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その場所の思い

 彼はその聖堂の内、整列させられた椅子の一つに座っていた。

「あと二日………」

 小さく、そして乾いてひびの入った唇が動く。感情の感じられない単語は静かな空気の中どこかへ消えてしまった。ねずみがとたとたと屋根裏を駆け、その音以外の音と言えば、外でたまにそよぐ風に揺らされる木々のざわめきくらいだった。

(―――?)

 ふと何かの視線を感じ、みあげた先には聖母。その前には絵描き。それと………

「………?」

 それと、子供。自分とは対照的な白いシャツを着ている。

 知らない子だ。白いシャツはたくさんいるが、あの子供は見たことが無い。けど、どこかで会ったような。どこだろう。知ってるけど知らない子。あんな子、自分の“家族”達の中にはいない。

 あの絵描きの足もとに立ち、絵描きのズボンを軽く握り、絵描きの脚の影に隠れるようにして、こちらをじっと見つめている。

「だれ?」

 彼は立ち上がった。すると、あの絵描きの足もとにいる子供は優しくそっと微笑んだ。

 声はないが、確かに視線は彼を誘っていた。

「きみは、だれ?」

 子供は小走りでその子供のもとへと向かった。狭く小さな聖堂に、たったった、と靴の音が反響する。

(なんだ………?)

 シンジは不思議そうに振り返った。静かだった聖堂に音が生まれた瞬間だった。振り返ると、あの子供がこちらへ駆けてきている。だが、一体なぜ?

 子供は不思議そうなシンジの表情などには気づいた風もなく、自分を招く、同い年であろう子供へ向かった。

 絵描きの足もと、子供は手を伸ばしている。だから自分も手を伸ばした。

 絵描きの足もと、子供は黒目がちの瞳をそっと微笑ませた。だから自分も微笑んでみる。微笑んだことなどないのだが、目の前の子どものまねをして、なんとか顔を動かしてみて。

 絵描きの足もと、子供の手はもう触れられる位置にある。だから自分はいっぱいいっぱい腕を伸ばした。

 もう少し、もう少し、もう少し―――

 絵描きの足もと、あの子供は、差し出してきた手をふっと引いた。もう少しで届くとこだったのに、その手を引いて、どこかへと消えてしまった。

 ―――どすっ

「おい」

 これはシンジ。

「ん?」

 これはユウヤだ。

 子供は誰かの手をつかみ損ね、その体はバランスを崩した。そしてまっすぐに絵描きの脚へと顔から突っ込んでしまいそうになり、絵描きはそれを見事受けとめた。

「ナイスキャッチだよシン」

「………そりゃどうも」

 ユウヤのねぎらいもそこそこに、シンジは受け止めた子供の顔を覗き込む。

「何だ?」

「ぁ…あ………」

 なぜだろう。

 自分のその小さな手を見つめている子供。その表情が、シンジにはどこか悲しげに映った。自分の手をぐっと開き、穴が開いてしまうのではないかと疑ってしまうくらい、じっと、じっと見つめていた。

 シンジは状況が把握できずに頭を掻く。なぜこの子供は走っていたのだろう。しかも自分へとまっすぐに駆けてきて、しまいには衝突しようとしてた。意味不明だ。

「おい。男なら泣くなよ」

 ろくに手入れされていないぼさぼさな髪に手を乗せてやり、大雑把にぽんぽんとなでてやる。すると子供は、悲しげな、だが涙も忘れきってしまったようなその瞳をシンジへ向けた。

「なんなんだ? 後ろをつけたり、かと思ったら服をひっぱたり、ぶつかってきたり、」

 子供は首をかしげる。

 後ろはつけた、ぶつかりそうにもなった。けど、だが、服を引っ張った覚えはなかった。

「…しらない…………」

 主語のない単語を二、三度繰り返し、子供はむせび泣くような声をぐっと喉に押し込んだ。子供らしさのない痩せこけた手を、色が変わるくらい握りしめ、何を口にしたらいいのか迷うように視線をうつ向かせる。

 その場に沈黙が訪れた。たぶん、子供が口を開くまで音が生まれることはないであろう沈黙。だから子供は疲れ果てたように口を開く。からからに乾いた喉から、乾いた声だけをぽろりとこぼす。

「………けど、…もう、あと二日なんだ」

 「え?」というユウヤの声。

 だが、絵の中の男は確かに理解していた。いや、その場にいた全ての人間は、その短い言葉ですべてを読み取っていた。

 シンジは軽く口を開け、そして閉じた。

 無言に子供を見つめる。ずっとシンジの横で様子を見ていたユウヤは、優しげな目元をそっと細める。

「そうか。やっぱり、」と、絵の中の瞳に浮かぶ、僅かな憂い。

「だから言ったろ」

 シンジは、自分の腕の中で、泣く事も出来ず茫然と助けを求めるような瞳を向けてくる子供を見下ろし呟いた。

「鈍いお前が気付くほどだ。本人たちはとっくに気づいてた」

 子供はぎゅっと絵描きの服を握る。願いを込めるように。思いを伝えるように。

 シンジは大きく平べったい手で、子供の頭をやさしくなでてやった。ゆっくりと膝をつき、子どもと同じ視線になってやった。その涙をこらえる瞳をじっと見据え、低く心地よい声で子供の思いに答えてやった。

 その瞬間、子供の呼吸は一瞬止まる。

「俺には、どうにもできない」

 皿のように見開かれた大きな目には、期待を裏切られた悲しさと切なさと絶望が色となって表れているかのようだった。だがそこには、どことなく予想していた、薄情な世界へのあきらめの色も混ざっていた。

 この世界で、誰かが自分を助けてくれることなど決してないのだ、と。

 今まで、彼の瞳は世界への不信しか映しては来なかったのだろう。



久々すぎる更新です。はぁ。昨夜は二日酔いでうなされ酷い目に逢いました。もうあんな思いはごめんです。

最近自分の肝臓を傷めつけてばかりな気がします。まだ未成年なんですけどね自分。


ダケドモダケドモ〜


ソンナノカンケェネェ!ソンナノカンケェネェ!!


これが言いたかっただけです。

でわノシ

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