オワリトハジマリノハナシ
*
僕の目の前に、灰色の猫がいた。
彼、または彼女にあげようと思っていたミルクが、視界の隅でダボダボと地面に注がれていく。
あの記憶。
その記憶。
この記憶。
なんだろうか。
どうしてだろう。
とても悲しいのだ。切なくて、たまらなくいたたまれなくて。
痩せこけた灰色の子猫。
今ならまだミルクも飲めなくはない。
早くそちらへ行けばいいのに、彼は僕のそばに来て、こてりとその身を丸めた。
僕は彼をそっと引き寄せる。
せっかくの柔らかい毛皮が、僕の赤で汚されていく。
「………ごめん、よ」
からからな喉はからからな音を出した。
猫はないも言わない。
ただ瞼を閉じ、息の音も感じないくらいに深い眠りへとついていた。
かすむ視界。
灰色が赤に染まる中、何かが見えた。
ずっと昔の、いや、最近のようにも感じる記憶。
大切な人がいた。
噂の黒い少年がいた。
すべてが赤に染まっていた。
僕も眼を閉じる。
できることなら、キミと同じ夢を見れることを願うよ―――
*
ふと思い出した少年の姿。
僕は彼にずっと会いたかった。
昔、決めたのだ。
大切な一言を伝えたくて。
黒い髪、黒いシャツ。
すべてが真っ黒な彼を探して、僕は赤の世界で夢を見る。
もう息のないはずの抱えた灰色から、ごろごろと喉を鳴らす音が聞こえた気がした。
その先に、誰かと、何かが見えた。
僕はそっと夢を見る。