下です!倒してください!」
「えぇ!?わたしが!?」
「いいから早く」
ポールくんに、せっつかれる。最弱なのですぐ倒せますよ、と励まされた。
よし、女は度胸よ!えい!!
5分後、スライムにずったずたにやられて瀕死のわたしの前に魔王がやって来た。
「マジでお前大丈夫か?」
魔王に、真剣なトーンで心配されてしまった。
「こんなんで、オレを倒せって言われたとか…可哀想すぎる。
もはや勇者以前に、人としてやばい次元だろ。
お前、今までいろいろ頑張ったな」
なんか、もう同情を通り越して労われた。極悪非道なはずの魔王に。
もう顔を上げる体力すらないので魔王の靴しか見えない。
あー、魔王の癖にかなりイケボだな
そんな場違いなことを思ったのを最後にわたしは意識を手放した。
「う…ん…」
「目が覚めたか」
目を開けたわたしはの目の前には、ありえない程整ったきらっきらしいイケメンがいた。
さらっさらの銀髪に吸い込まれるような紫の瞳。すっとしと完璧な鼻梁に、薄い唇。きめの細かい真っ白な肌。
なんだこのイケメン。王様やポールくんがそこらへんの石ころみたい。ストライクゾーンど真ん中。
ぼーっと、魔王に見とれていると、魔王の方もわたしを見てきた。
「しっかしお前、スペック低いな。
スライムあいてに瀕死になるような弱さだし、頭も悪そうだな。顔立ちも平凡」
おまけに胸もない。付け加えられた一言は、完全にセクハラだと思う。でも、全部本当のことだから否定できない。
「お前マジで勇者なの?」
心底不思議そうに聞かれた。
「まあ、いちおう?」
自覚がないので曖昧な答えになる。
「マジか、こんなん勇者にするとかルイスのやつ何考えてんだか」
頭狂ったか?っと言っている。
「あ、あの、ルイスって誰ですか?」
「はぁっ!?」
知らない名前だったので聞いたところ、本気で呆れられた。ついでに魔王の警戒も消え失せた。魔王は、はぁー、と大きなため息をついて頭を押さえて、説明してくれた。
「あのな、ルイスっていうのは俺の弟で、お前を召喚した国の国王だ」
ふぅん、そーなんだー
って、国王の兄!?魔王が!?どゆこと?
パニックのわたしに遠い目をした魔王は言った。
「あいつは昔っから何故か俺のことをライバル視していてな。何かとつっかかってきたんだ。
退位するとき、親父は王位を俺に継がせようとしたんだが、な」
そこで魔王は苦笑して言葉を切った。
弟である現国王が反対して、それで、争いをさけた魔王が譲ったということか。
なにそれ、魔王めっちゃ優しい兄じゃん。
「そうだったんですか。誤解しててすみません」
ペコリと頭を下げる。気にしなくていいと言うように魔王は手を振った。
「まあ、何もしてこないから放っておいたんだけど。まさか、勇者を異世界から召喚してまで俺のところに寄越すとは思っても見なかった」
手のかかる弟を持つと大変だな。
…ん?弟?あれ、
「ポールくん!!わたしと一緒にいた男の子、どこに行ったんですか!?」
「あいつは転移魔法で家に帰した。ポールは姉の子どもなんだが、いかんせん不器用で、よくここに逃げてくるんだ。
たいてい一晩泊めたら帰してる。あんまり置いておくと姉がキレるんでな」
「魔王さんも大変ですね」
完全に気配り屋の中間っ子という魔王に声をかけると、訝しげな表情になった。
「ひとつ聞いていいか?」
なんか、まずいこと言っちゃったかなと、ヒヤヒヤしていると、
「もしかして俺、魔王って、呼ばれてんの?」
!?!?
知らなかったの!?この人!!
頷くとショックを受けたようで深くうなだれた。
魔王かー、さすがにツライわ…
目が虚ろです魔王(?)さん。
でも、弟にそう呼ばれていたとしたらダメージ大きそうかも。
リズ、知ってたか、と部屋の侍女さんにも聞いている。
あ、無言で目を逸らしてる。こりゃ知ってて隠してたな。
シュンとしちゃってる。美形のヘコみ顔、めっちゃかわいい。
「あの、名前、なんていうんですか?」
「え、名前?」
呼ぶとき魔王さんじゃなんだしね。笑顔で言う。
「そうか。エドガーだ」
「エドガーさん、ですね。あ、エドガー様のほうがいいのかな?」
「エドガーでいい」
でも、と躊躇うと本人がいいと言っているのだからそうしとけ、と押し切られてしまった。
「じゃあ、お前の名は?俺も呼び捨てにすればいいんじゃないか?」
そう言えば問題なのだろうか、と疑問に思ったが、素直に教える。
ユメと小さく呼ばれた。
「ユメは異世界から来たんだよな。帰る方法は、教えられたか?」
「いいえ。魔王を倒したら、と言われてたんですけど」
そうか…と若干青い顔のエドガー。どうしたんだろう。
「とにかく、明日王城に行こう。いろいろ話さなくてはいけなそうだからな」
翌日、ようやく家に帰れると思っていたわたしを待っていたのは、二度と元の世界には帰れないということだった。
ショックで号泣するわたしに王様はそ知らぬ顔だったが、エドガーの怒声によりしぶしぶ謝まり、この世界での衣食住を約束してくれた。
それから3年後、いまわたしは、エドガーの城でお世話になっている。
半年くらい、涙腺が、壊れてしまったみたいに涙がとまらなくなるときがあったが、1年が過ぎた頃ようやく心の整理がつくようになった。
今はときどきエドガーに、お菓子や軽食を作って過ごしている。
意外に甘党な彼はわたしの作ったお菓子をそれはそれは美味しそうに食べてくれるから作りがいもある。
「ユメ!」
エドガーに、ぎゅっとハグされる。
最近何故かスキンシップが増えてきている。
「甘い匂いがする」
すんすんと首筋に顔を埋めてにおいをかがれる。
「今日は何を作ったの?」
紫の瞳を柔らかく緩ませている。そして、どこか甘い声で囁く。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん。
急にいなくなってごめんね。でも、わたし、元気でやってるよ。
わたしが泣くと、エドガーも一緒になって悲しそうになってしまうから。
最近、ずっと隣で支えてくれていた彼に対して淡い気持ちを抱くようになってきた。だから、悲しい顔をさせたくない。
「えっと、今日はね…」
不意に浮かびかけた涙を隠して、笑顔で答える。
本田優芽、元女子高生で、元勇者。今日も元気です。