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第2話 手がかりを求めて

この作品では、基本は主人公の神奈視線ですが、時々それ以外の登場人物の視線で物語が続きます。

今回は戒流視線からお楽しみください。

「私は、何が何でも生きて、やり遂げなければならない目的がある。そのためには…どんな手段であろうと、私は利用する!!それが、悪魔に魂を売り渡す事になろうとも…!!」

1年前――――――――――燃え盛る炎の中で、その黒き瞳を持つ娘は告げた。

契約の際に猪俣神奈という名前を聞いたが、本当は既に名前とどんな肩書きを持つのかを知っていた。

人間界でバンドをやっている俺・彰・あたる・夜次郎・貴一は本来、地獄でも多少名の知れた悪魔であった。しかし、なぜ人間界にわざわざ出向いているのか…その理由は、神奈の父親にあった。


猪俣いのまた尚文なおふみ博士…。“契約”をしていない人間を飼っていた男…か」

口からタバコの副流煙を吐きながら、彰が呟く。

俺らの主であり、人間界こっちでは事務所の社長に当たるモテット・久光との面会をした翌日、撮影の合間に俺は彰と2人でスタジオの屋上にいた。

「そして、“LaNDeランデ”を発明した同胞やつ…」

俺は腕を組みながら、ポツリと呟く。

神奈が探す父・尚文は、俺たちも必死になって探している悪魔の一人。あいつには、父親と血がつながっていない事や、博士が悪魔である事は出逢った頃に一通り話した。最も、血がつながっていない事は既に知っていたようだが、人間じゃない事を知ると、神奈は驚いていた。

「しかし…博士はなぜ、神奈と“契約”を交わさないで行動を共にしていたんだろうか?」

「おそらく、人間界での肩書を作るため…とか、そんなものなんじゃないか?」

2人はたばこを吸いながら、会話を続ける。

 …本来、“契約”という形でしか、俺たちは人間と行動を共にする事はない。…博士の奴、何を考えているのやら…

俺は内心でそんな事を考えていた。

「…何にせよだ。どんな事があろうとも、契約が終えるまでは神奈を守る事。そして、あの”1年前の出来事”が“仕組まれた火事”である事を本人に悟られないようにしなくてはな…。って、聞いているのか?戒流?」

腕を組んで考え事をしていた俺を見た彰は、下から顔をのぞかせてきた。

「わかってる。…ヘマはしないようにしなくてはな…」

覗き込まれて驚きはしたものの、顔に出したくなかった俺は、必死でこらえていた。

すると、少し離れた場所から神奈が走ってくるのが見える。

「戒流!彰!!メイクさんが化粧直ししたいから、早く戻ってこいですって!!」

春物のジャケットを羽織って長い黒髪をハーフアップした神奈は、大きな声で張り上げながら屋上の入口に立っていた。

「人間のままごとも最初は面倒だったが…最近は慣れてきたのかもな…」

今度は、彰がポツリと呟いた。

俺達が神奈と“契約”をする前――――――――「博士をどのようにして探すか」という手段として、バンドを組み芸能活動を始めた俺達。歌を歌って金をもらうだけ…と考えていたこの仕事は思いのほか忙しく、人間よりも体力のある俺たちだからこそ、難なくこなせるのがよくわかる。実際、芸能界という業界では、俺達と同じ悪魔が活躍しているケースが多い。デビューから3年が経過し、同胞である鉤谷文也だけでは、スケジュール管理等ができなくなっていた。そのため、契約を交わした神奈に「自分達のマネージャーになって、補佐する事」を、願いを叶えるための条件としたのである。

「ああ。悪いな…」

冷ややかな笑みを浮かべながら、俺と彰は神奈の元へと歩き出す。

彼女とすれ違った時、その小さな頭を軽く撫でるようにして叩く。その時の神奈はきょとんとしていた。

「…か弱き魂と、生への強き執念か…。アンバランスな娘だな」

「?何か言ったか?」

階段を少しずつ降りていると、自分の呟きに彰が反応する。

「…なんでもねぇよ」

不思議そうな表情かおをするあいつを横目で見た俺は、スタジオへと歩いて戻っていく。



「ここが、噂の…場所?」

「ああ。そうだが…?」

翌日の夜、俺・彰・神奈の3人は車でとある場所に到達していた。

「近代的と言えばそうかもしれないけど…渡す場所としては、珍しいな…」

神奈が納得いかないような表情で呟いていた。

俺達が車の車窓から見えていた建物は、どこにでもありそうなインターネットカフェ。俺が掴んだ情報によると、このネットカフェが物の受け渡し場所らしい。

「…行こうぜ」

「あ…ちょっと!会員証とか、持っているの??」

「問題ない。僕が持っているから…」

サングラスをかけた彰がそう言った直後に、車から外へ出る。

 いちいち面倒くさいが…

俺は伊達メガネと帽子をかぶり、車から外に出る。どうやら、素顔のままで街を歩いたらファンが群がって大パニックになるための軽い変装。最も、神奈が言うには芸能人がネットカフェに入るのはあまり聞いたことないので、妙な噂が立つ事はない。しかし、そのような配慮をしなくてはいけない事を考えると、人間は正直面倒くさいとも俺は考えていた。


彰が持つインターネットカフェの会員証を、受付近くにある機械に入れる。

「戒流。とりあえず3人だから、リクライニングとフラットシートでないと入れないけど…どこにする?」

「えっと…」

俺は機械に映る座席図を見つめる。

 俺が手に入れた情報ソースだと、確か…

考え事をしながら、希望する席の番号をタッチする。その後、入場手続きを終えた俺達は、自分が決めた位置にあるリクライニングとフラットシートのある席へと移動する。

「ねぇ…。どうして、この位置にある席にしたの?」

1~2人入れるフラットシートの席にやってきた俺と神奈。

その時、彼女が俺に対してそう尋ねてきた。

「…静かにしていろ」

辺りが静かなだけあって、神奈の声が物凄く大きく感じた俺は、すぐさま契約者である神奈の口を塞ぐ。

それとほぼ同時に俺は、彼女の胸元を自身の手で押させる

「…!?」

口を塞がれた神奈が、何かを口にしようとしていた。

しかし、俺にとってそれが何を言っているのか手に取るようにわかる。

「…今、お前にしか聞こえねぇ声で話すから…。よく聞けよ?」

と、俺はその台詞を神奈にしか聞こえないような声で囁いた。

頬を赤らめる彼女に構う事なく、俺は話を始めようとする。ちなみに、自身が契約主に刻んだ刻印を抑えて話すと、その者にしか聴こえない声で話せる。これはいわば、「人と悪魔がつながっている」事を意味し、隠し事や内緒話をするのにはもってこいの能力ちからである。

「…このPCからアクセスできる特殊なサイト…。そこへ行けば、“これ”を開けるための暗証番号を入手できる」

俺は自分達の斜め上にある、貴重品を入れるための鍵付物入れをチラッと見る。最近のネットカフェに多いという、ダイヤル式の鍵がついた物入れ。それを見つめながら神奈が口を開く。

「実際にそのサイトは、どうやっていくの?」

「…聞いた話だと、このインターネットで最初から開かれているページのURLがあるだろう?これのwwwワールドワイドウェブ以降のアルファベットを逆から入力して…」

俺は耳元で囁きながら、神奈にキーボードを動かすようにと促す。すると、神奈は手慣れたような手つきでキーボードを操作する。

「そして、こことそっちとそこに“L”・“a”・“N”・“D”・“e”の字を散りばめて…」

俺は、URLの入力する欄を指さしながら、神奈に指示を出していく。両手が塞がった状態になった俺は、ふと大事な事を思いだす。

 …とはいえ、今回はあくまで“噂の検証”―――――――あまり深追いすると、せっかくの手がかりもなくなってしまう。…どうするべきか…

俺はパソコンの画面を見つめながら考え事をしていると…

「…あ!」

「パスワード…?」

エンターを押した後…PCには、シンプルかつ独特なデザインのページが映し出される。

そこには更に、パスワードを入力するコマンドがあった。自分が掴んだ情報通り、物入れの鍵を開けるために必要な暗証番号を手に入れるまで、もう少しの所まで来ている。しかし、ここでまたバスワードのような物が必要となる事は、戒流にとって全くの予想外であった。

「どうしよう…」

不安そうな表情を見せる神奈。

俺も予想外の出来事に、どう対応すべきかを考える。

「二人とも…」

2人して考え事をしていると、少し離れた個室にいた彰が中に入ってくる。

「彰…どうした…!?」

「…気が付いたか」

彰がなぜこちらに来たのかを考えようとした瞬間、俺は異様な気配を感じ取る。

その気配は、人間ではあるがどこか禍々しい…おかしな気配をまとっている。

「っ…!!」

この時、彰に突然首の後ろを触られた神奈は、口に出してしまいそうな声を手で塞ぐ事で声に出さないようにした。

「偶然か否か…どうやら、“購入者”が来た…って所だな」

彰は神奈の首の後ろにある刻印に触れながら、低い声で呟く。

その後、俺達が入っている個室の隣にあるフラットシートのドアが開く。その後、中に入ったと思われる人間が、キーボードで入力する音を立てる。俺達3人は、隣から聴こえてくるその音に対し、耳を澄まして聞いていた。また、俺と彰に関しては気配も消して…である。それは、用心をするに越したことはないからである。

そして、黙り続けて数分後―――――――――――ダイヤル式の物入れが開く音がした後、隣に入っていた人間は、入口の方へと歩き出していく。そして、その足音が聞こえなくなるのを確認した俺達は、その場でため息をつく。

「あの変な気配も…消えたな」

そう呟いた彰は、神奈の首に当てていた手を離す。

すると、まるで息を止めていたような表情をしていた神奈が、やっと落ち着いたような雰囲気へと変わる。


「…やはり、あの場所が受け取る場所だったのは、間違いなかったようだな…」

その後、インターネットカフェを出た俺達は、車に乗って移動を開始していた。

「物入れの中にほんの少しだけ残っていた白い粉…。あれが“LaNDeランデ”?」

「おそらくな…」

神奈と話しながら、俺はビニール袋に入れたLaNDeを眺めていた。

「…とにかく、“それ”の正体については、貴一さんに任せよう。あの男性ひとなら、悪魔系薬学が得意だから…」

彰は俺と神奈を見つめながら、今後の事を話す。

「…結局、父さんの事はわからずじまいか…」

「…何事も、そう簡単に上手くはいかないということだ」

俺は、落ち込む神奈を鼓舞するかのようにして言い放つ。

 外敵から守りはする…が、憎しみや憎悪・恐怖などの負の感情をしみつかせた方が、魂は極上の輝きを見せるからな…

悪魔にとって、契約主を貶める事は日常茶飯事の出来事。かすめ取られるのは嫌なので他の悪魔やつらからは守るが、それも見かけだけに過ぎない。

「それにしても…」

俺は、手に入れた白い粉を眺めながらボソッと呟く。

LaNDeらしき粉を見つけた際、ほんの少しだけ味見をした。薬物なだけあって、人間が感じるような甘味などは全くなかったが…俺達悪魔がよく口にするような―――――――――人間の魂のような味を感じたのである。

 こいつは一体、何でできているんだ…?

人間の魂のような味はしたものの、“それ”が材料かどうかの確証はない。そのため、今は自分の胸の内にしまっておく事にした。

「さて、また明日から忙しくなるけど…戒流、どうしたの?」

「ん…?ああ、何でもない…」

気が付くと、手帳を片手に持った神奈が俺の方を向いていた。

それに対して俺は、いつもとなんら変わらない口調で返事をする。


こうして、今回の成果は手がかりとなるであろう白い粉の事以外だと、収穫はなかった。

 神奈あいつにとっては、単なる父親捜しだろうが…俺達にとっては、一族の…運命を左右する重要人物でもあるからな…。何が何でも、探し出さなくては…

俺はスモークガラスの車窓を眺めながら、心の中でそう誓うのであった。


いかがでしたか。

このように視線を変えるのには、まだ主人公が知りえない事をこっそり書くためや、登場人物の具体的な心境をリアルに描き出すためでもあります。

視線の切り替えは1話分ずつとなると思うので、その辺りも注目して読んでいただければなと思います。


さて、まだ話が序盤のため訳がわからないかもしれないですが、話が進むごとにいろいろと判明していくでしょう。

ちなみに、インターネットカフェに関しては私も何度か足を運んだことがあるので、どんな場所なのかがリアルによくわかるという次第です。笑

座る席を機械で決めたり、ダイヤル式のカギがついた物入れがネットカフェにあるのは本当です。今回は、私がよく行くネットカフェがモデルとなってますゆえ★



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