第一話「魔女狩りの夜、紅(くれない)の逃走」2
第二章 赫き荊棘
ルシウスの放った聖銀の杭が、灯の心臓を貫く寸前。
バチィッ!!
横合いから伸びた「真っ赤な鞭」が、杭を弾き飛ばした。鞭は生き物のようにうねり、その表面には無数の鋭利な棘が生えている。血でできた荊棘。 それが、灯とルシウスの間に障壁となって立ちふさがる。
「……無粋ねえ。人が目をつけている獲物を、勝手に壊さないでくれる?」
崩れた壁の向こうから、甘美で退廃的な煙草の香りが漂ってきた。雨と血の臭いが充満する戦場には不釣り合いな、濃厚な香気。
「誰だ!」
ルシウスが十字架を構え直す。 瓦礫を踏みしめ、姿を現したのは一人の美女だった。
派手な真紅のチャイナドレスの上に、黒い革ジャンを羽織っている。 目元を隠す丸いサングラス。指には、長い煙管が握られている。 その口元から吐き出された紫煙が、蛇のように絡みつく。
ベルベット・ミラー。 吸血鬼の三大一族の一つ、ミラー家の当主。 古き血を引く、高貴なる夜の支配者。
「貴様は……ミラーの女狐か」
ルシウスの表情が、初めて感情を露わにして歪んだ。彼らにとってベルベットは、欧州で幾度も煮え湯を飲まされた因縁の敵であり、排除すべき「魔女」の筆頭だ。幾多のエクソシストが、彼女の棘に絡め取られ、血を吸い尽くされてきた。
「久しぶりね、神父様。相変わらず堅苦しい顔」
ベルベットは、サングラス越しにルシウスを見下ろした。
「神の名を借りて殺戮を楽しむなんて、私たち吸血鬼よりもタチが悪いわよ?」
「黙れ、汚らわしい吸血鬼め!」
ルシウスがガトリングガンを掃射する。だが、ベルベットは優雅に指先を振るうだけだった。
「『赫き荊棘』」
彼女の傷口――自ら噛み切った唇から溢れ出た血液が、瞬時に硬質化し、鋼鉄の荊棘となって彼女を覆う。弾丸の雨は、血の盾に弾かれ、あるいは飲み込まれて無力化される。灯の「霧」とは対照的な、物理的質量と殺傷力に特化した、暴力的な血の力。
激しい攻防の最中、ベルベットはちらりと灯を一瞥した。 その視線には、同情も共感もない。 あるのは、出来の悪い身内を見るような、冷ややかな嘲笑と、所有欲だけだ。
「無様ね、灯。……レオンハルトの血を引きながら、こんな人間ごっこで消耗してるなんて」
「……誰だ、テメェ」
灯が血を拭いながら睨みつける。この女からは、自分と同じ「匂い」がする。だが、その濃度と純度は、灯のそれを遥かに凌駕していた。圧倒的な「格」の差。
「ベルベット・ミラー。……アンタの『従姉妹』みたいなものよ」
彼女は、灯を助けに来たわけではない。 聖槍異端監察庁(H.L.O.H.)が極東で動き出した今、レオンハルトの眷属である灯が、みすみす「狩られる」のを良しとしなかっただけだ。 あわよくば自分の陣営に引き込み、対抗戦力として利用するために接触してきたのだ。
「ここはもう戦場よ。……このままここにいれば、アンタたちは確実に全滅する」
ベルベットは、懐から一枚のチップを灯に投げ渡した。灯が受け取る。中身は、闇ルートの乗船券と、ある都市の地図データ。
「生き残りたければ、西へ行きなさい」
ベルベットが、煙管で西の方角を指す。
「虹海。……そこを経由して、西の果てを目指しなさい。そこに私たちが待つ『夜の続き』がある」
「虹海……?」
「私の縄張りよ。……そこなら、神父様の聖なる弾丸も届かない」
ベルベットは、サングラスを少しずらし、真紅の瞳で灯を覗き込んだ。 それは、迷い子を導く姉のようであり、同時に、獲物を誘う魔女の顔でもあった。
「そこで死ぬか、生き残って私を楽しませるか、選びなさい。……愛しい『灯』」
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




