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その場所

 そこは古い教会。

 僕等のたどり着いた通り道。

 何も知らず。

 何も分からず。

 何も予想せず。

 ただ、気ままに歩き続けてきた結果なんだ。



*** *** ***



「本当にうれしい限りですわ。こんな薄汚いネズミの巣のような場所を描いてくださるなんて」

 貴婦人、とでもいうべきだろうか。ちゃんとした服を着て、ちゃんとした飾りを身につけた彼女。身を肥やした中年の女。

 そいつは口に軽く手を当てて、女らしさを忘れずに丁寧に笑った。

「いえ。お気にせず」

 俺はその女には目もくれず、向かい合う建物をキャンバスへと書き写していた。

「本当に、光栄なことですわ。こんなお客様が来てくださるなんて。私もこの仕事をあきらめずにやってきたかいがあるというものですよ」

 おほほほほ、

 嬉しそうに笑う彼女だが、その後ろには疲れた様子の子供が幾人か。彼女と比べると服装も体格も比べ物にならない。みんな腹を空かせた様子で、みんな着ているのはボロキレのような布だった。

 そんな様子をちらりと目にし、また変わらずに筆を動かす。

「絵………楽しい?」

 頭上から落ちてきた疑問。

 俺は顔をあげた。

 いつから洗濯されてないのか、砂ぼこりに汚れ、更に日に焼け白ばんだ、黒いシャツ。

「絵、楽しい?」

 まだ幼い、一人の子供。いつかに出会った、トキナのような子供らしさが見受けられない。

 まるで固いその瞳はじっと俺を見つめていた。気遣いなどまるでなく、そいつは俺と建物との間に立ち愛想笑いも浮かべない。

「楽しいよ」

 そう。それはまるでこいつと正反対だった。

 ユウヤ(夕夜)は答えるつもりのない俺を見かねてか、問われてもいないのに答えを割って入れた。

 俺の意志などを無視した、丸っきし個人的な返答。しかもお前は絵なんか描かないだろう。と俺は内心でつぶやく。

「………楽しい」

 子供はそれを口にしてそれきり。

 何かを口にする様子もなければ、やらせてくれとねだる様子もない。

 子供はただ、俺を見つめていた。

「何をしてるの!!?」

 突然、風船が割れたかのようだった。静かな一瞬に気を抜いていたからだろう。

「そんな所にいては絵描きさんの邪魔でしょ!!! あんた達はさっさと部屋に戻りなさい!!」

 女のヒステリック気味な甲高い怒声。自然と俺の眉が寄った。

 そんな俺の目の前を、ぞろぞろと歩いて行く子供。そいつらは俺が描くモチーフへと帰って行く。今にも崩れそうな灰色の建物に、重そうな足を運んで行く。

「ごめんなさいね絵描きさん。私もお邪魔しては失礼ね」

 彼女もそういって帰って行った。

 子供の帰って行った建物とは反対側に位置する、立派ともいえるちゃんとした家へ。


 俺達はそこに泊ることになった。

 あの女の住む、「ちゃんとした家」で、だ。その向かいにはあの施設が見える。廃墟のような、古びた孤児院。だがそこには住む人間・・がいる。彼らが好き好んでいるわけではないのは一目瞭然だが。

「シン、明日、散歩に行かないか?」

 ちゃんとした夕食を頂いた後、あつらえられた部屋でユウヤが口を開いた。

「散歩?」

「いけなくもないだろ? 今日の進みは早い方だったし、」

 確かに。今回の絵はいつもより早く進んでいた。なぜだかは知ったこっちゃないが、それほど感化されたということだろうか。

「孤児院、か………」

「え?」

「なんでもねーよ」 

 孤児院。

 今目の前にあるあれとは似ても似つかないが、あそこも確かに古びていた。そんな事を思い出してだろうか。ここを選んだのは。

 あの女が園長であることは間違いないだろうが。よくもまあ今まで潰れずに保って来たものだ。本当なら孤児院に回るはずの金を、あの女は孤児院がつぶれない程度のぎりぎりの線を保って喰ってきたのだろう。器用なものだ。

「で、どうなのさ」

 ユウヤの問いかけ。

「あ? ああ。別に構わない」

 それに返るは、俺の返事。


 *


(散歩ねぇ………)

 俺達――つまり夕夜ユウヤと俺――は、朝食を終えるなり日の光の下へと足を運んでいた。 別に何をするでもない。俺はただこいつ(ユウヤ)が散歩をしたいというから出てきただけなのだから。


 本当に、何をするでもなかった。シンジはユウヤをわきに抱え、今の宿である立派な家から続く道を行く。

 彼の灰色の髪をなびかせるのは、朝のすがすがしい風とでも言っておこうか。それが朝日を受けて銀色にきらめく。

 ユウヤの視線はそれへと向けられていたが、どういうわけかその瞳はどこか遠くを見つめていた。

(どういうわけだか、)

 静かなユウヤをわきに抱え、シンジは胸中つぶやく。

 散歩に出てきた。だが行きたいといった本人からは特にといった要望もない。このまま適当に歩き続けろと言うのだろうか。

 灰色髪がわしゃわしゃと適当に掻き乱される。

(面倒くさい)

 そこらへんにある木陰に入り、腰を下ろそうとした時だ。

「………?」

 服をひかれた。そんな気がして、視線を背後に向けた。向けたのだが、何もない。風だろうか? 灰色の青年はわずかに首をかしぐ。

 今の感じ。以前にも感じた何かに似ていなかったか?

 自分に問いかけるが、あまりにも情報が曖昧すぎて何とも言えない。

「ねえシン!」

 突然の呼びかけにシンジは肩を揺らして驚いた。

 そういえば、脇にこいつを連れていたのを忘れていた。と、大人げなくもただの呼びかけに驚いた自分にあきれる。

「なんだ」

「町に行ってみよう」

「町?」

「ああ。確かこの道を行ってすぐだったよね。行ってみようよ」

 町ねぇ、とシンジは呟くと、そっと前に足を一歩。そしてその次の足、その次の足、とやってる間に、いつの間にかそれは立派な歩みへとなっていた。

 行き当たりばったりのいつもの旅。それとなんら変わらない今の状況に、シンジはとりあえず悪い感じはしていなかった。

 まぁ、そんなもんか。とも内心思いながら脇で楽しそうに話しだす絵に一応耳を貸してやる。

 絵の男は彼の脇で、これから行く町がどんなものかと思想を膨らます。

 いつもそうだ。何をするにも楽しそう。たまに羨ましくも思うくらいに。

 絵は自分の思想をはずんだ口取りで青年へと話、青年はそれに曖昧に頷き、たまにからかうような口調で答えてやる。

「まるで子供だな、」

 そんな中、小さくこぼした独り言。

「人のこと言えないくせに」

 それは結局「独り言」にはなりはぐり、いつの間にか会話の一部と化していた。


 何の変哲もない一本道。

 それの行き先は決まっていて、一人と一枚の人間はその行き先である町へと歩いていた。

 そしてその後ろ。

 ひとりの少年は一定の距離を保ちながら二人のあとを追っていた。

 「子供」という単語から除外されてしまいそうなくらい平たい瞳をした彼は、二人の声を聞きながら、一人その何の変哲もない道を行く。


 * * *


 僕たちはその町で何をするでもなく歩いていた。小さいながらも活気のある町は、だいたいの人たちが顔見知りらしい。だから、一応旅人である僕たちは彼らにとって興味深い存在のようだった。

「よう、絵描きさん。旅かい?」

「ええ、まあ」

「あら、若い子がたった二人で旅かい?」

「ええ、はい」

「おや、絵描きの旅人さんか。珍しいな」

「はぁ。どうも」

「おやまぁ、絵描きさんが………」


「いい加減にしてくれ」

 シンはため息をついてベンチへと腰をおろした。僕たち以外誰のいない公園では、中心部に置かれた噴水ばかりがにぎやかに音を立てていた。

「ずいぶんと人気者だったね。本当は嬉しかったんじゃないの?」

「は、誰が」

「あははは、照れちゃって、」

 バツンと頭の後ろに音が聞こえて、僕の視界は真っ暗になった。

「ちょっと、シン! ずるいじゃないか!」

「そういうな。事故だって」

 嘘吐き! そう僕が叫ぶと、くくくく・・・っとこらえたような笑いが上から帰ってきた。やっぱり嘘じゃないか。僕は目の前に広がるタイルの地面を見つめながらそう思った。

 シンは僕を立て直す。ベンチの背に立てかけ、自分の隣に座らせるように僕の描かれたキャンバスを置いた。

「大人げないったらないよ。手を出せない人間相手に」

 「大人げない、大人げない………」と呆れる僕に、シンは「人のこと言えるか?」と尋ねた。「少なくとも君よりは大人だと思ってるよ」という答えに、シンはまたくくくっと喉で笑った。

「自覚がないってのはどうかと思うぞ」

 また倒されるかも、と思ったが、

「………わぁっ」

 ―――バタン

 やっぱり倒されてしまった。

 もちろん僕はシンに不満の声を上げる。


「良い天気だね」

「ああ」

 ベンチの上、あれからゆっくりとした時間が流れていた。僕の画面は二度ものシンの容赦ない悪戯に埃だらけとなり、ところどころ砂がざらついている。それを少々気にしながら、僕は頭上に広がる空を眺める。

「今日をいれて、あと二日ってとこだね」

「………」

 シンは答えない。

「絵の方はどうだい?」

「………まあまあだな」

 隣を見ると、僕に並ぶ灰色は、僕と同じように空を見上げていた。だらしなくベンチに腰掛け、腕を背もたれに広げて。

「そう」

 僕も空へと視線を戻す。

「………どう思う?」

「は?」

「君は、あの子たちを助けたいと思うかい?」

 沈黙。彼の返答にそんなものは存在しなかった。

 帰ってきた言葉は迷うことなく即答。

「さあな」

 と、いうものだった。

 なんとも彼らしい。

「でも、あのままだと皆道連れだ」

「俺達が口を出すほどのことじゃないだろ。何よりも、本人たちが一番早く気付いてるはずだ」

 鈍感で、しかも絵のお前が気づくほどだしな。という、付け足したような最期の言葉に僕は苦笑した。

「最期の言葉は余計だよ」

 小さな間とともに返された反論に、彼はお得意の意地悪な笑みを浮かべて返す。

「仕方ないさ。何しろ事実だ」

 僕等の会話はそれきり。あとは、噴水により程よく冷やされた風と、青々と茂る木々のさざめきを堪能し、時間の流れをぼんやり感じているのみだった。

 『彼』が僕等を、―――というより、シンを呼ぶまでは。


「あと………二日」

 幼い声はぼそりと呟く。

 ある公園。あるベンチの後ろ。少年は膝をついてそのベンチに座る者たちの会話を聞いていた。

 そして意を決したように立ち上がる。

「あと二日………」

 いそがないと。と動かされた唇からは音もなく、その道を引き返して行く足音だけが、小さく小さくその存在を告げるばかりだった。


 * * *


「………?」

 袖をひかれた。そんな気がした。

 だから何となく振り返ってみたわけだが。俺はその視界に薄汚い黒いシャツを確かにをとらえたのだった。

 そう。あれはあそこの孤児院の子供だ。

 なぜここに居るのだろう。いや、途中まで付いて来ていたことには気づいていたが。あまりにこの場が気持よすぎて忘れていた。まさかここまで付いてきていたとは。

 どこに行くのだろうか。

 子供の姿は今にも木々の軍に呑まれ、見失ってしまいそうだった。

 俺は立ち上がる。

「ん、シン………うわっ」

 突然持ち上げられたあいつは声をあげた。たぶん俺が絵だったら、同じように驚いただろう。それほど突発的な行動だった。

(追ってみよう)

 今まで追われていた仕返しとでも言おうか。実際は単なる暇つぶし目的だったが、たまにはこういうのも良いかもしれない。そう思えたのだ。

 鬼は交替した。次は俺の番だ。

(楽勝だな)

 この時俺は、大人げない自分を確かに感じた。


 *


 そう言えば、あの時自分の袖を引いたのはあの子供だったのだろうか?

 あの噴水の公園。よくあるように置かれたベンチ。

 行けどもいけども続く木々の群れを避けて歩きながら、真路シンジはふとそう思った。

 小さな背からはぐれない程度に距離をとり、結果的にたどり着いたのは町の端の端にある小さな雑木林。手入れされた様子の無いそこは、歩いているとまるで深い森の中にでもいるような錯覚に落とされる。

 シンジは前方をじっと見つめる。あの子供はまだまだ先に進む気なのだろうか。

 横にいる―――というより抱えられている―――夕夜ユウヤも黙って行く道をじっとみていた。

 もちろんこんな雑木だらけのここに道などはないのだが、彼らにとっては先を進む子供が通った場所ならば、それで道になってしまう。何しろ目的地あっての道だ。彼らの目的地はあの子供。正しくはあの子供の行きつく場所。そこにたどり着ければそれで道だ。彼らは何の疑問も持たずにそれを道と信じて進み続けた。


 そしてたどり着いたのは、小さく小奇麗な聖堂だった。

「なんだ、」

 ただの聖堂か。

 シンジは一見つまらなそうにとも言えるような呟きをこぼした。

「聖堂………」

 ユウヤはユウヤで、瞳の奥に浮かんだ何かに声を漏らし、そして飲み込んだ。

 二人ともその小さな建物を前に動かない。もちろんそれは彼らの記憶の中にあるものとは違う。あのさびれた茶色の、木造りの建物とは似ても似つかない。白い壁に、淡いエメラルド色の屋根。かわいらしいとも言えるその外見は、なぜ記憶をつつかれたのかと疑問に思うくらい別のものだった。

 この中に、あの子供はいる。

 シンジの脳裏に、ある光景が浮かんだ。


 ***


 ひとりの子供が、鉛筆を握ってそこにいる。他には誰もいなければ、屋根裏を駆けるネズミの気配さえない。黒い服を着たその子供は一番後ろの席に座り、前に置かれた聖母をじっと見つめている。握りしめられた鉛筆はかしゃかしゃと音をたて、その下に置かれた真っ白の画用紙へと黒い線を繰り返し描き続けるのだ。そして、やがて浮かび上がってくる聖母像。そろそろ絵が完成する。


 ***


 そうだった。そう言えばあの頃は、あの場所に行ってよく聖母像を眺めていたっけ。

(………あれからもう、ずいぶん経ったな)

 懐かしさに目を細め眺めていると、聖堂は小さな口をキシリと開けた。木製の茶色い扉の、錆びれた黄土色のドアノブが、カチャリと音をたて見つけたのは、二人がつけていたあの子供だった。

「………」

 子供の口は、小さく「あ」と言ったままの形で固まる。表情が薄いようではあるが、ある程度驚いている事がわかった。

「入っていいか?」

 かけられた言葉は、たったそれだけ。子供は小さくこくりと頷き、ドアの前から一歩下がる。

「ありがとよ」

 シンジは子供の頭に手を載せると、その小さな聖堂へと足を踏み入れ、そして、………そして、 言葉を失った。


 似ていた。

 いや、似ていたというレベルじゃない。まるっきりあのまんまだ。薄く微笑んだ口元。優しく細められた瞼。古めかしい木製の肌。まるっきり、あの聖母だった。

「な、んで」

 近くにより、見てみれば焦げ跡さえあった。

 あの赤い記憶が蘇る。目にまぶしくも熱く、温かかった記憶。あの人が死んで、自分が何となくその場所を去って。そんな記憶。

 シンジは聖母の体に手を触れ、その感触を確認する。少々煤けた場所もあるが、それが余計にあの聖母だという確信を強くした。

「一緒に、焼けたんじゃなかったのか」

 そう。彼女と一緒に―――。


 ユウヤも絵の中、気づかぬうちに手を伸ばしていた。

 ひやり、と湿った木の感触に目をつむり、眼を開く。

 

 錯覚だ。


 自分は何にも触れられない。悲しくも受け入りがたい事実だが、彼はそれを受け入れた上でシンジと旅をしていた。だから今更何とも思わない。なんとも思わないと思っているのだが、やはりむなしくなってしまう。

 今の感触は本物ではない。本物のはずがないんだ。と、頭のなかで自分が自分に言い聞かせているのを、更に第三者として眺めている自分がいた。

 そして自分の手にふっと触れる。

 今のあの感触が、本物でありますように。なぜかそんな願いが胸のなか紡がれた。


 子供はそんな彼らを、聖堂の一番奥の椅子に座って眺めていた。


ねむい、です。

そして奴らが目ざわりです。ひとの目のまえをちらちらと飛びやがって。ざけんな。

と、コバエにいらいらさせられている古川です。


がはっ


めが、パソコンに向かい過ぎたせいかちかちかします。つか最近生活が乱れてる。それもこれもバイトのせいだ。

くそぉ。

どうにか楽して金を稼げないものか。


とりあえず今日はねよう。

その前に風呂に入ろう。


ということで、ここまで読んでくださった皆さん。ありがとうございました。早寝早起きを心がけて健康的な生活を送ってください。決して興味本位に夜遅くまでセーラームーンを第一話からユーチューブで見てみようなんて思わないでください。


え?私は見てますが何か?(笑)


でわノシ


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