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晴れた雨の日

 なぜかわからない。

 なぜか判らないが、描かなければいけない気がした。

 そう。

 言うなれば運命。

 これが俺の運命だったのだ。

 この事切れた男の死を、このちっぽけなキャンバスに描くという、滑稽な運命。


 面白いではないか。


 こんな運命、他の人間ならきっと受け入れやしない。

 転がる運命を軽く見て流すだけ。自分には関係ないと思い、その運命との可能性を除外する。自惚うぬぼれた自分の人生に、もっとも相応ふさわしいと思う運命だけを選び出そうとする。そんな事、するだけ無駄だろうに。自分にとってどの運命が相応しいかなんて、誰にも分からないだろうに。


 俺だからこそ受け入れてやれたのだ。

 こんな下らなく意味の無い運命。


 面白いではないか。

「…面白い、か」


 無意識にも俺はそう呟いていた。

 聞く者のいないその言葉は独り言。

 もしかしたら、前に転がるアイツは今の言葉を聞いていたかもしれない。

 馬鹿な話だ。

 アレはもう死んで居る。


 目に染みる赤の世界が、なぜか熱を持ったように俺の眼球を熱くした。



 *** *** *** 



 それは突然の事だった。 今まで続いていた晴天が、崩れる事無く雨を降らせ始めたのだ。

「………ったく。冗談じゃない」

 ふと漏らした不満。

 それを聞いた人間はいなかった。つまりは独り言。

 偶然か必然か、なぜかその場にいるのは俺だけだったのだ。

 俺は小走りにどこか安い宿が無いかと探し回った。だがどこも今の俺には高過ぎる。いや、俺が手持ちぶさた過ぎたのだ。

 仕方ない。せめてどこか雨宿りだけでも。 そう思い泳がした視線に飛び込んで来たのは、ある廃屋だった。

 悩むまでもない。

 俺は一拍も置かずにその廃屋を今晩の寝床と決めたのだった。


 その宿は酷く湿っていた。屋根があるだけましだが。こうもじめじめされるとやけに不快に感じる。

 俺は入ってすぐ、下ろした荷物をあさった。中から一枚のタオルを取り出す。

 タオルは様々な色が擦りつけられており、油の匂いまでプラスされひどい有様だった。

「くそっ………。他に使えるのなかったか?」

 俺は荷物をあさり続ける。

 使い古された木製のパレット。前の街で調達したF10ほどのキャンバスが5枚。絵の具を詰めた巾着。筆が7本にナイフが2つ。水筒。しけったパン。着替えに寝袋。マッチ。財布という名のぼろ袋。そして、

「あるじゃねぇか」

 誰に言うでも無く。独言だ。

 いつも一人でいるせいか、ふとした時に声が出てしまう。まぁ、一人なわけだし、この独言は誰にも聞かれる事もない。特に問題は無いだろう。

 俺は鞄の下の方から引きずり出したタオルを頭に被る。筆洗油の匂いが鼻をつくが、この匂いにはもう慣れた。きっと、普通の人間ならこんなタオルで頭を拭きたがったりはしないだろう。


「さぁてと、」

 探検といくか。

 俺は今日の宿を知るべく、ある程度の荷物を持って歩き出した。

 気合いを入れるわけでは無いが、タオルを頭に巻いて、短くも視界に入る邪魔な髪を中にしまって。


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