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雪解けの国コグレ

作者: 高村ちこ

ーー寒い。俺はここで死ぬのだろうか?

嫌だという言葉が紡げず、白い息となっていく。

誰もいない土地。

白い大地と目を覆う吹雪は絶望を味あわせ、体力を奪うには十分すぎた。

ーー親の反対まで押し切ったってのに、こんなとこで....。

村の者の忠告は受けておくべきだったと後悔し、なんでもっと粘り強く引き止めなかったんだよと悪態を付く。

ーーもう終わりだ。

世界に名を知られている先祖にはまだ程遠く、求めた土地を見ずに終わるとは。

ああ、なんて無情なんだ。

縋った手は宙をつかみ倒れた。

その頬により冷たい大地を感じ、目を閉じた。



次に目を開けたのも真っ白な世界だった。

但し、吹雪が自分の周りのみ吹雪いておらず、目の前に宙に浮いた女がいた。

この地方の伝統衣装なのだろうか、布のような服を寄り合わせ、腰のあたりで違う細目の紐で括っていた。

美しい顔は青白く、かといって病的な不健康さは見えなかった。

「........誰だ?」

《妾は忘れられし者。そなたは?》

「ジョーア」

《ムラの民ではないな。何用があって参った》

「別に、用事があった訳じゃない。俺は冒険家だからここを通るだけだ。なあ、あんたはここの神か?」

《そうか、そなたは冒険家か。ならば悪いことは言わん、引き返せ。妾は神ではないが、この先の地を護る者。ここは通せん》

「この先には何があるんだ?地獄か、天国か」

《普通のムラがある》

「こんな猛吹雪に護られたムラが普通?ありえないね。一体、そのムラの正体はなんだ?」

《本当だ。妾が愛した土地。この雪は外敵から護るもの》

「....じゃあさ、その土地の話をしてくれないか?あんたみたいな女がそれほどまでして護るムラの話をしてほしい」



×××



昔々、文献の片隅に載っているかすら分からない時代。

加護を受ける土地コグレがあった。

外敵も不作も心配しない民達は真面目で暢気な気質を持っていた。

王は一人とし、王とその妻には愛娘が一人いた。

妻は親に先立たれた縁のある男の子を娘と共に可愛がり育てた。



「姫~!どちらにいらっしゃるのですかー!」

珂来からい様も!出てきてください!」

女中達は屋敷は勿論、天井裏から軒下までくまなく探す。

それでも見つからない。

「もういいです!今日のおやつは鷹のエサにしちゃいますからっ!」

女中が怒ってそう言うと、どこからか二人が出てきて彼女の腰に抱きついた。

「アカネ~!だめよ、それはだめっ!」

「イタズラは終わりにするから~!」

姫君十四歳の秋、本日も平和である。



コグレに多くの兵士を引き連れてきた男がいる。

兵士が掲げている旗には攻撃的な外交ーー他国への侵略で現在勢力を拡大している国の王の印がでかでかと描かれている。

「珂来、あの人達はだれ?どうしているの?」

「姫様、静かに。ここは父上殿にお任せしましょう」

「でも、」

「大丈夫です。今までもそうだったように、きっと最良の結果となるでしょう」

「....そうね、きっとそうよね」

「さ、奥へ」

姫は促されるままに自室へと戻った。

「....アカネ?何をしているの?お出かけの準備だなんて」

「姫様、しばらく神殿へお泊まりください」

「え?」

「あの国の使者が来るなど、何かあるはずです。女子どもは皆神殿へ向かっています。姫様もアカネと共に早く」

「い、いやよ!」

「お願いです。母上殿もいらっしゃいます。父上殿もそのようにと」

「珂来は?珂来は行かないの?だって、あなたも、」

ーー子供でしょ?

珂来はその言葉に心底悲しそうな顔をして、姫はその顔を見て後悔した。

「姫様、僕は先程成人の儀をしました。ですから、ここに残る義務があります」

「珂来!何を考えているの?!これは命令よ、私と一緒に来てっ」

掠れた声と潤んだ瞳は真っ直ぐに感情を伝え、珂来の本能に彼女を悲しませるなと訴えかけた。

姫の初めての《命令》、懇願と言っていいほどの言葉を無視するのか?と心の奥が疼いた。

「姫様、貴女の命令以上にこれは王の命令なのです。ですからーー」

珂来は最後まで言わず、アカネを見た。

「アカネ、姫様を」

「はい、かしこまりました」

アカネは泣きながら姫を引っ張って行った。



謁見の間にて。

「コグレの王よ。貴殿はどうしても娘を渡したくないと?後継ぎなら我が国から血筋の良い者を誰でも差し上げよう」

「だめだ。娘はやれん。貴国と良好な関係は結ぶが、王位は譲れん」

「これはどちらにとっても良い条件。それを飲めないと?」

「我らの幸せは自らで決める。貴国の口出しを誰が許した?」

使者は顔を真っ赤にして立ち上がった。

「これは我が王に申し上げる!貴国はきっと後悔しよう!」

足踏みを立てながら使者は王の前から消えた。

「王」

「すまぬ....。戦争は回避できぬ」

「大丈夫です。誇りを捨て、子孫にまで不本意にひざまづくことを強要せずにすみます。不幸は我らの代で止めるべきです」

「....うむ」

コグレの長達の頭には今まで経験したことのない出来事が起こることしか想像できなかった。



神殿には確かに女と子ども....護衛のための少数の男がいた。

「姫様!ご無事で何よりです」

「私共もおります。どうぞ、ご安心して....」

姫は神殿に着くと年配の女達から安堵の言葉を掛けられた。

(違う....。私は何もしていないの)

そう叫びたかったけど、民の顔を見るとできなかった。

(私は一体何をしてきたの?父上様の子として、....次の王として何かをしたの?)

嫌な汗が伝う。

「姫様?お顔色が悪いですわ!奥の部屋へ参りましょう」

誰かが手を取り体を支えてくれたけれど、その顔をきちんと見ることができなかった。



「どうしてこんなヤツラがこの土地を穢すのか!」

「神は....私達の神は?!」

「助けて....。神よ、せめて罪なき子どもらだけでも!」

怒号が頭をつんざく。

神の山に入り、周りは誰一人いないのに繰り返し言葉が響く。

ムラのほうを見ると、炎が見える。

(嫌よ、どうしてみんな私を逃がしたの?!)

一緒に逃げていた女達は捕らえられ、恐怖に足がすくんでも女達の瞳は決して止まることを許してはくれなかった。

「嫌....嫌よ....。私はどうやって一人で生きていけばいいの?一人ぼっちは嫌よ....」

うずくまって泣きたいのに、こびり付いた叫び声と視線がまだ安心できないと悲鳴を上げる。

足はもう支えるのに精一杯だって知っている。

それでも走る。

走って走って走ってーーー。

(洞窟に、しめ縄....?)

聞いたことはある。

父上様と巫女様しか入ることを許されない場所。

神のいらっしゃる神聖な場所。

(入っても大丈夫、かしら?)

普段なら躊躇うが、今はそんなことを言ってられない。

(神に願えば、或いは)

意を決して足を踏み出した。

洞窟の中は思いの外暗くなかった。

神の力が働いているのだろうか、土が仄かに青く光っていた。

体を支えるために土に触れると、触れた部分が強く光った。

(怖い....。恐ろしいわ....)

神に畏れを抱くのは当たり前。

今までもこれからもそうして適切な距離を保たなければならない。

(でも、今はそうは言ってられない)

緩く曲線を描く道の先がより一層強く光っているのに気付く。

(何?何があるの?)

辿り着くと土以上に青い光を放つ池があった。

その対岸と姫は姫が八人は入る程離れていた。

そして中央に小さな小さな社があった。

そこから白い小さな光がぽわんと飛んできた。

《だあれ?》

「っ....!あ、わ、私は姫....。コグレの姫です....。貴方は私たちの神、ですか?」

それは宙に緩く揺れながら漂っていた。

《神?ふふ、まだそんなことを信じているの?わたしはここをあいしているから護っていたの。もうすぐ去るけれどね》

「....?それはどういうことですか?神は、私達の信じている神ではないのですか....?それに、去る、とは?神の力が弱まっていることと何か関係があるのでしょうか?」

《嫌になったの。わたしの大切なひとはもういないし。もーいやあ》

(どういうこと....?私達の神は一体何を考えていらっしゃるの....?)

私は端が所々ボロボロになっている服を握った。

するすると光は器用に私の周りをくるくると回り始めた。

《あんまりこわがらないで?ここは魅力的なところよ。わたしの代わりになるひとがきっとあらわれるわ。あなたたちを護ってくれるひとがやってくる》

「....貴方は、誰なの?神でなければ何者なの....?」

《この土地をあいしていたもの。元はあなたと同じ人間よ》

(にん、げん....?私達と同じだったの....?)

「それではどうすれば私達を、護ってくれますか?本当にもう去ってしまうのですか?私達は、もう滅ぶだけですか?」

宙を漂っていた光は私の前でピタッと止まった。

《滅ぶと?どうしたの?ああ、そういえばいつものおばあさんとおじさんは?》

(おじっ、おじさん??え、父上様のこと、だよね....?神だからしょうがない?よね........?)

困惑しながら答える。

「今、他国に侵略、されて....」

《し、侵略?!》

光は動揺しているのか早く小刻みに揺れるようになった。

《ああ、どうしよう!わたしはもう元の形が保てないほど力が弱まっているのに!》

光は大きく私の回りを旋回し始めた。

「あ、貴方は人間、だったのですよね?!でしたら、私にその力をお譲りください....!」

《おお!その手があった!あなたはここをあいしていらっしゃるのよね?》

「はい、勿論です」

《じゃあ、こっちに来て。水の中に入りなさい。そう、ゆっくりとね》

光はすっと私を導くように池の上を滑った。

私は言われたとおりに池に入った。

池から強い光が溢れ出した。

少し冷たい水に鳥肌が立ったけど、決心して一歩進めた。

脛あたりにまで水に浸かると眩しいほどの光が私の元に集まり始めた。

「っ....」

《畏れないで。大丈夫よ、これはいままでのわたしと同じ役わりをしてきた子たち。そしてこれからはあなたと同じになるものたち》

すっと目を細めてもさっき話していた光はもうどこにいるのか分からない。

不思議と心臓は落ち着いていて安らいだ気持ちになる。

(コグレは大丈夫。珂来がいるわ。王は珂来が継げばいい。私はこうしてこの土地を、子孫を護ろう)

やがて光が目を覆い尽くした。



×××



「あんたがそのお姫様?」

《どうなのだろうな。妾も分からん。その後も似たような女が度々来たからな》

「そのムラはどうなったんだ?」

《妾はムラを訪れてはいけないから分からない》

「そうか」

《....何故この話にしたのだろうな、もっと近しい記憶もあるというに》

「そうか」

《では去れ、若者よ。余所者はこの土地を踏むことは許されん》

「分かったよ」

女はすっと白い腕を伸ばし、遠くを指差した。

《この方向を進めば近くの村に着くだろう》

「分かった」

ジョーアは頷いた。

そして女が指し示した方向に歩き出した。

すると、もう一度女のほうを向いた。

「おい!あんた、俺がその話に続きを足してやろうか?」

《....何?》

女は怪訝そうな顔をした。

「その姫はこの地の守り神となった。

そしてここは吹雪によって護られ敵は逃げた。しかし、戦を経験した民達は多くの愛する者を失ったことでバラバラに分裂した!珂来はそれを見て逃げ出した。傭兵となり各地を巡り、数々の功績を残した」

《そなた、何を言っておるのだ?世迷い言を....》

「ジョーア・カライ・アッセンドラ。これは俺の本名だ。カライは俺の先祖、出身がずっと不明だった。大婆さまが生きていた頃、不思議な字を書いておられた」

ジョーアは不格好な字で《珂来》と書いた。

《っ....!》

女は目を見開き固まった。

「あんたが護りたいものはすでに別のものになっている。いや、もう手遅れだったんだ」

ジョーアは目をつむり手を天に伸ばした。

「そして俺が変えてやる。....雪よ、散れ!」

すると猛吹雪だった膜の外側は見る見る内にやんでいった。

「見たか、姫様。ここの土地の血は魔力が強い、先祖返りの強い俺はこんな事ができる。かつての土地をもう一度....」

ジョーアは目を開けると目の前に女がいないのに気付いた。

いや、他にも何もない。

広大な土地が果てもなく広がっていた。



読了ありがとうございます。

すみません、童話ってなんですか?

書いてて分からなくなってしまいました....。

童話はもっとキラキラしたイメージがあったのですが、シンデレラとかいろいろ考えていったらこうなりました。

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