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戦乙女がゆく  作者: 抹茶
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第1話

 荒廃した大地に吹いた風が男の白髪を揺らした。

男は煩わしそうにその髪を抑え作業を続ける。

血糊の付いた剣を集め、鎧を剥がし、使えるようなら服を剥ぐ。

鼻につく刺激臭を堪えながらテキパキとおこなっていく。


「おい兄ちゃん。わりぃがそこの物を寄こしな」


 隆々とした筋肉に覆われた巨漢が男に声をかけた。

男は予想がついていた。こんな事態は一度や二度じゃない。

――――同類が現れたのだ。


「……嫌だと言ったら命も盗られかねません。弱肉強食ですからね」


 男は集めていた戦死者の遺品をかき集め、巨漢に近寄った。

巨漢は労をせず品を手に入れられると馬鹿笑いを浮かべている――そしてその馬鹿笑いのまま崩れ落ちた。巨漢は死ぬまで、否、死んでも自分が死んだ事に気がついていなかった。


「……悪く思わないでください。弱肉強肉ですから……ね」

 

 男は"新たな"死体から遺品を剥ぎ取りはじめた――。


 夕焼けに染まる戦場跡地には死肉を貪る怪鳥の鳴き声だけが響いていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 とある街の裏道にある一件の酒場。

そこは大きくは無いが遠方の珍しい酒がそろえてある店だ。

ドアがとギィと鈍く軋む音とともに一人の客が酒場に入ってきた。


「"ガドリ=ホット=ウィスキー"を頂けませんか?」


 店主は一瞬ピクッと反応したが、静かに問い返す。


「ガドリ=ホット=ウィスキー?なんじゃそりゃ?俺の店にも置いてねぇな。

代わりにカンズ酒かパラックサワーなんかどうだい?」


「いえ……代わりに"リンゴ"をお願いします」


「"リンゴ"?店の奥の倉庫にあるから勝手に食いな」





「ようこそ"禁断の果実リンゴ"へ」

 

 泥棒が手に入れた品をどうするか。

さばこうにも盗品は持ち主が治安隊へ届けを出している為、足がつき易い。

だから泥棒は専門業者に売りさばく事が多い。


 "禁断の果実リンゴ"は、暗殺からワケアリの品の売買まで手広くやっている、専門業者だ。

治安隊の摘発から逃れるため場所の特定をされぬよう工夫されているが、大概街に1つは支店が存在する大型専門業者である。


「こちらの品物の引き取りをお願いします」


「戦死者の遺品ですか。

状態が悪い物が多いですが軍が使っていたものがほとんどで、まぁまぁの品です。

18万3千クォークで引き取り致します」





 もう日は完全に落ちていて辺りは真っ暗だ。

ほくほくになった巾着を片手に男は困り果てていた。


 宿を取り忘れていたのだ。

ベットでゆっくり寝たかったし、それに何より風呂に入りたかった。

こびりついた死臭の臭いで鼻が曲がりそうである。


 ガラガラと何かが崩れる音が路地裏のほうから聞こえてきた。

男は訝しげに路地裏まで歩いて行くと、アウトロー的な若者が煽情的な衣服を纏った女にせまっていた。


「なぁ、いいじゃねーか。どーせ好きなんだろ?」


「や、やめて下さい!!」


「ケッ、売女が!いっぱしの女みてーな反応してんじゃねーよ!!!」


 若者は殴りかかろうとした――――が、突然腕が止められた。


「ふむ、売女と分かっているなら買えばいいじゃないですか?」


 若者はいきなり現れた男を睨みつけた。

明らかに自分より弱そうだというのも理由だ。

相手は読書が趣味といった様相の優男だったからだ。


「あぁん?こっちの話だ。勝手に入ってくんじゃねーよ!」


「もしかしてお金が無いから、こんなみっともない真似してるんですか?

みてくれも悪い上にお金も無いのなら誰にも相手にされなかったでしょう。お可哀そうに」


 その言葉に若者は真っ赤になって男に殴りかかった――――が、またもや止められた。


「パンチなど……スピードが乗り切る前に止めればなんといった事もありません。

特に貴方のパンチは挙動が大きいので止めるのは簡単ですし……ね。

さて、私に殴りかかったのですから私も反撃しても良いですか?」


 突如ざわっとしたナニかが若者の背筋を通り抜けた。

いかにもひ弱そうに見えた男が、今は野生の獣にすら感じられる。

生存本能に訴えかける恐怖に従い、若者は身を翻し逃げ出した。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


 男はやわらかく笑い、女に手を差し伸べた。

女はポーッとしてあたふたしながら立ち上がった。


「だ、大丈夫です。商売上仕方のないことですし……」


「何を言っているんですか、商売品であればタダであげる必要はありません。

それにあの馬鹿者が買えるようなチンケな品じゃありません……最上級の真珠も及ばぬ至高の宝石ですからね」


 女がまたしてもポーッとしている間に、男は手を振り去ろうとしていた。

しかし、女は男を引きとめた。


「ま、待って下さい……お礼をさせて下さい……その……あの……えっと……私の職場で」


 男は笑顔でうなずいた……なんとか風呂のあるところに泊れそうだと。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 女は部屋の中で心臓をドキドキさせながら待っていた。

今まで仕事上で"お客様"の相手をすることはあったが、こんなに緊張したことは無い。

男は部屋に入るなり「風呂に入らせてくれないか」と言い浴室に入って行った。

女も浴室に入って行くべきか迷ったが、はしたないと思われるのが耐え難かったので待つことにした。


この後……男が出てきたら――――

と考え始めて一気に赤面した。


「きゃっ、私ったら……」


「どうしました?」


女はいつの間にか浴室が出てきた男に驚き……?おと……こ……におどろき?

女はジーッと相手の体の隅々を見回してしまった。……!?


「お、おんなのひと!?」


「……へっ?……ああ、そういうことか。

私を男だと勘違いしていたのか。私はキューレ=ラグナ、正真正銘の女性だ」


 女はポカーンとして、キューレを見つめていた。


「そ……そんなに私は変か?」


「い、いえ!変じゃなくて……それでも十分魅力的です!!」


 美しいです!凛々しいです!憧れます!大好きです!

女のなんとも言えない熱烈な視線にキューレはたじろいだ。


「そ、そう。じゃあ私は寝るよ」


 キューレは、服を着こみベッドに入った。


「おやすみなさいませ」


 キューレが寝入ると女はベッドに入り、キューレの腕を枕に寝顔を見ながら眠りについた。





 女が朝起きると机の上に置手紙と18万クォークが置いてあった。


『一晩ありがとう。

私は放浪人だからね……旅に出なくちゃいけない。

また、この街によった時に君の顔が見れると嬉しいな。

至高の宝石を買ったにしては安すぎるがこのお金は取っておいて欲しい。

                        キューレ=ラグナより』


 女はこの後、淫館を止めて近くの花屋に勤め始めた。


『キューレ=ラグナ様へ

 私は既にキューレ様に買われてしまいました。

私は既にキューレ様のものなので誰にも売りません。

またお会い出来る事を楽しみにしています!

                         パミラ=コスモスより』






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