対照的なふたり
こちらは小説投稿サイトNolaで公開しているショートショートのひとつです
王国第一騎士団と第二騎士団、それぞれの団長が犬猿の仲だということは有名な話だ。
2人は性格、戦い方、方針があまりにも正反対で、何なら性別も違い、共通していたのが女王への忠誠心だけという有様である。
第一団長ガブリエルは猪突猛進な女騎士、第二団長アレスは慎重な魔道士と、よくもここまで正反対なふたりが、それぞれ騎士団長に上り詰めたものだ、と周囲も感心するほどだった。
「それがまさか……魔王軍の奸計にはまってこのザマとはな」
「貴様と意見が合うとは珍しいな。俺もそう思う。そもそも貴様が、俺の制止も聞かずに突っ込むからこうなるのだ」
「はっ、前線に出ない腰抜けの第二騎士団の制止など聞いていては戦えんからな。せいぜい第一騎士団の後ろで怯えているのがお似合いだ」
「何だとこの脳筋女、貴様に小さじ一杯程度の脳みそでもあれば――」
「おやめなさい二人とも」
女王の執務室では、部屋の主である女王がこめかみをグリグリと揉んで眉間にシワを寄せていた。
女王にとっても、長くこの2人の仲の悪さは頭痛の種であった。
事あるごとに衝突し、そのために国軍としての任務に支障をきたすことすらあったのだ。
今回、魔王軍との戦いから無事帰還したところまでは良かったが、なんと2人の意識だけが入れ替わってしまった。
ベヒーモスを一刀両断するほど屈強な女騎士であるガブリエルの身体には、慎重で穏やかな魔道士アレスの意識。
細身で非力ながら、有史以来最強の魔道士と謳われるアレスの身体には、突撃戦法を好む勇猛な騎士ガブリエルの意識。
いがみ合いながらも、見事な連携をこなし見事魔王軍四天王の一角を討ち倒したのだが、死の間際、四天王の呪術師が2人の団長に呪いを掛けたのだった。
『これより貴様らは七日七晩、肉体と精神が入れ替わる……ククク……この術に三日以上耐えた者はおらぬ……苦しめ、もがき苦しんで自ら命を断つがよい……』
周囲の騎士たちは青ざめた。
国防の要どころか、『この2人がいるからこそ国がまだ保たれている』という団長2人に万が一のことでもあれば、国は間違いなく滅ぼされてしまう。
「経緯は分かりました……七日肉体と精神が入れ替わった状態になるということですが……あと何日ですか?」
「あと5日です」
アレス――が入っているガブリエルは、いつもとは全く違った礼儀正しい所作で答える。
「5日……」
「なぁに陛下、ご心配には及びません。私がこのひ弱な身体に入っていたとしても、鍛えれば良いのです。それに精強無比な第一騎士団ならば、四天王の一角を欠いた魔王軍ごとき恐るるに足りません」
普段は慎重で、可能ならば戦いを避ける道を選ぶアレス――の内にいるガブリエルは、普段誰も観たことが無かった『自信満々な笑顔のアレス』の顔を見せた。
「なりません」
「陛下!? まさか、この千載一遇の好機を逃すおつもりですか!?」
「まずは、あなた達2人がもとに戻るのが最優先です。打って出る事は許しません。ともに守りに徹しなさい」
「しかし陛下! ヤツらは重鎮を失って動揺しています! 今が好機ですよ!?」
「私達には動揺がないとでも思っているのですかアレス! ……じゃなかった、えぇと、今はガブリエルですか……ああもう! こんな混乱する有様で戦えるわけがないでしょう! 2人には『静養』を命じます! それぞれ騎士団の副長を呼びなさい、一時的に団の指揮権を副長に委譲します!」
「さすがは陛下です、賢明なご判断です。当然、第二騎士団長として女王陛下のお下知に従います」
身長2メートルを超える巨躯をかがめ、ガブリエル――の姿を借りたアレスが跪いた。
普段なら絶対にみることが出来ない、『お行儀よく、美しく洗練された所作のガブリエル』だった。
女王の執務室をあとにした2人は、『静養』の命令が事実上の謹慎を意味するということは理解している。
本来ならば自宅に戻り引きこもるところだったが、彼らは二人ともに騎士団の宿舎に暮らしている身だ。向かう先は王城に隣接する騎士団宿舎の自室だった。
「おいアレス」
「何だ」
「どうせお前は童貞だろう? 私の身体をみて欲情するなよ?」
「見くびるな。俺は『女のカラダなら何でもいい』というような下賤な男ではない。貴様のカラダで欲情するほど落ちぶれてはいないからな。貴様こそ、見たこともない男のカラダをみて卒倒するなよ」
「はっ、誰が。 鏡でお前の粗末なモノをみて笑ってやるよ」
「ほざけ。せいぜい俺の身体を大切に扱え、それから、間違っても魔法を使おうなどと思うな、下手をすればこの城が消し飛ぶぞ」
「ふん、お前こそ、せいぜい物を壊さんようにしろ。こんな細腕とは比べ物にならん力だからな」
憎まれ口を叩きあった2人は、周囲の混乱を避けるために部下には事情を話し、それぞれ『中身』にとっての自室に謹慎することとなった。
お互いの服だけはどうしようも無かったため、部下に着替えを運ばせてからガブリエルはドアの鍵をかける。
ガブリエルは男性経験どころか、訓練以外では男の手を握ったこともない生娘であった。
「ど、どれ……エルフ男の軟弱な身体とやら、じっくりみて嘲笑ってやろうじゃないか」
慣れない手つきで男物の、エルフ族用の刺繍の多い服をいそいそと脱ぎ捨て、鏡の前に立つ。
「え? えっ? な、なにこれ、こんなのが着いて……じゃない! そうじゃなくて、意外と魔道士も身体を鍛えるものなんだな。短剣術くらいは使えそうな筋力じゃないか」
鏡の前で自分の身体を見て赤面するエルフ男、という、誰かに見られたら地獄以外の何物でもない光景。
だが、同じような光景が第一騎士団長の私室でも繰り広げられていた。
甲冑と服を脱ぎ捨てたアレスは、ガブリエルと同じように全裸になって鏡の前に立っている。
「……美しい……ただの筋肉しかない野蛮女だと思っていたが意外と巨乳……ってそうじゃない! 全然無いと思っていた体内エーテル、オドも充分ではないか。これなら魔法の訓練を積めば、中級魔法くらいなら使えるのかも……」
この日以降5日間、2人は一歩も部屋から外に出ることは無かった。
アレス――に入ったガブリエルは、短剣術の基礎の動作をアレスの身体で繰り返し、ガブリエル――に入っているアレスは、瞑想によりオド循環に身体を慣らしていた。
呪術師の『精神移植の術』の効果が切れた後、王国軍は破竹の快進撃を見せることになる。
魔法を使えなかったはずのガブリエルは何の心境の変化か、アレスに師事して魔法を習得。魔法剣を編み出して戦場で一騎当千の働きを見せていた。
また、後方支援に徹していた第二騎士団が、第一騎士団との合同訓練を行うようになり、全員が短剣術や短槍術を身につけることで、前線に出て第一騎士団と連携出来るようになっていた。
「……という報告を受けていたから、あなた達も仲違いをやめたかと思ったのに、相変わらずなのね」
「当然です、私はひ弱な臆病男には興味はありません」
「奇遇だな、俺も同感だ。突撃ばかりの脳筋女など願い下げだ」
「やめなさい二人とも」
王国軍が魔王軍に勝利するのは、まだ少し先の話である。
こちらのショートショートの他、長編作品「光のまほう」も連載中です。
毎日21時にエピソードを公開していますので、こちらも是非お楽しみください!




