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飲んだくれとの対話

「おやおや。絵描きさんかい?」

 とぼけたような言葉遣い。そいつが話しかけてきたのは小さな町に入ってすぐだった。

 そいつは小さなビルとビルの間にある小道の入口にどかりと腰をおろし、通ろうとする者など無視するかのようにそこを陣取っていた。まぁ、こんな小道を利用しようとするものなど滅多にいないだろうが。

「どうだい絵描きさん。もうかってるかぁ?」

 その声はまだ若い。俺より年上ではあるが、まだ30前半か20後半といったとこだろうか。きれいとは言えない服を着て、片手に酒瓶。粉を噴いた黒くぼさぼさの髪。俺を捕まえた今も片手に持った酒瓶を口に運んでは一口、運んでは一口、を繰り返している。

 この年ならまだ働き盛りだろうに。なんて言葉は、気ままに歩き続けてきた俺が言う言葉じゃないだろう。

「面白い人だね」

 ユウヤは俺の横でこの酒浸りに興味を示しつつあった。

(何が良いんだか)

 勿論こいつの考えなど俺にはさっぱりだ。

 ユウヤの言葉が耳に届いたのかどうか。酒浸りはもそりと動き、こちらを正面に座りなおした。

「面白いのはお前らの方だろ」

 また酒瓶を口に運ぶ。

「喋る絵に、絵を描くとは思えない人相の男。くっはは。まったく。笑えるねぇ」

 確かに笑える。

 俺の口元に自嘲気味の笑みが自然と浮かんだ。

「喋る絵は珍しいですか?」

 ユウヤは楽しそうに尋ねる。

「当たり前だ。普通、喋る絵なんか存在するはずがない」

(その通りだ)

 これには俺も賛成だった。だから自然と口に出して笑っていた。その横でユウヤも笑っていた。自分の存在が否定されているというのに、おかしな話だ。

 男は続ける。

「見ただろ、今の女。あんた達の横を通り過ぎた奴さ。喋る絵を見てどうともしたようがない。自分の目を疑いもしないどころか驚きもしない。分かるか?俺の言っていることが。奴らはあんたらの存在を信じているんだ。あって当たり前のものと思っている。『喋る絵はあっておかしくないもの』『あっても普通のもの』ってな。」

 長々と続きそうな話だったが、俺はこいつの言葉に吸い込まれていた。それにこいつの瞳にも。

 俺はずっとこいつを“飲んだくれ”と代名していた。こいつもその代名詞通り酒を何度も口に運んでいた。だが、その瞳はまるで正気だった。酒をたびたびとりながらも、酔っている様子はない。更にはその手を止めようともしない。

「いつから存在しているのか考えようともせず。おかしな話だ」

 また一口。

 飲んでも飲んでも、そいつは自分を失いやしない。

「俺があんたらを見た瞬間、喋る絵はなくもないものと頭にあった。だがすぐに我にかえって、今自分が何を感じたか気づいた。おかしいだろ?見たこともないものを、俺は一瞬、あるものだと昔から記憶していたような感じになったんだ」

 俺が思ったのは、この“飲んだくれ”はあまりにも理性的すぎるということだ。

 何かあるたびに酒を口へと運ぶ姿は、なかなか壊れることをしない自分を、わざわざ壊そうと躍起になっているかにも見える。

「俺はたまに思う。そこらにいる普通の猫も、そこらに生えてる草やら木やらも、一体なんだってここにあるのかってな。空も海も土も、みんなあって当たり前のものと頭に入れてる。無ければ無いで、多分それで納得するんだろう。当たり前すぎる話だ。けどな、たまにそんな奴らが、俺には狂って見える。お前さんの存在を簡単に受け入れる人間も、そんな絵を描いちまったお前さんも、そしてこうして存在しているお前さんも。みんな狂って見える」

 普通すぎて、社会から外れた人間。

 正論すぎる言葉。俺にはこの飲んだくれの何もかもが、世間一般の“正しい”に思えた。

「同感だ」

 よく胸にある言葉。

 『俺は狂ってる』

 俺だけじゃない。こうして絵となってしまったユウヤも、俺達は多分、今の世界で最も狂った存在だろう。だがそれをそうと思わない人々。それも狂っているということだろうか。

「お、絵描きさんよ。わかってるじゃねーか」

 何となくだが、なぜこいつがこうして“飲んだくれ”となっているのかがわかった気がした。

「難しいけど面白い話をしますね」

 ユウヤもこの話にどこかしら共感しているのだろうか。

「ああ。難しすぎて目が回るよ。皆が信じて疑わない存在(しゃべる絵)を非現実的だと本人に説いている今、多分俺も狂ってんだろうな。くくく、なんとも嬉しい話だ」

 本当に狂ってるもの。本当に正しいもの。多分この男は何も信じていないのだろう。真実も、間違いも、多分だがこの男の中では、全てがおんなじ価値でしかないのかもしれない。


 *


「面白い人だったね」

 絵描きの横、その絵は楽しそうに笑っていた。

 絵描きも否定はせず、適当に「あぁ」と答える。

「けど、あぁも考えすぎるのは好きじゃない。面倒なだけで何の稼ぎにもならねえ」

 ユウヤはくすくすと笑った。

「そうだね。もうここのところ野宿続きだ。僕も早くあったかい宿にいきたいな」

「お前に宿なんか関係あるのか?」

「雰囲気だよ。で、そろそろ描いたら?」

「そのうちな」

「そのうちって、」

 この言葉に、ユウヤは当分野宿が続くことを確信した。

 だが口には出さない。ただ、この気まぐれな絵描きが早く“気が乗ってくれる”のを、ひそかに胸の奥で祈るばかりだった。



ずいぶん久しぶりの投稿です。なんかわりに合わず忙しかったんで。

つか時間がないって嫌ですね。もうごめんです。


あー。ニートになりたい。







・・・(・ω・`;)


じっ、冗談ですよ。ははは。


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