第八話「双龍、天を焦がして」1
第一章 赤と青
魔都・虹海の上空。 そこは、神話の時代が蘇ったかのような、人智を超えた戦場と化していた。 かつて極彩色のネオンが輝いていた空は、今や黒煙と紅蓮の炎に塗り潰され、世界の終わりのような様相を呈している。
地上を焼き尽くそうとする『黙示録の赤竜』。その巨大な顎が開き、喉の奥で圧縮されたエネルギーが臨界点を超えようとしていた。 ドス黒い熱線。 それが放たれれば、スラムはおろか、虹海という都市そのものが地図から消滅する。
「……焼き払いなさい。旧時代の遺物ごと」
崩壊した虹海タワーの瓦礫の上、ドクター・メイは優雅に指揮棒を振るった。 彼女の周囲には、自律防御ビットが展開され、降り注ぐ破片を弾き返している。その瞳は、破壊の美しさに陶酔し、濡れていた。
「神とは、システムよ。……より効率的に、より広範囲に『死』と『再生』を管理する上位構造体。この赤竜こそが、その完成形」
だが。
その「管理された絶望」を切り裂くように、二条の光が地下から天へと駆け上がった。
一筋は、荒れ狂う蒼雷。もう一筋は、清浄なる青き風。
「吠えてんじゃねぇ! こっちは二人がかりだ!」
辰巳響が、雷を纏って飛翔する。全身の細胞が歓喜の声を上げている。 タピオカによる物理的なカロリー補給と、リーリンの覚醒によって活性化した龍脈のバックアップ。 二つのエネルギー源が直結し、枯渇していた彼女の器を満たし、溢れさせている。 指先一つ動かすだけで、大気が震え、雲が渦を巻く全能感。
「合わせなさい、響! 私の背中についてきて!」
その隣を、王 麗琳が翔ける。 かつてはボロボロの義体を引きずり、泥水を啜っていた少女はもういない。 全身をサファイアのような青い鱗の鎧で覆い、背中からは風を固めたごとき光の翼が生えている。
新生・青龍。かつてこの地を追われた神、王 恒龍の霊力を継承し、人と龍の境界を超えた存在。彼女が飛ぶ軌跡には、清らかな風が生まれ、赤い霧を吹き飛ばしていく。
「……サンプルデータ、更新」
メイが、不愉快そうに目を細めた。彼女の端末には、予測値を遥かに超える二つのエネルギー反応が表示されている。
「融合係数、測定不能。……馬鹿な。ただの人間と、落ちぶれた土地神が、なぜこれほどの出力を?」
「計算機ばっか叩いてるから分かんねぇんだよ、ババア!」
響の声が、雷鳴と共に轟く。
「1+1が2じゃねぇ! ……喧嘩ってのは、ノリと勢いと、ムカつく奴をぶっ飛ばす根性で決まるんだよ!」
「グルァァァァッ!!」
赤竜が、新たな脅威に反応して咆哮した。 生物的な怒りではない。プログラムされた「敵性体の排除」という命令が、過剰防衛本能を刺激したのだ。
背中の機械翼が展開され、無数のミサイルポッドが開く。シュシュシュシュッ!! 発射音と共に、数百発の追尾ミサイルが双龍を襲う。同時に、口からはドス黒い熱線が吐き出され、空を焼き尽くそうとする。 逃げ場のない、死の弾幕。
「遅い!」
リーリンが叫び、光の翼をはためかせた。神速の飛翔。彼女は直角に近い軌道で急上昇し、熱線を紙一重で回避する。 その際、彼女が通過した後に残る青い風の軌跡――真空の刃が、乱気流となってミサイルの群れを巻き込んだ。
「なっ……誘導が!?」
メイがコンソールを叩く。 ミサイル同士が空中で衝突し、連鎖爆発を起こす。 爆炎の雲を突き破り、リーリンが赤竜へと肉薄する。
「そんな鈍重な翼で、私たちが捕まえられると思って!?」
リーリンの瞳は、澄み渡る青空の色をしていた。かつて彼女を縛り付けていた劣等感も、嫉妬も、今は微塵もない。 あるのは、空を飛ぶことの純粋な喜びと、友と共に戦う誇りだけ。
彼女は風を操り、赤竜の背後に回り込む。 右腕に生えた鋭利な龍の爪が、赤竜の機械翼の付け根を捉えた。
「そこよ!」
ザシュッ!!
「ギシャアアアッ!?」
赤竜が悲鳴を上げる。 リーリンの爪が、鋼鉄の装甲ごとブースターを引き裂いたのだ。黒煙が噴き出し、赤竜の飛行バランスが崩れる。 科学で作られた翼が、神話の翼に敗北した瞬間。
「ナイスだ、相棒!」
響が追撃する。 彼女は、リーリンの作り出した気流に乗って加速していた。風が雷を運び、雷が風を熱する。 自然界における最強の相乗効果。
響は、リーリンが開けた装甲の隙間――剥き出しになった動力回路に狙いを定めた。 両手に雷を集める。 それは、アシュラツリーの時のような、周囲から借りた力ではない。彼女自身の魂から湧き上がる、混じりけのない神罰の光。
「テメェの自慢のオモチャ……ガラクタにしてやるよ!」
響が、雷撃の槍を突き出す。
「痺れやがれッ!!」
ドガガガガッ!!
高圧電流が、赤竜の神経系を駆け巡る。 絶縁体が溶解し、制御システムが激しくスパークする。 赤竜の動きが一瞬停止し、空中で硬直する。
「……あり得ない」
地上で見上げる久遠灯が、感嘆の声を漏らした。 彼女はM500の排莢をしながら、空を見上げている。
「風が雷を呼び、雷が風を加速させる……! まるで、最初から一つの生き物だったみたいだ」
かつて殺し合った二人。嫉妬と劣等感で歪んでいた関係。 だが今は、互いの呼吸を完全に理解し合い、互いの死角を補い合う、最強の双龍となって空を舞っている。数千年の時を超えて、東と西の龍が再び手を取り合ったのだ。
「おのれ……! 調子に乗るな、旧人類どもが!」
ドクター・メイが、怒りに顔を歪めた。彼女はコンソールのリミッターを解除する。 赤いボタン。『強制排除モード・起動』。
「見せてあげなさい、アポカリプス! 科学の髄を!」
赤竜の全身から、赤い蒸気が噴き出した。 オーバーヒート寸前の駆動音。 停止していた動きが、爆発的な速度で再開される。 赤竜は空中で身を翻し、その巨体からは想像もできない速度で響に体当たりを敢行した。
「くっ、速ぇ!?」
響が反応するが、避けきれない。 数千トンの質量が、隕石のように迫る。
「響!」
リーリンが叫び、風の障壁を展開して割り込む。だが、赤竜の突進は障壁ごと二人を吹き飛ばした。
ズガアアアァン!!
二人は空中で弾き飛ばされ、きりもみ回転しながら落下する。
「ハハハハッ! 所詮は生物! 質量と出力の差は絶対よ!」
メイの高笑いが響く。 赤竜は追撃の姿勢に入る。 口を開け、至近距離からの熱線発射体勢。
「……終わった?」
「いや、まだだ」
響は、空中で体勢を立て直しながら、ニヤリと笑った。 隣を飛ぶリーリンと目が合う。 言葉はいらない。 同じ痛みを共有し、同じ釜の飯を食った者同士の以心伝心。
「リーリン! 手ぇ貸せ!」
「ええ、使いなさい! 私の全部を!」
リーリンが、響の手を掴む。 瞬間、青龍の霊力が、響の雷へと流れ込んだ。風と雷が融合し、プラズマの色が、青白から黄金色へと変化する。
「行くぞ、リーリン! 次は脳天だ!」
「ええ、合わせなさい!」
響とリーリンが、螺旋を描いて上昇する。赤と青の光が絡み合い、DNAの螺旋構造のように一つになって、赤竜へと急降下していく。
その光景は、まさに神話の再現。天を焦がす双龍の牙が、偽りの神の喉元へと突き刺さろうとしていた。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




