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千神の世  作者: チカガミ
序章 記憶を失った少年
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【0-5】鬼の子(マシロside)

 桜宮(おうみや)が挙兵し、ヴェルダから例の魔術師を連れ出してから数週間が経った。

 あの後、ヴェルダが何かするかと警戒をしていたが、依然ヴェルダはその様な気もなく妙に静まっていた。

 縁側にて、再びやってきた蒼龍(そうりゅう)から各国の魔術師に対する処遇の事の話を聞くと、ちらりと背後の部屋を気にしつつ告げた。


「その魔術師には、数年位は屋敷に閉じ込める様言っておいた方が良いかもしれんな」

「閉じ込める……ですか?」

「ああ」


 まあ、主にこちらの事情ではあるのが。そう思いつつ茶を啜る。蒼龍ははてと首を傾げていたが、わしが背後に視線を向けると、納得しつつ声を漏らした。


「なるほど……そういう訳ですか。でも、良いんですか邪魔して」

「少なくとも今のあやつにはそれぐらいはしてやらないと」


 そう返せば蒼龍は難しい表情を浮かべつつ頷く。

 そんなキサラギはというと、傷からの熱は下がったものの未だに体調が良くなく、ずっと横になっていた。

 食欲もないらしく全く食べない日もあれば、口にしてもすぐに吐いてしまう。そして、時には悪夢などによって取り乱す事も多々あった。


(正直、あの調子だと長くはないかもしれんな)


 まともに食事も取れなければ、体力も戻る筈がなく。見る見るうちに弱っていく様子に、こちらも気落ちしてしまう。

 だったら最期に好き勝手させた方が良いのかもしれないが、それはそれとして復讐だけは制止したい気持ちもあった。

 そう考えているうちに頭が痛くなって、ついため息を吐いてしまえば、蒼龍は苦笑して言った。


「ご苦労なされている様で」

「ああ……全くだ」


 拾ってきたのは自分とはいえ、色々と厄介な事になって半分後悔はしている。それでも幸福を司る神である以上、お節介だと分かっていても放ってはおけなかった。

 わしは空になった湯呑みを下し膝の上に置いた後、蒼龍は隣で足を交互に振りながら(くれない)様の話をした。


「キサラギさんの事、紅様に話しました」

「もう話したのか」

「はい。……それで、やはり(きさらぎ)村の事も含めて気にかけていらっしゃいました」


 その一方でと、蒼龍は振り向きながら話す。


「キサラギさんの血筋含めて、明確な事は言えないみたいなんですけど……もし仮に下層から来たとわかってもすぐには帰せないみたいなんです」

「それは、多分記憶を失っているからだろうな」

「はい。それと、そもそもこちらに来たきっかけが分からないからってのもあります。誰かに連れてこられたのか何なのか……それが分かるまではって」

「……なるほどの」


 結局の所、彼本人が我を失っている以上は下層に帰しても無駄だって事だろう。家元だってあんな状態の彼が戻って来た所で困る筈だ。

 となると……やはり。


(最期までわしが世話をするしかないかの)


 再度息を吐けば、蒼龍は困り笑いを浮かべつつ言った。


「僕も度々様子は見にくるので! ね……!」

「そう言って、茶を飲みにくるだけではないか」

「お茶も飲みますけど!」


 ね! 頑張りましょう!ね!

 そう蒼龍に圧をかけられつつ、渋々わしは頷いた。


※※※


 そんなこんなで気が付けば八年が経った。

 当時はもう駄目かと思っていたキサラギは、数ヶ月後気を持ち直したのかそれから食べる様になり、無事に持ち直し成長して、今は十九歳の青年となっていた。

 形見である赤い羽織を着、鬼村の頭領の様に素早く動き森を駆けるキサラギは、今も尚あの魔術師を探していた。


(あちらももう、姿を現し始めた頃かの)


 進言通り、桜宮は暫しの間魔術師を表から隠していた。けれども時が経ったという事もあり、最近では桜宮の魔術師として活躍しているという。

 湯呑み片手に庭で一人稽古をするキサラギに、「頑張るの」と呟けば、キサラギは手にしていた短刀を鞘に戻して言った。


「当たり前だ。俺はあの魔術師を倒さなきゃならねえからな」

「……そうか」


 変わっていない強い意思。もうこれ以上邪魔をするのも野暮かと思いつつ。わしは静かに茶を啜った。

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