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始まりと追想

*** *** ***



 夕方。晴れた雨の中、俺はその日の宿となる廃屋へと戻ってきた。

 お天気雨はあれからずっと止む事が無かった。俺が廃屋に戻ってしばらく、いつの間にか止んでいたのは天気にからかわれていたとしか思えない。なんとも腹立たしい事だ。

 肩に担いだ小荷物は水浸し。そして、手に持つまだ絵の具の乾ききって居ない絵もまた水浸し。

 油は水に溶けたりしない。誰もが知る正論を、偶然だが俺もよく知っていた。だから雨に濡れようが水に漬かろうが作者である俺は心配する事さえ必要として無いのだが。

 ・・・やはり濡れてうれしいと思う人間はいないだろう。


 このままでは風邪をひいてしまう。

 びしょ濡れの上着を脱ぎ、握力の限りぎゅっと絞った。

 布地に入り込んだ水分は、突然の圧力に押し出され、小さな滝の如く地面へ落ちる。

 


 パチパチとはぜる焚き火の音。その日の夜も晴天だった。

 ただし、雨は降っていない。

 晴天の夜空。満点の星屑。銀に輝く楕円の月。

 今思えば、この時あいつも、あの星の明るく輝く空を眺めていたのかもしれない。



 俺は暖かい火から一歩下がった場所に横になり、崩れた壁の穴から外を見つめていた。

 今日はおかしな日だ。そんな素直な感想を胸に秘めて、気付けば心地よい眠りに包まれていた。


 *


 小鳥のさえずりが耳をくすぐったくつつく。

 瞼の奥にどこかから注がれる明かりが、赤く透けて見えた。

 俺はそっと目を開く。

 瞼を通してでは無く、直接朝日を瞳に捕らえようと思った。

「………、」

 眩しい、と紡がれた独り言。


 焚き火の残骸の周りに、昨日に乾かそうと思い並べておいた荷物一式がある。それらに目をやると、全てちゃんと乾ききっているようだった。そこに見慣れない物を一つ見つける。

 一人の男の絵だ。

(あのキャンバス、確か昨日の………)

 そう思いかけた時、絵の中の男がそっとほほ笑んだ。

「―――」

 俺は見間違いでは無いかと、その絵を落ち着いてじっと見つめる。

 そんな俺を、絵の中の男はおかしな物でも見る様に吹き出した。

 楽しそうに笑う笑顔は、確かにキャンバスの中だ。

 これは夢ではない。


 俺は一つ息をつく。


 きっと、何もおかしくはないのだ。

 あれはあれ。

 俺は俺。

 目に映ったものを、感じたものを、ただあるように、そのまま認識できればそれでいい。

 俺は黙ってそいつの様子を眺める。

 ぽつ、ぽつ、ぽつ、………と、外から雫の落ちる音が聞こえてきた。

 突然のことに混乱を解消しきれていなかった俺は、現実逃避気味に外へ眼をやる。

 昨日の雨が嘘では無かった事を証明するように、外の水溜まりが朝日に眩しく輝いていた。

 風は爽やかに俺の頬を通り過ぎ、絵の中の黒く柔らかい髪を揺らす。

「………いい天気だな」

 それは独り言。自分にしか聞こえない程度の声に乗せた、外を見ての感想。

「そうだね」

 笑い終えたそいつは確か、嬉しそうに目を細め、優しい面差しを俺に向けそう言った。


「おはよう」

 絵は俺を振り仰ぐ。

 俺は言葉を返すべきか迷い、頭を掻いた。


 あの日からだ。俺の独り言が二人言ふたりごとになっていたのは。



*** *** ***



「………おはよう、か」

 

 何もない錆びれた公園。

 一人の男が小さく呟き、小さく微笑む。


 その公園の中央には、そこら辺にあるような白い花。

 それは適当に摘まれたように手向けられ、暖かな風に揺れていた。















ついに完結しました!

随分と時間がかかったと思います。サボっては書いてサボっては書いてしてたので当たり前なわけですが。一話一話の間に入ったサボり期間が長いのもあって、つぎはぎだらけな話になってしまいました。

見苦しい文だったでしょうが、これが今の私の精一杯です。ところどころ読んでいて意味のわからないところもしばしば、というか結構あると思います。申しわけ無いです。時間があるときにちょくちょく治していきたいです。

よしければ感想等頂ければ助かります。そして喜びます。


最後まで見て頂き本当にありがとうございました。


表紙を描いてくださったnicoにも、心からの感謝を!

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