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第4話 現実性を帯び始める”仮説”

今回はABYSSでドラムを務める篠崎貴一の視点で描いています。

 タン…

地面に降り立つ音が静かに響く。

“主”の危機を察した俺と戒流は、空から舞い降りてその場にたどり着く。

 これは…

自分と戒流の瞳に映った光景―――――――――それは今にも神奈の喉笛を噛み切りそうな雰囲気を持った男が、彼女の血を食らおうとする直前のものであった。


「戒流…貴一さ…ん」

恐怖の余りにかすれた声を懸命に使い、自分達の名前を呼ぶ神奈

「悪魔…だと…!?」

豆鉄砲を食らったような表情をしながら、こちらを睨む金髪の男。

俺と戒流は、ゆっくりと歩きながら彼らに近づいていく。

神奈そいつは俺達の獲物だ。…それを横取りしようたぁ、いい度胸しているなぁ…」

「本当に。俺らを怒らせると、何をしでかすかわかったもんじゃないね」

俺は一見穏やかそうな口調で話しながら、その瞳を真っ赤に変える。

悪魔族の中では一般常識だが、相手を威嚇する際や怒っている時に悪魔は紅い瞳をギラつかせるという特徴を持つ。 

「グォォォォォォォォッ!!!!」

鼓膜が割れそうになるくらいの雄叫びを上げた金髪の男は、そのまま近くまで来ていた戒流に襲い掛かる。

「戒流!!!」

「わかってる…!」

俺は戒流に「殺すなよ」という意味もこめて、彼の名前を呼ぶ。

当然、それを理解していた彼は、そのまま吸血鬼“もどき”との攻防を始める。

「大丈夫かい?神奈ちゃん…」

「あ…。は…い…」

敵のお守りを戒流に任せ、俺は地面に座り込んでいる神奈の元へ行く。

平静を装っているように見えたが…自分の右腕を彼女の腰に回した時、微かに震えている事に気が付く。

「貴一さん…。あれって、もしや…?」

「ああ…。おそらく、奴は“LaNDe”の中毒者だな」

「…父さん…」

神奈は戒流と攻防している金髪の男を見上げながら、ポツリと呟く。

 …外見的には、本物の吸血鬼そのものだが…。なかはただの人間…。しかし、薬一つでここまで変貌させてしまう“LaNDe”の原材料とは一体…?

俺は金髪の男を目で追いながら、一人考え事をしていた。

「…!」

その時、俺の身体が何かに反応する。

気が付くと、神奈の魂から溢れる恐怖や困惑といった負の“気”が発せられている。無論、俺ら悪魔にしかわからない“気”だが、神奈が発するものからは、いつも特殊な「何か」を感じ、身体がそれに反応していた。

 …どうやら、あの男に襲われた恐怖と、あの実態を引き起こしたのが自分の父である事…。そんな事で頭がいっぱいだからかもしれないな…

そう考える一方で…俺ら悪魔が持つ本能が少しずつ目覚めてくる。

『“負”ニオオワレタ人間ノ魂…。極上ノエサ…。悪魔なかまガ敵ト戦ッテイル今ナラバ…』

己の本能が、自分にそう語りかけてくる。

「神奈ちゃん…」

「…はい…?」

自分の近くにいる娘に声をかける貴一。

その片方の腕は、いつでも魂を取り出せる状態になっていた。幸い、自分達に助けられた事から、彼女から警戒心や殺気は感じられない。「今なら、良い馳走になる」という考えが俺の頭の中に広がってきたその時だった。

『貴一よ…。これは、わたしの憶測に過ぎないのだが…』

「…!!!」

突然、自分の脳裏に過去に話していた出来事が思い浮かぶ。

それは、神奈と契約を交わした後にモテット様とした話のごく一部であった。

「…っ…!!」

構えていた片方の腕を元に戻した俺は、彼女を抱き上げて立ち上がる。

「き…貴一さん…!?」

「…そろそろ、あたるが出ているラジオの生放送が終わる頃だろう?マネージャーである君がいなくては、周りも不審がる」

「あ…そうか」

俺は彼女を抱きかかえたまま空に飛びあがり、ビルの屋上に立つ。

「で…でも、戒流は…」

「あいつなら、大丈夫。君を食らおうとしたあの男は見た目があんなでも、中身はただの人間…。戒流にとっては生かして捕まえるなんて、朝飯前だから心配するな」

「はい…」

俺はビルの屋上をヒョイヒョイと飛び越えながら、能がいるラジオ局の屋上に到着する。

そして、窓から彼女を入らせた俺は、そのままビルから去ろうとするが、その前にふと大事な事を思いだす。

「何を思い立ってあのネットカフェに行ったのかは知らないけど…。後でゆっくり説明してね…?」

「はい…!では、後ほど…!」

俺に向かってそう述べた彼女は、大急ぎで局内の廊下を走って行った。

 …今はとにかく、あの格好から着替えなくてはいけないしね…

俺は敵にボタンを引きちぎられ、乱れた服装をした彼女を見送りながら思った。

「しかし、この俺が本能に負けそうになるとは…」

俺はボソッと独り言を呟く。

俺達“ABYSS”の5人では、悪魔としての年齢は俺が一番上。戒流達より長く生きている分、己をコントロールする力を大きいはずである。しかし、そんな自分を崩そうとするくらいの魅力を猪俣神奈は持っている――――――――――――――この事実に対して、貴一はますます彼女が何者なのかが気になるのであった。


「ん…?」

窓によじ登った状態だった俺は、その後は再びラジオ局の屋上に上った。

その時、何気なく下を見た際に何かおかしな人影を見かける。その人影は、全身黒ずくめの服を身にまとい、黒い帽子をかぶっていたが…その帽子から、微かにだが蒼い髪の毛が見え隠れする。その髪の色は、過去に2・3度だけ会ったことのある猪俣博士の髪と全く同じ色をしていた。

「博士…!!?」

急に嫌な予感がした俺は、急いでビルの屋上から地面に降り立ち、走り出す。

 ど…こだ…!!?

俺は、彼が見えた路地裏を颯爽と走り抜ける。しかし、気配を消して移動しているのか、同胞ならば感じられる“気”が全く読み取れない。

「…逃がしたか」

俺は少し息切れをしながら、ポツリと呟く。

数分間走り続けた後、大通り前にたどり着いた俺は、その場で立ち止まる。

 …いくら変装していても、わかる奴にはわかる…。まさか、芸能人である事が、足枷になる日が来るとはな…

俺はフーッと長いため息をつく。

人間の好みなど到底理解できないが、3年で多くの人間たちが「ファン」として集るようになり、顔が広く知られているABYSSおれたち。先ほどの路地裏ならともかく、このような大通りを歩いていたら、記者やファンに見つかってしまう。そのため、これ以上は博士を追えない状況に自然となってしまった。

「貴一ちゃん!」

「文ちゃん…」

振り返ると、そこにはABYSSおれらのチーフマネージャーである鎰谷文也が立っていた。

「戒流からの伝言なんだけど、例の人間の捕縛が完了したそうよ」

「…了解。ちゃんと、俺の“別宅”に押し込んである?」

「勿論!あの子がしくじるはずもないしね…!」

「そうか…」

博士は取り逃がしてしまったが…とにかく、今は見つけたばかりの貴重な手がかりの事だけを考えるようにした。

「それはそうと、貴一ちゃん…。貴方、明日も仕事控えているんだから、少しは仮眠を取りなさい!…“LaNDeあれ”の解明を夜通ししていたでしょう…?」

「ん…?ああ、そうだな…」

確かに、ここの所は休まずに動いていたのは確かであるため、文ちゃんが言う事も最もであった。

「兎に角、近くに待たせてる車で移動するわよ!」

「…了解」

マネージャーの求めに応じた俺は、文ちゃんと一緒に車へ乗りこみ、夜の街を通り抜けていく。

俺はその時気が付いていなかったが…俺達が乗る車の反対車線で走っていた路上バス――――――――そこには、気配を消していた猪俣博士が乗っていた。俺達の車とそのバスがすれ違ったのはほんの一瞬で、“LaNDe”の事で頭がいっぱいだった俺は気が付く暇すらなかったのである。



あれから2日後、俺は移動の車の中で、神奈からの“報告書”を読んでいた。

「俺がラジオ番組に出ている間、そんな事があったんだねぇー!」

その隣では、書類を一緒に読んでいた能がいた。

「あの時、神奈が着ていたYシャツの色が違っていたから、何かあったんだろうとは思ったけど…。ってか、何気にすごい進歩じゃないの?これって!!」

「確かに…。だが…」

「だが…?」

俺が口にした言葉の先を聞こうと、自分の顔を覗き込んでいる能。

 楠とかいう記者…。報告書これを見る限りでは、普通の人間のようだが…。念のため、こいつの事も調べておいた方が良いかもしれないな…

念には念を…用心に越した事のない俺は、そんな事を考えながら報告書を女子席にある文ちゃんのバッグにしまいこんだ。

「それにしても、貴一ちゃん。…今回の一件で、一つの仮説に現実性が増してきたわよね?」

「ああ…そうだな」

「??どういう事?」

運転をしながら、文ちゃんは俺達に声をかけてくる。

しかし、状況が飲み込めていない能はきょとんとしていた。

「…猪俣博士が作ったとされる“LaNDe”…。これの原料が、人間の魂ではないか…という仮説だよ」

「人間の…!!?」

俺の台詞に、目を丸くして驚く能。

そんな彼などお構いなしに、俺は話を続ける。

「あの“LaNDe”は、生き物の前世にまつわる“何か”を蘇らせるという効力を持つが…。今回のように、記憶に限らず、肉体的変化をもたらす場合…ただの薬では到底起こせない現象だ」

「その点、生き物の魂――――――とりわけ、自然界の頂点に立つ“最強種”・人間の魂は、その中に含まれる“情報”は他の生き物に比べて、はるかに多いわよね」

「…ああ。だから、それを使えば、前世にまつまる物を蘇らせるなど…博士の腕があればたやすい事…」

「…でも、仮説って事はまだ…」

能の台詞に、腕を組んでいた俺は首を縦に頷く。

「確証はない…という事だ。だから今後、皆で調べるべきは…」

「その“原料”を何処で調達しているか…って事ね!」

「そういう事」

文ちゃんと俺の台詞で、やっと俺達は話がまとまったのである。


その後、前の撮影で疲れた能はその場で眠りだし、文ちゃんは再び運転に集中する事となる。俺も、暇つぶしに携帯電話で夜次郎が書いているブログの記事を読んでいた。

 家でゲームとは…。相変わらず、好きだなぁ…

俺はクスッと笑いながら、彼のブログを読んでいたのである。

しかし、俺は彼がなぜ部屋に閉じこもってゲームをしているのかの理由を知っていたから、このブログの記事を読んでも特に何か不審に思う事はなかった。

 一度、「あれ」を神奈で試してみるという手も…

携帯をいじりながら、ふと何かを思いつく。しかし、すぐに我に返った俺は“それ”はしない方がいいという結論に達し、頭を横に振る。

 いや…下手したら、神奈あのこが廃人と化してしまうからな…。そんな危ない綱渡りは御免だし…

携帯をいじるのを止めた俺は、瞳を閉じて自分も仮眠を取ることにした。もちろん、考え事もしながらだが…

こうして、“LaNDe”等の事で頭いっぱいな俺が乗る車は、都心部を走り抜けていく。

今後、俺らだけでなく神奈にとっても脅威となる存在が現れる事を知らずに―――――――――


いかがでしたか。

今回は初めて、貴一視線で描いてみました。

ちなみに、今後の展開によって、やはり神奈以外の登場人物視点で物語が進む事もしばしばあるかと思います。

連載開始前、彼らの一人称をどうすべきか迷いましたが…


神奈→「私」

戒流・能・貴一→「俺」

彰・夜次郎→「僕」


としたいと思っています。

また、この6人以外の登場人物で話を進めることは、こんがらがってしまうため、そうする事はないです。


さて、全ての発端は父親探しにあったのですが、これからどんどん話が大きくなる予定です。

現代の日本を舞台にした作品はこれが初めてのため、いろいろと試行錯誤を繰り返しながら書いていますので、よろしくお願い致します。

前作の「蒼き牡丹」のように章ごとにまとめようかな~とも考えていますが、それはまだまだ検討中なかんじ★


ご意見・ご感想があれば、よろしくお願い致します!


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