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千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
9/30

【1-4】龍封じの山脈にて

 それから約一週間。準備も兼ねてだが、俺はマシロの社で過ごしていた。

 女……マコトは、よくマシロを手伝っていたが、時折俺が稽古をしていれば、その横でマコトも薙刀を振るっていた。


「……」


 真剣な眼差しで力強く振るう。それに思わず手を止め、そちらを見れば、長い黒髪がふわりと舞うのが見えた。


「……」

「どうした。マコトを見つめおって」

「別に」


 マシロに言われ素っ気なく返すと、自分も手を動かす。短刀を振ったり、身体を動かしながらも、俺はマコトの姿を思い浮かべながら、ある疑問を抱いていた。


(マコトに見覚えがあるのはどうしてなんだ)


 以前にも会った事があるのだろうか。……けど、何故下層の人物と?


(俺は生まれながらにして上層の人間な筈なんだがな)


 はて……と一人首を傾げれば、マシロの視線を感じ振り向く。マシロは俺を見るなりクスリと笑っていった。


「集中出来ておらぬ様だな」

「うるせえ」


 眉間を寄せて返した後、家の中に入る。するとマコトも手を止めると、俺の名を呼ぶ。


「もう止めるのか」

「……ああ。明日から出るしな」


 お前も程々にしとけよと言えば、マコトは薙刀を下ろして中に入る。マシロは縁側から空を見上げると、「雨が降りそうだな」と言った。

 その夕方。マシロの言う通り白蛇の社に雨が降った。マコトと出会った日の様に、雷が鳴り、激しい雨と共に風の音も聞こえる。

 そんな嵐の中、外の事など他所事の様に気も留めず、俺達は明日の準備をする。


(傷薬と包帯は入れたが……後はそうだな)


 数日前手に入れた魔鏡(まきょう)領域の地図を手に取り、眺めると、マコトがこちらに近づき覗き込む。

 思った以上に近いマコトに、咎める様に「近いぞ」と言うと、マコトは少し身を離しつつ言った。


「これがこちらの魔鏡領域か……広いな」

「そうか? こっちとあまり変わらないだろ」


 マコトの呟きにそう返せば、マコトは笑んで「そう言われたらそうかもな」と返す。して、僅かに寂しげな表情を浮かべ言った。


「きっと私の知らない世界が沢山あるんだろうな。……いいな。羨ましい」

「……行こうと思えば行けるんじゃないのか?」


 下層でも。恐らくは似たようなものでは無いのか。

 そういうと、マコトは目を瞑って呟いた。


「それが出来たら良かったんだけどな」

「……?」

「……あ、すまない! 何でもない!」


 寂しげな言葉の後、マコトは慌てて謝れば立ち上がる。そして話題を変える様に「今日の夕飯はなんだろうな」と笑って話しつつ背を向ければ、俺は呆然としてマコトの背を眺めた。


(何なんだ、一体)


 しばしマコトを見つめた後、正面を向く。手にしていた地図を傷薬などが入った風呂敷に入れれば、深く息を吐いて風呂敷を閉じた。


※※※


 若干気まずい空気のまま、次の日を迎え、俺達は社を出る。その際に、マコトを送った後をマシロに訊ねられれば、俺はしばらく考えつつも「魔鏡領域を旅する」と言った。

 それを聞いたマシロは「ほう」と何故か感心した様に声を漏らせば、こう言ってきた。


「ま、たまには良いのではないか? 茶葉も沢山あるしの」

「いい加減自分で行ってもらいたいもんだがな」

「頼めない時は行くさ」


 ほら、さっさと行って参れと、マシロは手を追い払う様に振れば、俺は舌打ちする。

 そのやりとりにマコトは苦笑いすれば、薙刀片手に俺の後をついてくる。

 白蛇の森を抜けてすぐ、視界に入るのは領域を分け隔てる高い山並み。そこに向けて歩いていくと、マコトは道端のある物を見て聞いてくる。


「なあ、キサラギ。先程からあちこちで小さな祠が見えるのだが」

「ん、ああ。それか」


 マコトの視線と同じ方を見れば、小さな石で作られた祠が目に入る。年季が入っていたが、今も誰かが手入れをしているようで、新しい供え物もある。

 その祠の中には龍を模った小さな石像が見えた。


「これは山脈に眠る龍を祀っているんだろ」

「龍?」


 別名・龍封じの山脈。そんな名がこの山脈に名付けられている。

 というのも遥か昔。この地には山脈の代わりに大きな川があったらしい。それを魔鏡守神(まきょうのまもりがみ)が領域を分ける際に、川を山で封じてしまったという。


「と言ってもマシロの受け売りだけどな」

「へえ……そんな話が。けど、可哀想だな」

「何がだ」

「だって、龍封じという名が付いているという事は、その川には龍神様が宿っていたという事だろう?」


 だからああして祀られているのだから。とマコトは先程の祠を見て言う。俺はそれを聞いた後「確かにな」と返すと、山の登山口に進む。

 山脈にはいくつかの道がある。一つは旧山道という、かつて流通の為に整えられた道である。数年前まではこちらを使っていた様だが、距離があり魔物が最近よく出るという事で今はあまり使われていない。

 二つ目はそれに変わる新しく整えられた新山道。こちらは道幅も広く、比較的人がよく通る。本来ならばこちらを歩きたい所なのだが、今回の目的地からは一番離れた道である。


(残るは)


 旧山道の登山口から入り、少し歩いた所で出てくる道。舗装されたそちらとは違い、苔の覆われた看板には、微かに【旧山道】と書かれている。

 旧山道と書かれているが、今は()旧山道である。一番最初に作られた道であり、今は誰も使わない危険を伴う道である。


(とはいえ、地図的にはこちらが一番近いんだよな)


 安全を考慮して、遠回りという手もあるがと、いくか行かないかで迷っていれば、マコトはそちらの道を見て「行かないのか?」と訊ねる。


「いや……行っても良いんだが」

「? ……ああ、でも。そちらの方が近いのだろう?」


 だったらそっちが良いんじゃないかと言われ、俺は黙り込む。どうやらマコトは行く気満々らしい。


(だったらそっち行くか)


 そう思い、一番古い山道に足を踏み入れると、マコトと共に歩いていった。

 入って早速試練が訪れた。舗装が壊れている……のは想定内ではあったが、それに合わせて、大きく谷に向けて抉られている様に崩れている部分があった。


(最初からいきなりこれか)


 早くも後悔していると、マコトもまた薙刀を握りしめて崩れた道を青ざめて見つめる。


「まだ引き返せるが、どうする?」

「そう、だな」


 引き返すか。マコトの言葉に頷き、旧山道へ戻ろうとする。と、振り向いた瞬間、山から転げ落ちる様に巨大な猪が現れた。

 落石を伴った登場に、腕で顔を覆いつつも、様子を伺えば赤い瞳がギロリとこちらを見つめる。毛も何だか青黒く見えた。

 猪は前足で地面を蹴りつつ威嚇すると、俺はマコトを背後に隠す。


(くそっ、道塞がれた)


 こうなったらもう、崩れた道を渡るしかない。

 鼻息を立てる猪は脚に力を入れると、真っ直ぐこちらに駆けてくる。

 その速さに反射的に振り向けば、マコトを抱き上げて走った。


「ッ、キサラギ⁉︎」

「喋るな! 舌を噛むぞ!」


 そう叫ぶと、地面を蹴り、壁に向かって飛ぶ。そしてそのまま跳ね返る様に、向こう側まで飛ぶと、猪もまた飛んだ。


「んだよ! それ!」


 そんなのありかと思わず叫べば、このまま山道を走っていく。猪はかなりしつこく追いかけてきた。


(くっそ、どこかで仕留めねえと……!)


 キリのない鬼ごっこに、俺は周囲を見渡す。と、道の先が見えなくなり、足を止めてしまう。


(しまっ……!)


 足を止めてしまった事で、猪との距離が近づく。

 絶対絶命の危機に、俺は歯を食いしばり覚悟を決めると道のない先に向かって走る。

 駆けた先は白く輝いた後、白く水飛沫の舞う川。それに向かって二人揃って落ちていけば、猪も制止できず共に落ちていった。


 それから少しして、揺さぶられる感覚に目を覚ますと、マコトが心配そうな表情でこちらを見下ろす


「だ、大丈夫か?」

「あ、ああ……」


 所々痛むが幸いにも大きな怪我はなさそうである。

 ぐっしょりと濡れた着物に嫌悪感を感じつつも、身を起こせば、マコトは安堵して立ち上がる。彼女もどうやら無事の様だった。


「にしても、まさか猪が襲ってくるなんてな……しかも大きな」

「あれは恐らく魔物化した猪だろうな」

「魔物化? じゃあ、あれはもう食べられないのか」

「食べ……おい待て」


 今なんて言った。とマコトを凝視すれば、マコトはそっとある方を指差す。そこには川岸に横たわるあの猪がいた。その身には何故かマコトの薙刀が刺さっている。


「川岸に上がった途端、あの猪が尚も襲ってきたから刺したんだ」

「……」


 いつの間に。というか意外と逞しかったんだなと思いつつ、俺はスッと息を吸うと「そうか」と静かに言った。

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