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子供の戯言


*** *** ***



 抱えて居た。

 ちいさな殻を、抱えていた。

 彼はそれだけ。

 ただ抱えるだけ。

 特に感情はなかった。だが疑問はあった。

 なぜこんな事をするのだろう。

 なぜこんなにも軽いのだろう。

 なぜこんなにも呆気ないのだろう。

 少年は魂の抜け殻を抱き、そこに突き立ててある銀を引き抜く。

 温かい抜け殻から命を吸い取った銀は、満足げに赤を滴らせる。

 ああ、この命はなんて切ないんだろう。

 人事な彼はその事実にあくまでも人事で、薄情で、優しい。


「きゃーーー!!!」

 少女の叫びがそこに響いた。ガラスを揺らし、鼓膜を揺らす。

 子供達が外に騒ぐ。楽しむように。はやし立てるように。

 その中心には一人の少年がいた。一匹のウサギを抱えて、服を血に濡らし。その手にはナイフ。

 一目瞭然だった。回りの子供達は、あの少年がウサギを殺ったのだと思う他ない。疑う気もない。彼が真の犯人ではないかという、不確かな事実を楽しんで喜んでいる。

 少年は何も言わなかった。泣く事もしなければ俯きもしない。かといって、冷めた冷たい視線を回りに送りもしなければ、被せられた罪の否定もしない。

 ただ抱いて居たのだ。命の去った小さな存在を。

 だがその命を悲しんでやる事もしない。

 本当に、ただ抱くだけ。

 そしてやがて、騒ぎ、からかうその輪から静かに抜けて、少年は木陰へと歩きだす。

 彼は薄暗い雑林へと姿を消した。

 ただ抱いて。



*** *** ***



 少年は手を合わせた。

 小さな命が生きていた事を認め、小さな命が辛い現実を今までに生き抜いてきた事を称して。この殻はそれを証して。

 血まみれの服は今、泥だらけだった。

 穴を掘るのに使った棒を、その小さな山に突き立てて、幟を表す。

 空に天国があるように大人は言うが、彼は空の先には何もない事を知っていた。だが、死を恐れるために、大人が死の先に天国を見て、少しでも死の恐怖を緩和しようとしている事も知っていた。

 ばかげてるとは思わない。死は自分も怖いから。

 少年は、手を合わせた。

 悲しくはない。情もない。

 だが褒めたたえよう。生きた事を。

 少年は手を合わす。


 雑林の外、明るい日の光の下で、子供達は尚もはしゃぎ騒ぎ立てていた。


 アイツが殺した。

 アイツは悪魔。

 アイツは嫌な奴。



*** *** ***



 少年は手を合わす。

 黒いシャツと黒い髪は、小さく風に揺れていた。

 ただ、その色素の薄い灰色の瞳は、揺れることもなく正面の塚を眺めていた。


 

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