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第1話 芸能マネージャーをする理由

ジャーッ…

女子トイレに響き渡る水の音。手を洗い、持っていたハンカチで手をふく私。そして、身だしなみを整えながら、鏡に映る自分―――――――――――猪俣神奈いのまたかなを見つめていた。

 あれから、1年か…

ため息をつきながら、物思いにふける。ただし、私が見つめていたのは、鏡に映る自分の顔ではなく、身体…肉体であった。

「…って、そろそろ行かなきゃ…!!」

時計で時刻を確認した私は、そろそろ行くべき場所へ行かなくてはならない事に気が付く。

手にしていた化粧ポーチを握りしめて女子トイレを出た私は、建物の中を走り出す。


「はい、オッケーでーす!」

プロデューサーによるOKの合図が、スタジオ中に響く。

その声とほぼ同時に、私はスタジオの入口から中に入ってきたのである。

「神奈ちゃん!!」

「文也さん!!」

自分の存在に気が付いた長身の男性が、私の名前を呼ぶ。

「んもぅ…ギリギリセーフって所かしらね?次からは気を付けて!」

「はい…すみません」

私はこの場所に来るのが予定より微妙に遅かったため、このおねぇ言葉を話す鉤谷文也かぎたにふみやマネージャーに注意をされる。

「お疲れ!」

明るくて元気な声をした男性が、私達の近くにくる。

「あ…あたる君!移動があるから、早めに着替えてね!!」

「了解!」

オレンジ系の茶髪をした青年・峯古井能みねふるいあたるは、私達とすれ違うような形でスタジオから出ていく。

「文ちゃん。この後の予定は…?」

「貴一ちゃん!そうね、次は夜次郎ちゃんと2人で音楽雑誌の取材が2件。それから、貴方だけのでメンズ雑誌の撮影が2件よ!だから、さっさと着替えてきてちょうだい…!!」

文也さんは、自分と同じくらいの背丈である篠崎貴一しのざききいちをスタジオのドアへと誘う。

「神奈…!」

「あ…」

手帳を開いて予定を確認する私の後ろから、ハスキーな声が響く。

振り向くと、そこには黒と紫の入り混じった髪と赤い瞳を持った青年――――――八尾龍戒流やおりゅうかいるがいた。背が高く、サラサラのショートヘアが揺れる。

 この男性ひとがきっかけで、全てが始まったんだ―――――

私は、この青年を見つめながらそんな事を考えていた。

「…聞いてるのか?」

「あ…!」

私は彼の声で我に返る。

「次は、CM撮影の打ち合わせだろ?早く行った方がいいんだよな!?」

ボンヤリしていた私を急かすように、彼は私にこの後の事を述べる。

「そうね…さっさと、行くわよ!!」

「了解」

この後も予定がある事を思いだした私は、彼を先導してスタジオを離れる。

 

現在20歳である私の職業は、芸能人マネージャー。年齢も年齢なだけに、まだ始めてから1年と少ししか経過していない。

そんな私が担当しているタレントは、“ABYSSアビス”という現在、大人気のバンドグループ。ヘビーな声でたくさんの女性を虜にするボーカルの八尾龍戒流やおりゅうかいるを始めとし、ギターの高麗彰こうらいあきらや先ほどのベーシスト・峯古井能みねふるいあたる。ドラムの篠崎貴一しのざききいちをリーダーとし、キーボード古尺夜次郎こしゃくやじろうと共に活動しているグループだ。

「打ち合わせの後の予定は?」

「今日はこれだけね。ここ数日、嵐のように忙しかったからゆっくり休めるわよ!」

「…ゆっくりねぇ…」

車での移動中、この後の予定を確認する私と戒流と能の3人。

「あ!!だったさらぁ、久々にこの3人でご飯食べに行かない!?」

「いいかもね!…あ、でも、能君は明日は朝早いんじゃなかったっけ?」

「平気平気!!」

「でも…」

いくらこの後の予定が多くないとはいえ、翌日に備えないと疲れてしまう。

そういったアーティストの体調を危惧するのもマネージャーの仕事だと、文ちゃんから教えられている。

どうすべきかと私が迷っていると、右隣に座っている戒流が口を開く。

「なら、社長の所へ行かないか?」

「!!!」

その台詞を聞いた途端、私や能君の表情が一変する。

そう…私たちにとってその台詞は、ある事への合言葉であり、能君の明るい雰囲気を一発で変えてしまうような深刻な事を指していた。

「…親父さんの件で、また何か新しい情報があるかもしれないしな…」

ボソッと低い声を出しながら、戒流が私の耳元で囁く。

 …ABYSSファンが魅了される理由わけが、大いに理解できるな…

この時、ハスキーボイスで囁かれた私は、頬を少し赤らめる。戒流達のマネージャーを始めて1年が経過しているが、未だに耳元で囁かれるとドキドキしてしまう。

ただし、私がドキドキするのは、彼の声だけが理由ではない。

「あ…神奈ちゃん!胸元の所を気をつけた方がいいよ!谷間もそうだけど…君の場合、”アレ”も見えちゃうから…!」

「あ…!」

すると、左隣に座っている能君が、インナーが少し下がっているのを指摘してくれた。

「ありがと…」

私は俯きながらお礼を言う。

その後、戒流と能君は、到着までの数分間を眠って過ごす事にした。その間に私は、自分の身だしなみを整えながら、眠っている彼らを見つめていた。

 …進展していればいいな…

私は内心でそう思いながら、窓から見える景色を眺めていた。



「…なぜ俺が、缶チューハイのCMなんかに…」

戒流がブツクサと呟く。

あれから数時間後―――――――――打ち合わせの終わった私と戒流は、彼らが所属する事務所・ルスティークワイアへ到着する。

「1・2ヶ月くらいは会っていない…よな?」

「うん…」

事務所の建物に入った私達は、話しながら歩く。

「あ…皆、戻っていたのね!」

エレベーターに乗る時、私達の後ろから能君や夜次郎、それに彰や貴一さんが現れる。

「メンズ雑誌の撮影が思いのほか早く終わったんだ!この後、プライベートな予定もないからどうしようか…と思った所で、能から連絡をもらったんだ」

「そっか…」

私の視界には、背が高く、蒼と黒の入り混じった髪を持ち、伊達眼鏡をかけた貴一さんが入っていた。

「…ってか、夜次郎!立ち寝はいいから、そろそろ社長室だぞ!」

栗色の髪をした夜次郎が、その場で突っ立って居眠りをしていた。

そんな彼の頬を叩いて起こしている金髪碧眼の青年が、彰である。

 他の人から見ると…やっぱり、”普通の男の子達”にしか見えないんだろうな、彼らは…

私はABYSSの皆の会話を聞きながら、内心でそんな事を思っていた。


「おっ!お前ら全員揃ってのご登場とは、久しいなぁ…!」

ノックをして入った先には、事務所の社長であるモテット・久光社長が待っていた。

「おかげさんで、人間共に引っ張りだこ扱いだぜ!社長!!」

「ふ…。だが、あまり大きな声で彼らを”そんな呼び方”で言うな。ここにも一人、いるわけだし…な」

皮肉たっぷりである戒流の台詞を聞き流しながら、社長の視線は私の方を向いていた。

「久しぶりに会ったからゆっくりしたい所だが…。君がいるという事は、”例の件”だね?神奈くん」

「はい、社長…」

穏やかな口調ではあるが、社長の言葉一つ一つには、抗えない圧力みたいなものを私は感じていた。

すると、彰が社長室の窓にある遮光カーテンを閉める。すると、部屋の中が暗くなり、代わりに蝋燭の火がともる。

「本題へ入る前に…だ。わたしに、彼らとの”契約の証”を見せてほしい」

「社長…?」

「能…今は、モテット”様”だよ」

私と社長との会話のすぐ後ろで、能君や夜次郎がモゴモゴと話していた。

社長の求めに応じた私は、着ていたジャケットやスカートを脱ぎ始める。そして、ABYSSの全員や社長が見守る中、私は下着1枚の格好となる。本来、男性の前でそんな姿になるのは恥ずかしいと思うのが、女性として当たり前の感覚。ただし、今の私にはそれがない。私は1年前の”あの日”から、そういった人としての感覚を失いつつあるのだから―――――

「俺ら5人と契約を交わせる程の魂…。お前が何者かはわからないが、こうやって見ていると不思議なかんじがするな…」

私の姿をまじまじと見つめながら、彰がつぶやく。

部屋の中央に立つ私の身体には、”契約書”と呼ばれる刻印が5つ存在している。

「確かに、これまでで5人の悪魔と契約を交わした人間などいない。だが…それだけ、君の魂には価値があるという事だ。猪俣神奈…」

腕を組んで考え事をしながら、久光社長は語る。

そう、この社長や戒流達5人の正体は、地獄から来た悪魔なのである。1年前…火事で焼け死ぬはずだった私は彼らに助けられた事で、一命を取り留める。また、私が果たしたい目的――――――「失踪した父親を探す」事を手伝ってもらうために、彼らとの契約を交わした。そういった経緯があり、私はマネージャーの仕事の傍ら、彼らとともに父の行方を捜している。

「”契約書”は、悪魔と人間が契りを交わした証…。お前が目的を果たした後は、どうなるのか…わかっているよな?」

紅い瞳をぎらつかせた戒流が、私の目の前にやってくる。

「…この魂と血肉を、あなた達5人に捧げる…でしょ?」

「ああ…」

私は、胸元に刻まれた刻印を抑えながら、彼の質問に答えた。

”契約書”と呼ばれる刻印は、身体のいろんな所に刻まれている。戒流の刻印が胸元。彰が首の後ろで能君が右腕。夜次郎が左腕で、貴一さんのが左足の裏にある。

 悪魔かれらがなぜ、私に力を貸してくれるのか…詳しい事はわからない。でも、私は自分の目的を果たすためならば、人でない存在であろうと、使えるものは使うのだから…!

私の中には、そんな静かな炎の心が存在しているのであった。

「…さて!もう服を着て大丈夫だぞ、神奈くん」

「あ…はい!」

私の刻印を見つめていた社長が、いつもの状態に戻り、私も服を着始める。


その後、私達は仕事に関する事を一通り報告した後、”本題”へと突入する。

「さて、神奈くんの父親…猪俣博士の件だが、お前達の情報網で何かわかったことはあるか?」

社長は自分の向かいに座るABYSSの面々を見渡しながら、そう口にする。

しかし、彼らは苦そうな表情をしながら黙り込む。

「…一つ、妙な噂が」

「ほぅ…。それは、どんな噂なんだ?戒流…」

沈黙を最初に破ったのは、戒流だった。

そして、私達の視線が彼へと集中する。

「今、人間達の間で新たなドラッグが流行はやっているらしい。…もしかしたら、博士が発明した、”アレ”かもしれない…」

「”アレ”…?」

少しだけ遠まわしな言い方に、私は首をかしげる。

「…”LaNDeランデ”か…」

「先日、夜次郎が話したとか言ってたけど…聞いていなかった?神奈ちゃん」

「いえ…。今、初めて聞きました」

社長がボソリと呟く中、貴一さんが私に話しかける。

「…それを服用した人間は、己の前世にまつわる”何か”が目覚める。それが、記憶であったり、肉体的変化であったりは…十人十色だがな」

「前世の…?」

彰の言葉に私は首をかしげたものの、驚きはしなかった。

 …悪魔である彼らと行動を共にしているせいか、普通ならありえない事に対しても、あまり驚かなくなったな…

私は、内心ではそんな事を考えていた。

「何にせよ、可能性は見過ごさず、しっかりと見極める事が大事だからな。だが…いつも言っている通り、わたしはこれでも社長だからな。一緒に行くことはできないが…」

社長が話している途中で、外からノックする音が聞こえる。

「社長、失礼致します」

一言述べた後に入ってきたのは、マネージャーの文也さんだった。

「鉤谷!ABYSSこいつらの予定の合間で、外出できる日はあるか?」

「あら、モテット様ってばいきなりなのね!うーんと…」

中に入ってきていきなり次の予定を聞かれた文也さんは、一瞬の内に手帳を開く。

「そうねぇ…戒流と彰の2人だったら、明後日の夕方以降は空けられるわ!」

手帳を確認しながら答える文也さん。

言うまでもなく、彼も悪魔の一人。そして、久光社長の部下にあたる。

すると、社長は社長椅子から立ち上がって、私達を見渡す。

「では、戒流と彰!!お前ら2人は仕事が終わった後、その噂の検証を神奈くんとしてくれ」

「…了解」

「わかりました」

社長の命により、返事をする戒流と彰。

そんな彼らの表情には強い意志と共に、悪魔特有の危うい雰囲気をかもし出している。

 父の手がかり…ちゃんと見つかるといいな…

そんな事を考えながら、私は彼ら2人と共に社長室を後にするのであった―――――――

いかがでしたでしょうか。

今回は現代物ファンタジーのため、お仕事している所も書かなくては…といろいろと試行錯誤しながら書きました。

しょっぱなから訳分からない方も多いかもですが、後々でいろいろと変化していくので、今はご容赦を…


ストーリーの中盤辺りのシナリオが既に出来上がっているのですが、そこへ至るまでがどうなるか…と勝負所なかんじ。

一つ言えるのは、このABYSSの彼らはかなりキャラの濃い男の子達といったところでしょうか?

ちなみに、ABYSSの意味は深海,深淵(しんえん)・深い地割れ・底知れず深いもの,計り知れないもの,無限なもの(時間など)という言葉です。戒流かいる達5人が悪魔であるため、そういった言葉に結び付けられる単語をバンド名にしようと思いました。また、神奈を含む彼らの名前には、無簧管楽器(木管楽器のようなもの)の字を何文字か戴いてます。誰がどの字だったか、ウィキペディアとかを見ればわかります。笑


さて、作者としても展開がどうなるだろーってかんじですが、今後ともよろしくお願いします!

また、ご意見・ご感想があればお願い致します。


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