第八話「双龍、天を焦がして」2
第二章 心臓の奪還
虹海タワーの崩壊跡地。 かつてはアジアの繁栄を象徴する極彩色のネオンが輝いていたこの地も、今は瓦礫と黒煙、そして赤竜の放つ高熱に焼かれた焦土と化していた。 その地獄の底から、空中で繰り広げられる神話的な双龍の戦いを見上げる者たちがいた。 久遠灯たち、『リコリス・バロック』の魔女たちだ。
「サンプルの回収を! ……赤竜を守りなさい!」
瓦礫の山頂、仮設の司令塔からドクター・メイのヒステリックな叫びが響く。 彼女の周囲を守るように展開したのは、おびただしい数の武装キョンシー部隊と、空を覆う自律型戦闘ドローン群。 それらが一斉に銃口を天に向け、響とリーリンを撃ち落とそうと照準を合わせる。
「させるかよ! ……空は、あいつらのステージだ!」
灯がS&W M500の撃鉄を親指で弾いた。 カチリ、という硬質な音が、乱戦の幕開けを告げる。彼女は鉄骨の残骸を盾に身を翻し、上空から降下してくるドローンの群れにマグナム弾を叩き込んだ。
ドォン!!
一発で一機。 正確無比な射撃が、機械の羽虫を火だるまに変え、墜落させる。
「地上の掃除は任せてください!」
白雪亞莉愛と白雪華琉愛が、深紅のチャイナドレスの裾を翻して駆け出した。双子の動きは、鏡に映したように完全にシンクロしている。 二人の手から放たれたマイクロフィラメント・ワイヤーが、夜空に銀色の幾何学模様を描く。
ヒュッ、ヒュッ!
ワイヤーが、進軍してくるキョンシーたちの足首に絡みつく。鋼鉄の死体兵士たちが、為す術もなく拘束される。
「引きますわよ、カルア!」
「はい、アリア!」
二人が同時にワイヤーを引き絞る。 数トンの重量を持つ数十体のキョンシーが、一斉にバランスを崩して宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「道は開けました! ……お願いします、お姉様!」
アリアが叫び、瓦礫の海に一本の道を作る。 その瞳は、敬愛する姉の晴れ舞台を整える喜びに満ちていた。
「ええ、フィナーレね!」
白雪美流愛が、転倒したキョンシーの群れに飛び込む。 彼女のステップは軽やかで、戦場には似つかわしくないほど優雅だ。 手にした改造ペンライトから、青白い光刃が伸びる。
「刻みなさい!」
閃光。美流愛が駆け抜けた後には、切断されたキョンシーの頭部と四肢が転がっていた。 頸椎の駆動系を正確に切断し、再生機能を阻害する絶技。 舞うような殺陣。 それは、暴力でありながら、どこまでも美しい演舞だった。
「……援護します!」
天羽祈が、後方で杖を掲げる。極彩色の障壁を展開し、灯や美流愛たちに降り注ぐ流れ弾を防ぐ。彼女の額には汗が滲んでいるが、その瞳に迷いはない。
「アクセス完了。……タワー残骸の制御システムを掌握した」
鉄鏡花が、瓦礫の下に埋もれていたメインサーバーの端子に自身のコネクタを直結し、報告する。 彼女の義眼が高速で明滅し、膨大なデータを処理していく。
「敵の通信網を遮断。……これより、全砲塔のコントロールを奪う」
ドクター・メイの周囲に展開されていた防御ビットが、突如として向きを変えた。 銃口が、味方であるはずのドローンに向けられる。
「なっ……!? 私のシステムが!?」
メイが狼狽する隙に、ビットが一斉射撃を開始した。 同士討ち。 混乱する敵陣。 対空砲火が止み、赤竜への援護が途絶える。
「道は開けた! ……やれ、響! リーリン!」
鏡花が空に向かって叫ぶ。 彼女の演算によれば、赤竜の防壁が最も薄くなるタイミングは、今この瞬間しかない。
「鏡花式演算によれば、あと30秒でコアが露出する! ……外すなよ!」
その激闘を、遠く離れたビルの屋上から見つめる影があった。陳 幽寂。 彼は体を柱に預け、静かにキセルを吹かしていた。 紫煙が、風に乗って流れていく。
彼の視線の先には、天を駆ける二匹の龍と、地上で泥にまみれて戦う少女たちの姿があった。
「……見事だ」
老人は目を細めた。 かつて、彼ら四神が成し遂げられなかった「連携」。種族も、生まれも、背負う業も違う者たちが、一つの目的のために背中を預け合っている。その姿は、彼が長い間忘れかけていた「希望」そのものだった。
「行け、若き龍たちよ。……この街の未来は、お前さんたちのものだ」
チェン爺は、祈るように煙を吐いた。 それは、新しい時代の担い手たちへの、無言のエールだった。
上空数百メートル。轟音と爆炎の中、響とリーリンは赤竜の正面に位置取った。
目の前にあるのは、巨大な顎と、その下で赤く明滅する胸部装甲。 その奥深くに、李 小蓮が埋め込まれている。悲しき生体炉心。
「行くぜ、リーリン!」
「ええ、貫きましょう!」
二人は、螺旋を描いて急降下を開始した。重力に逆らわず、さらに加速する。 まるで、一つの流星になったかのように。大気が悲鳴を上げ、衝撃波が周囲の雲を散らす。
「グルァァァッ!!」
赤竜が、迎撃のために口を大きく開けた。喉の奥で、ドス黒い熱線が渦を巻く。直撃すれば、骨も残らない。 だが、二人は止まらない。止まるわけにはいかない。
「うおおおおおッ!!」
響の右拳に、全ての雷気が集中する。リーリンの左爪に、全ての風圧が収束する。 熱線が放たれるコンマ一秒前。 二人の攻撃が、一点で交錯し、赤竜の胸部装甲を直撃した。
ガガガガガッ!!
装甲が悲鳴を上げる。数千人の血液で精製された「賢者の石」の装甲が、物理的な破壊力と霊的な衝撃によって、蜘蛛の巣状にひび割れ、砕け散っていく。破片が散弾のように飛び散り、熱線が暴発して周囲の大気を焼いた。
煙が晴れる。露出した胸部の奥。 そこには、ガラスの球体があった。緑色の液体に浸され、苦悶の表情で眠るシャオの姿。 全身にケーブルが刺さり、肌が青白く変色している。 彼女の命が、赤竜の燃料として燃やされている。
「シャオ! 起きろ! 飯の時間だぞ!」
響が、喉が裂けんばかりに叫んだ。その声と共に、響の全身から放たれた雷鳴が轟く。
ゴロゴロォ……ドォォン!!
かつては、シャオを暴走させ、怪物に変えてしまった呪いのトリガー。彼女を傷つけた、忌むべき音。 だが、今は違う。 響の魂からの呼び声だ。「戻ってこい」という、切実な祈りだ。
『……響、ちゃん……?』
深層意識の底。暗く、冷たい水底に沈んでいたシャオの耳に、懐かしい音が届く。雷鳴。 だが、それは恐怖の音ではなかった。 屋台の湯気。肉まんの匂い。 そして、「うめぇ!」と笑い合った、あの夜の記憶。 それらは、ドクター・メイが植え付けた戦闘プログラムよりも、遥かに強く、温かく、彼女の心に響いた。
「……私は……」
シャオが、カッと目を開いた。 その瞳孔は、暴走時の濁った赤色ではない。 自らの意思を取り戻した、澄んだ茶色。
「私は……道具じゃ、ないッ!!」
内部からの拒絶。 シャオの意思が、赤竜の制御システムに逆流する。
エラー、エラー、エラー。
モニターが赤く染まり、赤竜の動きが硬直した。 振り上げられた巨大な爪が、空中で停止する。
「今だッ!!」
響が、ガラスの球体に向かって手を伸ばした。 高熱が皮膚を焼くのも構わず、彼女はそのガラスを素手で砕きにかかる。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




